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陰陽師姫の宮中事件譚  作者: ふう
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第二章 陰陽師姫の初恋と受難に遭う話 二十三

注意 グロテスクな表現があります、


伽羅と翡翠の二人の戦いが始まる

いよいよクライマックス!



 突然現れた初めて見る異形のモノと変わり果てた母の姿に、二の皇子は痛さと恐怖に顔を歪め、血に汚れた左肩を手で抑えながらなす術もなく震えていた。


 混乱した意識の中で武装した一団がこちらに向かって来るのにやっと気付いた。


「兄上か…?

源典侍!なぜお前がここに⁈」


と、目を見開く。


「陰陽師にございます。」


 伽羅は二の皇子を見て駆け寄り、止血し、小さく呟き穢れた傷口に祓いの呪を掛ける。

 倒れている中宮にも手を伸ばしたその時、ドーンと建物の壁が大きく倒れた。


 土ぼこりが収まると、中の様子がはっきりと見えた。


血のような赤黒いシミで汚れた薄暗い室内には護摩壇と、(しで)や呪詛に使われたらしい甕などの道具が散らばっている。

 その周りにぼろきれと、散乱しているものは、よく見ると食いちぎられたようなバラバラになった骨と人の屍だった。

少なくとも四体、長い髪の毛が残っているものもあり、そのうち一体は女のもののようだ。

 穢れた濃い瘴気が立ち昇り、腐臭と焼けた芥子の実の臭いが立ち込め、その凄惨な場を見て屈強な男達だが何人かが思わず口を押さえ嘔吐(えづ)いていた。


「ここは…。」


 青褪めた顔で翡翠が呟く。

伽羅も震える足に力を込めて答える。


「ここで呪詛が行われていたと見て間違いないでしょう。解呪した時と同じ臭いと呪いの残滓を感じます。

あの屍はおそらく呪詛を行っていた陰陽師達でしょう。」


「ではあの異形(もののけ)は…。」


「ええ、多分、呪詛を行っていた張本人かと。

呪いを跳ね返された代償であのような姿に…。」


「では、あれが左大臣なのか!」


 驚愕する翡翠に真白が、


「いや、もう鬼だ。

疾うに人の心は無くなっている。欲しかもたぬ悪鬼だ。」



 突然、バキバキと音がして、残骸の中から倒れていた鬼がのっそりと起き上がった。


「まだ動けるのか!」


橘侍従が叫ぶ。


「来るぞ!構えろ!」


 翡翠の声に男達が太刀を構え、矢を番えた。

伽羅も呪符を取り出し右手に小刀を構える。


 鬼はギロリと濁った目で辺りを見回し、高く跳躍し男達の中へ降り立つ。

そして長い腕を振り回し、鋭い爪で大柄な男達を次々に弾き飛ばし切り裂いた。

 太刀を振りかざした男の腕を掴み頭から噛みつこうと牙のある口を開ける。

 寸前のところで伽羅が飛ばした呪符が閃光を放つ。

その光にバチッと弾かれるように男を放した鬼に、翡翠が、残りの男達が切り掛かり矢が刺さる。

 だが、後ろへ大きく飛び退いた鬼は、矢を引き抜き刀傷はあるものの、樹皮のような硬い皮膚に覆われ深傷を負わすまでには至らないようだ。

 そして獣のように両手を地につけて走り、また男が一人薙ぎ倒された。

 動きが早い。

何度か切り掛かるが硬い皮膚に弾かれ、そのうち一人の男が鬼に頭を掴まれ、牙のある大きな口が近づいてきた。

 翡翠が咄嗟に太刀を口へと差し入れた。

が、ガキッと鋭い音がして太刀は先端部分が折れてしまった。

 男は何とか逃れることができたが、翡翠は体勢を崩して地面に転がる。

その上に鬼が襲いかかった。


