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陰陽師姫の宮中事件譚  作者: ふう
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第一章 陰陽師姫神隠しの怪に遭う話 四

いよいよ主人公の本領発揮

物語が動き始めます。



 父との約束の日、伽羅はかるらに腰まである長い髪を高い位置で一括りにしてもらい、殿上童のような衣を纏った。

小柄な体つきと相まって、なかなかの美童に見える。

これで兄の従者の様に見えるだろう。


「ああ伽羅、久しぶりだな。元気にしていたかい?

突然の呼び出しで今日は悪いな。」


と、牛車の横に兄の実重(さねしげ)が待っていた。

 実重は伽羅より四つ上の十九才。

父によく似てすらりと背が高く、優しい顔立ちの貴公子である。

 残念ながら「見鬼の才」は無いが、陰陽寮で星を見て占いや暦を作る仕事をしている。

 この時代、貴族の生活は朝起きるとまず今日の吉凶や暦を見てその日の予定を決めるため、なくてはならない仕事だ。

 その中でも特に優秀とのことで、将来の陰陽頭との評判も高い。


 そんな兄だが伽羅にはめっぽう甘く、今日も伽羅の格好を見て


「やあ、久しぶりに見るけどその姿もとっても可愛いよ。」


とニコニコと好相を崩している。

 

「もう、お兄様ったら。

さっさと行きますわよ。」


と、伽羅は素っ気ない。


 そして伽羅は兄と共に牛車に乗り、左京の三条にある藤大納言邸へと向かう。


 高い塀に囲まれた大きな屋敷に着くと、直ぐさま今回神隠しに遭われたという、息子の貞行卿が伏せる部屋へと案内された。

 そこにはげっそりと窶れ血の気の無い青い顔をした若い男が静かに横になっており、疲れを顔に滲ませた父大納言と母である北の方が揃って目覚めぬ息子の枕元に心配そうに寄り添っていた。


「陰陽寮より参りました、源 実重にございます。

これは弟子の伽羅と申します。」


と実重は膝を折り挨拶をする。


「よく参られた。実重殿。

この度は無理を申したな。

どうかよろしく頼む。」


と、大納言は二人に藁座を勧める。


「この度の詳細をお伺いしてもよろしいでしょうか。」


と、実重が問うと、大納言は話始めた。


「ご覧の通り、息子は前の十六夜の月の夜、五条の恋人の女の元へ出掛けた後、行方が分からなくなり、三日後に右京の下町で探していた家来の者が倒れている姿で見つけたが、それ以来、今日までずっと目を覚さないのだ。」


藤大納言は深いため息をつく。


「それで医師や薬師と色々と手を尽くしたが、一向に良くならんばかりかだんだん弱ってきて…

それで最後の頼みで源陰陽頭殿にお縋りした訳じゃ。

始め陰陽寮の術者も使わしてくれたのだが埒が明かず、今回直々にご子息の実重殿と腕の良い術者を寄越して頂いた。 

本当に感謝する。

どうか息子を助けて下され。」


 頭を床に擦り付ける勢いで藤大納言は叩頭した。


「頭をお上げ下さい大納言様。

本日連れて来たこの者は強い才能(ちから)を持っております。

きっとお力になれると思います。」


 控えていた伽羅の方を向き直った実重は


「どうだ、伽羅?」


と、一言言って様子を伺っている。

 伽羅は臆せず答える。


「やはり何か、いやな異形モノの匂いがいたします。

若様のお近くに寄ってもよろしいでしょうか?」


「もちろん。」


と、大納言は縋る様な目で伽羅を見る。


 伽羅には異形のモノを見る「見鬼の才」を持っているが、

詳しくは怪異を匂いで感じる不思議な才能(ちから)を持っている。

これは伽羅独自のもので、他に類を見ない。


 伽羅は貞行卿の身体にまとわりつく異形(モノ)の嫌な残り香を感じとっていた。


 伽羅は膝を進め、目を閉じて眠っている貞行卿の額の上にじっと手をかざした。


「伽羅、出来るか?」


と心配そうな実重に


「お任せ下さいませ。」


と、懐より一枚の呪符を取り出し、口の中で小さく呪を唱えフッと息を吹きかけ貞行卿の額の上にそっと置き、指を組み合わせて印を切った。


 一瞬呪符が白く光り、ハラリとその額より落ちる。


 しばらく皆、固唾を飲んで見守っていると、閉じていたまぶたが僅かに動き、薄らと貞行卿が眼を開けた。





お読みいただきありがとうございます。


長くなるので話を分ます。



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