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陰陽師姫の宮中事件譚  作者: ふう
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第二章 陰陽師姫の初恋と受難に遭う話 三

不穏な動きと不幸な過去。



 「一体何なの!

あの方私と同じ歳のはずなのに、何あの女慣れした態度!

一の皇子様の奥ゆかしいご様子とは大違い…。」


と、一人でぶつぶつ言っている伽羅に、かるらは


「伽羅姫様荒れてますねー。

何なら、櫃の角で足の小指をぶつける呪いとかかけます?」


「え?そうね…。」


と、伽羅も満更でも無さそうだ。


 今日、御納戸であった出来事を聞いたかるらは、侍女達の間で囁かれている噂話を披露する。


「二の皇子様って今までずっと私達の間では一番人気って感じだったんです。

見た目の華やかさと、中宮様のたった一人の御子で、中宮様のご実家はあの左大臣家だし。

ちょっと女君との恋の噂も多いけど、一夜だけでもお相手になりたいっていう方もいらっしゃいましたよ。

それに、兄君の一の皇子様がおられますけど、こちらの方が次の東宮様にお立ちになるんじゃないかって言われてましたし。」


「ええー?」


と、伽羅は派手な直衣に御母君に似た、貴公子然としたお顔と態度を思い出し眉をひそめた。


「でもあの春の事件以来、今までお姿をお見せにならなかった一の皇子様がいろんな所にお出ましになられて、大変ご立派だという噂だし、とっても麗しいお方だとか。

最近は、やっぱりこちらのほうが東宮様に相応しいのではって、言ってる方も多いですよ。」


 かるらの話を聞きながら、伽羅は昨日の二の皇子様のことを思い出していた。

急に脚光を浴び出した一の皇子様を見て何を思うのか。

何かとても危ういものを感じていた。



 

 一の皇子の御母の藤壺の元中宮は、今の帝とは従兄妹で幼馴染の間柄であった。

 帝の東宮だった時に、帝のたっての願いで入内され、豊かな黒髪の﨟たけた美女で、朗らかで聡明なお人柄は帝の寵愛を一身にうけた。

 やがて一の皇子を身籠るが、その頃より中宮はたびたび体の不調を訴えて伏せる日が多くなっていった。

 初めは懐妊による不調と思われていたが、物の怪に悩まされる事もしばしばあり、だんだんとやつれていき、一時は母子共に危ないともいわれた。

 そして心配のため、憔悴された帝が最後に頼ったのが叔父である伽羅の祖父、陰陽頭の源 尋明だった。


 源陰陽頭はすぐさま不調の原因が呪詛であることを見抜き、これを祓い、数々の手を打ったが、時すでに遅く、やっとの思いで男御子を出産された中宮は、まだ首も座らぬ御子を残し消えいるように儚くなった。


 帝の嘆きはひとかたではなく、出家を望まれるほどだったという。


 そして、それから半年も経たないうちに中宮の父である式部卿の宮が突然の病に倒れ、まるで娘の後を追うようにお隠れになった。

 男御子は一年経たぬうちに、母と祖父の二人も肉親を亡くし、父である帝も御子を見るたび亡き中宮を思い出すため、強いて顔を見せる事もなく、寂しい境遇であった。


 ただ、中宮の侍女であった橘氏の女が乳母として御子をお育てし、たびたび呪いや体の不調に襲われる小さな御子を、伽羅の祖父が全力でお守りした。


 そして自分と同じ能力(ちから)を持つ幼い伽羅に自分が亡き後のことを託したのだった。




 ああっ。またこの夢か…。

 

 暗く重い闇に包まれる後宮の奥深く、真白き宝玉のように大切にしまわれ愛しまれた美しい女が眠っている。

 苦しそうに眉をひそめ、荒い息を繰り返している。

 折れそうなほど細くたおやかな体に似つかわしくない程、腹の部分だけが大きくせり出している。

 女はとうとう髪を振り乱し白い喉を仰け反らしてか細く悲鳴を上げる。

 でもその両腕は大きな腹を庇うように守るように回されていた。


 熱い熱い…!

胸の奥が炎に焼かれるような痛みに胸を掻きむしる。

ここ暫く忘れていた痛み。

 あのせいだ…。

今頃になって蘇る忌わしい記憶。


悔しい…。

憎い…。


愛しい…。














お読みいただきありがとうございます。

不定期投稿になりますがよろしくお付き合い下さいませ。

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