「危ない!」


 伽羅は叫びながら放った呪符は鬼の目を塞ぐように顔に張りついた。

 唸り声を上げ、呪符を剥がそうと暴れる鬼に真白が青白い炎をはいた。


 その時、ピーッと高い鳴き声とともに金色の長い尾を持つ大きな鳶が急降下してきた。


「かるら!」


 かるらは花喰い鳥の付喪神だが、「迦楼羅」の名の通り仏法の守護神である神鳥でもあった。

 嘴に咥えた金色の枝を見上げる伽羅達の上に投げ落とす。

 くるくると回りながら落ちてきた金色の枝は翡翠の手の中で輝きを増し、一振りの(つるぎ)となつた。


「翡翠、その剣で鬼の首を刎ねろ!

伽羅、穢れの浄化を!」


真白が叫ぶ。


 伽羅は炎に包まれ悶えている鬼の正面に立ち、両手で印を結び尊勝陀羅尼の呪を唱え始める。

 その前に翡翠は片膝をつき、両手で直刀の剣を逆手に握りしめ構える。


「オン!!」


 伽羅の気合いとともに呪符が白い光を放つ。

翡翠は下から上へ剣を力いっぱい振り上げるように鬼の首めがけて跳んだ。


「ギァァァァァーッ!」


 耳をつんざくけたたましい悲鳴とともに鬼の首が見事に飛んだ。

頭を失った体は黒い血飛沫をあげドッと地に倒れた。



 全ての者達が目を見張る中、片膝をつき肩で息をしている翡翠と、両手を前に突き出し印を結んで息を切らしながら立ち尽くす伽羅の姿があった。


 歓声を上げる男達の間を通り越し、翡翠はまだ金色の光を纏った剣を手にして、後方で震えながら抱き合っている中宮と二の皇子の前へ立った。

 

 二の皇子を背に庇うようにして翡翠を見上げる中宮は、冷たい美貌と豊かな黒髪を誇ったその容姿は見る影もなく、今、目の前にいるのは醜い老女だ。

 切り裂かれはだけた衣の間から、肋骨の浮いた胸にの上に黒々とした蛇のような鱗が見えた。


「殺せ。」


静かに中宮が言い放つ。


(わらわ)も鬼ぞ。

そなたの母を呪い殺した鬼ぞ。

嫉妬に狂い生霊と成り果て、地獄の業火に焼かれる鬼ぞ。

我も殺せ!!」


「母上!」


 涙を流しながら二の皇子が叫ぶ。


「もはや母では無い。

とうの昔に人間(ひと)では無くなっておる。」


 怒りを滲ませた翡翠が剣を構える。


「お待ち下さいませ!切ってはなりません!

この方は子を守ろうとする母です。

まだ鬼ではありません!」


 伽羅が翡翠と中宮の間に手を広げて立つ。


「人には人の裁きがございます。

人間(ひと)として最後まで自分の罪を償いなさいませ!」


 その言葉に中宮は観念したのか嗚咽を漏らし泣き崩れる。


「おおおぉ…。

憎かった…。

憎かった…。

愛されているあの女を!

入内した夜、ただ一度きり我を抱いたあの方を!

それだけじゃ。

父のように位も権力(ちから)も関係ない。

決して我を見ないあの方を…

ただ愛おしかった…。」


 だらりと剣を下ろし、凍りつくような目でじっと見ていた翡翠が、二人に背を向け皆を見回し剣を掲げ声高らかに宣言する。


「皆の者、逆賊人藤原師頼は我らに刃向かったため成敗した。

任務は完了した。

これより帰還する!」


「「おおーっ!」」


 男達の声が響いた。



 



 



お約束のかるらの金色の枝ですが、かるら曰く

「毎回、誰に渡るか何がでるかは私にもわからないのでお楽しみに〜!」

だそうです。


お読みいただきありがとうございます。

不定期投稿になりますがよろしくお付き合い下さいませ。

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