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陰陽師姫の宮中事件譚  作者: ふう


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第二章 陰陽師姫の初恋と受難に遭う話 十

意外なあの人の登場

伽羅の涙。



 秋の日差しは明るく清々しいのに、後宮には暗く重苦しい空気が流れていた。



 昨日、一の皇子が毒を盛られて倒れ、今まだ目を覚さない。

 その犯人として、女官の源典侍が捕らえられたという衝撃的な話は一夜にして宮中に広まった。


 一の皇子が華々しく活躍された紅葉賀の祝宴よりまだ一月も経っていない今の状況に、ほとんどの者が眉を顰め戸惑いを隠せない。


 いつもは姦しく女官達がおしゃべりに花を咲かせている内膳司でも、今日は声を落とし周りに憚るように話をしている。


「信じられませんわ…。あの源典侍様があんな恐ろしいことをなさるなんて…。」


「まさか、あの控えめで真面目な方がそんな事を…。」


「ほんとにねぇ…。二の皇子様も害そうとしたとか。」


「でも本当に源典侍様がやったのかしら…?」


「でもあの左大臣様が命を下されたって。」


「余計なことを言わない方が良いのかも…。」


 そんなヒソヒソと交わされる会話を少し離れた建物の陰で聞いていたかるらは一人で憤っていた。


 淑景舎の人間を除き、今や宮中にいるほとんどの人が左大臣の顔色を伺い、命令に異論を挟む者はいなかった。


 左大臣の主張する話の内容はこうだ。


 淑景舎の女官、源典侍は密かに一の皇子の命を受け、二の皇子を害そうとしたが失敗し、叱責と事が外に発覚することを恐れて、その前に一の皇子に毒を盛り亡き者にしようと画策した。と。


 もちろん伽羅にとっては冤罪だが、釈明する機会もなく、当の一の皇子も意識不明で、擁護できるはずの父も屋敷に軟禁されているため、罪状は確定とされ刑を言い渡されるのを待つのみという。


 伽羅は朝、いつもの粥が差し入れられただけで、誰も来ず、状況も全く分からないまま、昼でも薄暗い牢で膝を抱えていた。


 昼過ぎて、牢の外が騒がしくなり誰かが入ってきた。


「ここまででよい。外で待て。」


若い男の声がし、近づいてくる足音がする。

 そして伽羅のいる牢の前で足を止め、中を覗き込んだ。


(この香は…!)


「よお。思ったより元気そうだな。」


「うっ…。二の皇子様!」


 思わず立ち上がった伽羅はあの夜のことを思い出し、恐怖と怒りで背中が強張った。


「どうしてここに…。帰って!」


「そう邪険にするな。わざわざ助けに来てやったのに。」


「頼んで無いわ!」


「お前、このままだと皇族に毒を盛った罪で遠流(おんる)になるぞ。

とても生きては帰れないぞ。」


「私はそんなことやってない!」


「ああ、知ってる。でも俺の祖父(じいさま)がやったと言えば有罪(くろ)になるんだぜ。

まぁ、どういう方法でやったかは俺は知らないが。」


「そんな…。」


 これが権力(ちから)というものか…。

 伽羅は思わず膝から崩れ落ちそうになる。


「だから俺がお前をここから出してやる。

もう宮中(ここ)にはいられないからどこか都の外にでも匿ってやる。 俺の手を取れ!」


 しばしの沈黙が落ちる。


 二の皇子はじっと伽羅を見る。

 あの夜、始めは注目を浴びた兄への激しい妬みに、腹いせに淑景舎の女官であるこの女を(けが)してやろうと思った。

 しかし、組み敷かれて涙に濡れてもなお強いあの瞳が忘れられなかった。


「お断りよ!私は行かない。」


「なぜた。アイツはもうすぐ死ぬんだぞ。

そんなやつに義理立てする必要はない!」


冷たい整った顔を歪める。


「そうか、やっぱり…。 あの時助けに来るぐらいだから、お前達好きあっているのか!」


「え…、何のこと?」


「はっ。覚えていないのか。

兄上め、俺に怪我をさせやがって。忌々しい…。」


「とにかく、私は決してお前の手は取らない。

帰って!」


「ちっ。強情な奴め。いいんだな、後悔するぞ!」


と、言い捨て、怒りを滲ませ二の皇子は伽羅を睨みつけながら去っていった。


 伽羅は力が抜けたようにずるずると壁に背をつけ座り込み、ぼんやりと先ほどの会話を思い出していた。

 いろいろありすぎて頭がついていけない。


 そして湧いてくる強い疑問。


 二の皇子はあの夜伽羅を助けに来てくれた翡翠のことを兄上と言った…。


 一の皇子様のお顔をハッキリと見た事がない伽羅に対し、いくら嫌っていても、実の弟である二の皇子が兄の顔を見間違えるはずがない。


(翡翠様が一の皇子様だった…。)


 伽羅も心の奥で、もしかしてとは思っていた。

でも今までわざと考えないようにしていた。


 いくら冷遇されていたとしても、第一皇子である。

最近のご様子やお人柄を思えば立太子されてもおかしくは無い。

 そうなると、たくさんのお妃候補者ができるだろう。

 一介の女官である伽羅が今までのように、気軽に接したり、話をしたり、近くにいる事さえ出来なくなるのだ。


(やっとこの気持ちに気づいたのに…。)


 そして今、その人が生死の境を彷徨い苦しんでいる…。

実は、またあの夜のように翡翠が助けに来てくれるかもしれないと、心のどこかで願っていた。

 

 何も出来ない自分。やり場の無い初恋。

 冷たい現実を目の前に突きつけられた伽羅は、ここに閉じ込められて初めて涙を流した。


 





お読みいただきありがとうございます。

不定期投稿になりますがよろしくお付き合い下さいませ。

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