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陰陽師姫の宮中事件譚  作者: ふう
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第二章 陰陽師姫の初恋と受難に遭う話 六

悪夢のような一夜が明け、やっと気づいた恋心…。



 「こ、ここはどこ…?」


 一夜明けて、見知らぬ部屋で目を覚ました伽羅は、秋の明るい陽射しがもうだいぶ高い所まで昇っていることに気付き跳ね起きた。


「伽羅姫様、お目覚めですか?」


「かるらね。寝過ごしてしまったわ。すぐ行かないと!」


「大丈夫ですよ。

本日は体調が悪いという事でお休みをいただきましたから。

姫様の代わりに私が膳をお運びしましたし。」


と、言いながら几帳をかき分けかるらが入って来た。


「ありがとう、かるら。それでここはどこ…?」


「淑景舎です。昨夜、翡翠様がお運び下さいました。」


「あっ…!」


 伽羅は昨夜の自分の身に起きたことを全て思い出した。


(私は…。何てこと…。)


 ちりっとした違和感を感じてそっと胸元を覗くと、小さな赤い痣のような跡が幾つか残っていて、昨夜の事が夢では無かったことに、恥ずかしさと情けなさに涙がこぼれそうになったが奥歯を噛み締めて耐えた。


「姫様、髪の毛が抜けてハゲる呪いとかかけましようか?」


「そうね…。良いわね。」


伽羅は無理に微笑んだ。


 思い出したくはなかったが、ぐるぐると思考は昨夜のことばかり思い出してしまう。

 助けに来てくれた真白と翡翠のこと。

翡翠の胸に縋って泣いたことも…。


 伽羅の好きなあの爽やかな甘い香りと抱きしめて頭を撫で続けてくれた温かさも思い出し、伽羅は身体がカァーッと熱くなり、恥ずかしさに身悶えしそうになって思わず褥に倒れこんだ。


「姫様!」


 びっくりしたかるらが顔を覗き込んだが、上に掛けた袿を顔まで引き上げ、


「大丈夫だから。

ちょっと思い出してしまって。

ほんとに大丈夫だから…。」


「そうですか…。

今日はゆっくりなさいませ。」


と、ぽんぽんと子供をあやすように背を叩く。


 伽羅は解ってしまった。

ずっと心の中にあった想いを。


 いつの頃からか、翡翠の姿をいつも探していたことを。

あの濃い緑色の美しい瞳と目が合うとドキドキして、言葉を交わすと嬉しくて、キラキラした笑顔を見れたらもっと嬉しくて…。

 夜、以前貰った翡翠と同じ香を薫きしめた文を何度も文箱から取り出して眺めていたことを。

 伽羅より大きくて温かい手を。


 ちょっとぶっきらぼうで、勇敢で、優しい少年にいつの間にか恋をしていたことを…。

 

 その時、足音がして几帳の外から控えめな声で、


「伽羅、目が覚めたか?」


と、問う声がした。


かるらが、


「はい。姫様は先ほどお目覚めになりました。」


と代わりに答える。


 伺うように几帳の中へ入って来た翡翠のその心配そうな萎れた顔を見た瞬間、伽羅の心はぎゅっと何かに掴まれたように疼き、目尻にじわりと涙が浮かんだ。


「私は何か召し上がれるものを用意して来ます。」


と、なぜかかるらが慌てて几帳から出て行き、二人きりになった。


 静かに伽羅の枕元へ腰を下ろした翡翠は、しばらく無言で

顔まで袿を引き上げている伽羅の頭を撫でながら、


「大丈夫か?」


と、問いかけた。


 その仕草があまりにも優しくて、伽羅は涙が溢れそうになったが、我慢して努めて明るく、


「はい、大丈夫です。

昨日はありがとうございました。」

 

と、顔は見せずに答える。

 しばらくそのまま頭を撫でていたが、


「うん。早く元気になれ。

でないといつもの調子が出ないからな。」


と言いながら爽やかな甘い香りを残して几帳から出て行った。


 そして見計らったように膳を持ち、入れ代わりに入ってきたかるらは、少し赤い顔でによによしながら伽羅の身の回りの世話をするのだった。


 



ハゲる呪いですが、当時の男性は必ず頭には烏帽子(えぼし)をかぶっていました。烏帽子は髷を結って被るので髪の毛が無いと社会的にキッツイはず…。



お読みいただきありがとうございます。

不定期投稿になりますがよろしくお付き合い下さいませ。

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