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陰陽師姫の宮中事件譚  作者: ふう
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第三章 陰陽師姫の失恋と最後の戦いの話 十

翡翠のモテ期

押し寄せる女達はお約束



 次の日、伽羅は再び先日の話し合いの続きのため淑景舎へ向かった。

 相変わらず淑景舎には人が多く、立太子の礼を控え慌ただしい感じた。


「伽羅姫様ー!」


と、駆け寄ってきたのはかるらだ。


「かるら、ここでの様子はどう?忙しそうね。」


「はい。毎日いろんな準備でバタバタしています。」


 かるらの話によると、皇子様も毎日、東宮になるための講義や雑務や剣や弓の鍛錬と、忙しくしておられるらしい。

 その間にも、少しでもお近づきになりたい女達があの手、この手で押し寄せて来るらしい。

 文や贈り物はもちろん、皇子様の前でわざと落し物をしたり、何も無いのに転んだり、なぜかぶつかったり、寝所に忍び込もうとした女もいたそうだ。

 その都度、橘侍従と、真白、かるら、玄丸で対応したり阻止したりと別の意味で忙しいとかるらは笑った。

 伽羅はちょっとした疎外感を感じながら打ち合わせに向かった。



「早速だが本題に入る。その後何か分かったことはあったか。」


と、皇子が集まった三人を見る。


「はい。曽祖父の日記の続きに、弘順帝の同承八年に、我が一門の本家であった洞院の関白とその長子の内大臣が相次いで亡くなり、その後曽祖父が氏の長者になったようです。

『畏れ』が何かは記されていませんでしたが、我が一門を始め、その同じ年に急に高位貴族の何人かが亡くなっているようです。」


と、頼子姫が報告する。


 大江学士も、


「皇家の歴代の文脈を記した『皇帝紀』によりますと、弘順帝には妃が二人いて、在原氏の(むすめ)と藤原氏の女でそれぞれに皇子が一人ずつとありますが、その後の記載は無く、次の年号である宝和元年に、弘順帝にとっては従兄弟の子になる宣明帝が帝位を継いでおられます。

皇子が二人もいたにも関わらず、何らかの理由で弘順帝の直系の血脈が途絶えたと考えられます。」


と、述べた。 皇子が


「その時代に疫病が流行したとかはないのか。」


と、問う。


「はい。そのような記録もございません。」


「では、その同承八年に、藤原氏の者が二人、帝が代替わりするということは帝を含め、皇子が二人、高位貴族と、少なくとも(まつりごと)の中心となる者六人以上が記録から消えたということか…。」


と、皇子が唸る。


「ではその年に政変があったという事は?」


と、問う頼子姫に、大江学士が


「私もそれを考えましたが、調べてもそれを匂わせる記録もありませんでした。」


と答える。


 考えこむ三人に、伽羅が遠慮がちに口を開く。


「あの、陰陽寮に保管されている業務を記した日誌に、同和八年の三月に、都の入口の水越口に陰陽師を派遣したと記録があり、同じ年の六月にも水越口で鎮魂(たましずめ)を行うとありました。

六月に鎮魂を行うことは思い出す限り無いことですし、水越口で行うということに関しても前例はありません。

何か関連があるのでしょうか。」


 伽羅から聞かされた思ってもみなかった報告に、他の三人は考えこむ。


「伽羅殿の言うように、確かに不自然な感じはありますね。水越口に何かあるのでしょうか。」


と大江学士が呟く。


「不吉な火球が現れた年に不自然な時期と場所で鎮魂が行われている…。

伽羅、心当たりはあるか?」


と、皇子が伽羅に尋ねる。


「その、推測に過ぎないのですが…

元々陰陽道では星というのは人の魂を表します。

赤い色は強い恨みを意味します。

そして鎮魂の儀は魂を鎮める儀式です。

同承八年より前に何か強い恨みを持って人が亡くなる事件や争いがあったのではないでしょうか。」


「まさか怨霊が出たと…。」


頼子姫は呟いたあと、ふるりと自分の身体を両手で抱いた。


 恐ろしい懸念に誰も答えられる者はいなかった。



 

 話し合いが終わり、皆が暗い顔で庇の間を去ろうとした時、翡翠が伽羅に話があると引き止めた。


 久しぶりに二人きりになったこの場所で、伽羅はあの雪の夜のことを思い出していた。

あの温もりに触れたことは伽羅の心に秘めた大切な思い出だ。


 ようやく翡翠が口を開く。


「実は、今度の立太子の礼の夜の、その…添臥のことなんだが…あの…」


突然、翡翠の言葉を遮るように橘侍従の声が響く。


「あっ、姫様お待ち下さい!」


ばさっと御簾を潜って少女が入って来た。


「あっ。翡翠お兄様、こちらにいらしたのね。」


 艶やかな黒髪に桃色の頬、きらきらした瞳の花の蕾の綻ぶような可憐な美少女がニコニコしながら入ってきた。


「瑠璃…。」


「ごめんなさい。お話中でしたか。筝の合奏の練習に。待ちきれなくて…。」


と上目遣いで翡翠をじっと見ている。


(この方が瑠璃姫様…。)


 一の皇子の妃候補だとかるらから聞かされていた兵部卿の宮の姫かと、伽羅は目の前の二人の親しそうな様子を呆然と見ていた。


「それでは私は失礼致します。」


と、言い残し部屋を飛び出した。


「伽羅!待て!」


と呼ぶ翡翠の声がしたが、とにかくその場を離れたくて、伽羅は淑景舎を後にした。









妃候補の三人目登場

ヘタレな翡翠



お読みいただきありがとうございます。

不定期投稿になりますがよろしくお付き合い下さいませ。

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