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陰陽師姫の宮中事件譚  作者: ふう
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第二章 陰陽師姫の初恋と受難に遭う話 二十四

事件のその後。



 紅葉の美しかった三条邸の庭の木々もすっかり葉を落とし、冬の気配を感じさせる。


 あの日から数日経った日の午後、伽羅は庭近くの庇の間に座り、かるらからあの事件のその後の顛末を聞いていた。

 膝の上には真白が丸くなって眠っている。


「伽羅姫様良かったですね。疑いが晴れて。」


 機嫌が良さそうなかるらに伽羅も口元を綻ばせる。


「ええ、でも全て元通りというわけにはならなかったわね…。」


 典侍の職を失い、追われるように三条の屋敷に戻って来た伽羅は、容疑が晴れても復職とはならず、あれからずっと自宅で過ごしていた。


 そしてこの事件により変わってしまった人達について思いを馳せる。


 一の皇子を呪詛し、伽羅を犯人に仕立てた左大臣藤原師頼は真犯人と認められたが、表向きにはすでに病死と発表された。

 共犯であった弘徽殿の中宮であるが、直接呪詛には関わっておらず、身分もあるため病気療養として密かに出家し、近々何処か都を離れた山寺へ蟄居させられることとなった。

 二の皇子については、呪詛のことは全く知らず、二条の左大臣邸へ祖父と母の見舞いに訪れた際に運悪く出くわした怪異(もののけ)により負傷させられそのまま左大臣邸にて怪我の療養を行うと発表された。

 もちろん、謹慎、閉門とされていた源雅忠と実重の処分は解かれ、復職し、二人とも毎日陰陽寮へと出仕している。


 あれから一の皇子とは事件の聴取を行った時に顔を合わせたが、後始末で忙しくされているそうで会うことはない。

 今回の事件で呪詛に遭いながらも何事も無く、追捕使として見事に真犯人を自ら捕縛し事件を解決し、()()()()そこに現れた怪異(もののけ)を討伐したとしてますます評判を上げていると聞いた。


 二の皇子が怪我を負い、今まで強力な後ろ盾であった左大臣と中宮の二人を同時に失った今、一の皇子の東宮への立太子の期待は大きくなるばかりだ。


 そして一の皇子の呪詛を解き、左大臣邸に現れた怪異を見事に調伏したとして伽羅の陰陽師としての評判も高いとかるらが嬉しそうに語ってくれた。


 伽羅は思う。

今回の事件も根底にあったものは人の「想い」だ。

 愛情も憎悪も欲も全て人の心が強く望んだ想いから端を発している。

 その想いのありようで、人は翡翠を呪いより守った母のように守護神にもなるし、嫉妬や欲望などのどす黒い悪意に狂った悪鬼にもなる。

 そして、呪詛と解呪も正反対のチカラだが、同じ人の心の強い想いだ。



 左大臣家の家令の男が検非違使の取り調べで語った話が蘇る。


「ご主人様は昔はあのようなお方ではありませんでした。

今から思えばご主人様が変わられたのは、姫様、いえ今は中宮様が入内された頃からだったと思います。

中宮様もお小さい頃は慎ましやかで美しいお方でした。

それが妃となられ、待望の男御子をお産み遊ばしてから、お二人とも変わって行かれました。」


 家令の男は深い皺の刻まれた顔をますますしかめ息を吐いた。


 「中宮様が入内された頃よりご主人様が怪しげな陰陽師を呼ばれていたのは知っていました。

でも、他家でも娘が入内して男御子を授かるように祈祷する事はそう珍しい事ではありますまい。

でもそれが何かおかしいと感じたのは(さき)の中宮様がお亡くなりになった頃でした。

ご主人様は姿形は変わらないのに、中身が別人かと思うほどで、まるで権力に取り憑かれた鬼のようでした。

中宮様も酷く何かに悩まれているようなご様子で、夜中によくうなされていたと侍女から聞きました。

裏庭の奥にあのような建物を建て、怪しげな陰陽師が出入りしていましたが、私共使用人は近づくことを禁止されておりました。

でも、お二人とも、昔とは変わってしまいましたが、ここ十年ほどは落ち着いておられるようで、私も以前の事はすっかり忘れていたのです。」


 家令の男は大きく身震いした。


「半年ほど前より、急にまた陰陽師が出入りし始めました。

不安に思いながらも様子を見ておりましたが、しばらく前、裏庭の建物よりけたたましい悲鳴がしましたので、心配になり皆で駆けつけたところ、中に今まで見たこともない恐ろしげな鬼のようなものがいたのです。

ぐったりした陰陽師らしい男を掴み、血だらけの大きな体で睨まれ、私はあまりの恐怖に慌てて外に出て、夢中で閂をかけ、護符を貼り、使用人達に見たことを話さないように口止めしたのです。」


「あの恐ろしげな怪異(モノ)が何だったのかは私には解りません。が、

その日以来、ご主人様の姿を見た者はおりません…。」


 

伽羅の静かな日々…。


お読みいただきありがとうございます。

不定期投稿になりますがよろしくお付き合い下さいませ。

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