閑話一 ある侍女と侍従のため息
ちょっとした息抜きの小話です。
侍女と侍従があの二人に振り回される話。
私はある女官をしている姫様にお仕えしている侍女です。
歳は…ぴちぴちの十代に見えるからいいでしょ。
うちの姫様、見かけは文句なしのつやっつやの美少女なんです。
私との出会いはちょっと変わっていて、私が付喪神に成りたての頃、ピカピカの姿に鷹に襲われて傷つき、姫様のお屋敷の庭で動けなくなっていたところを姫様(その時はちっちゃな美少年に見えた)に助けてもらった。
ピカピカの私を抱えてお爺さんのところへ行くと、
「おじいさまー。こんなの落ちてたー。コレも飼う。」
って!
「おお、コレは…。
しっかり世話をしてやれよ。」
って。ちょっと!
私、付喪神なのよ!レアなのよ!
反応薄くない⁈
でもこの屋敷には私の他にネコのようなモノもいたんだけど…。
それ以来、ずっと姫様のお側にいるんだけどね。
そんな姫様が恋をした。
と、言っても本人はまったく自覚していないんだけど…。
お相手はいろいろあって最近よく顔を合わせる少年。
こちらも文句なしのキラッキラの美少年。
その彼から先日薬玉が届けられたの。
薬玉っていうのは、五月五日の端午の節句に邪気払いのために、恋人やちょっとイイなーって思ってる人に贈る、綺麗な花を束ねたいい香りのする女の子が好きそうなものなのよ。
先日、姫様の曹司に侍従様が青い顔をしてソレを持って来た。
「あ、あの、コレを…。
その…薬玉をお届けに…。」
プルプル震えながら差し出す広蓋の上の帛紗をめくると…。
(なにコレーーー!!)
思わず絶叫しかけたわ…。
コレ何⁈ 薬玉⁈ なんか茶色い…。
枯れた花? 草? 根っこ?
それからドクダミの葉っぱ…。
綺麗な五色の糸で飾ってあるけど、コレってホントに薬玉?
生薬みたいな臭いもするし…。
「はっ!もしかして嫌がらせ…⁈」
「いやいやいやいや!!
断じて嫌がらせでは…。
若様手ずから材料を集めてお作りになって。
そのまんまの薬玉で…。
だいぶ方向性はズレてはいるが…。」
「でも、こんなの姫様が見たら泣きますよ…。」って姫様⁈
「あら侍従様、いらしてたんですね。
コレは…薬玉?」
大きな瞳を更に大きく見開いて、じっとソレを見つめている姫様に、二人ともイヤな汗が止まらない。
そして姫様がぽつりと呟く。
「素敵…。」
((えーーーっ!!))
「素晴らしいわ。さすがね…。
きっといい生薬ができるわ!」
添えられていた香を薫きしめた文を読み、その文を両手で胸の前に抱えて桜色に頬を染め、俯き加減で目をうるうるさせている姫様は恋する乙女そのもので…。
「嬉しい…。」
とはにかむ姿に私と侍従様は
「「はぁーっ。」」
と、大きなため息を一つつき身悶えた。
数日後、
「あのこれお礼に作ってみたんだけど、淑景舎に届けてくれないかしら…。」
って、姫様がモジモジしながら差し出したモノを見て、私は盛大に引いたわ。
「あの…、こ、コレは⁇」
「私が作った魔除けなの。
たっぷり呪を込めたからよく効くはずよ。」
「え?呪いの人形じゃなくて…?」
ソレは柊の枝に干したイワシの頭を突き刺し、怪しげな文字がびっしり書かれた木札の人形の首を絞めるように香を薫きしめた文で枝に縛りつけてあるモノだった。
触るだけで呪われそうでモタモタしていると、横から白くてモフモフした丸い前足が伸びてきた。
「あっ!
あなたイワシを狙ってる⁈ 猫⁈ 猫じゃないでしょ⁈
神獣よね⁈」
残念そうなケモノを振り払い、盆に乗せ、帛紗を掛けたソレを持ってふらふらと重い足取りで淑景舎へと向かった。
私は淑景舎にお住まいになっているある貴人の侍従をしている。
年齢は二十一。
侍従にしてはマッチョでなかなかイケてると思うのだが…。
私の主筋の若様は見かけはしゅっとした美少年である。
小さい頃よりお側にいるのだが、その若様が恋をした。
本人は全くの無自覚だが。
お相手は女官をしている美少女だ。
先日、その女官殿の侍女がふらふらした足取りで盆に乗せた何かを持って来た。
「あ、侍女殿。それは?」
「ひ、姫様から、この前のお礼にと…。」
(なんだコレーーー!!)
帛紗を取った途端、私は引き攣り固まった。
「こ、コレは呪いの人形⁈
もしや、この前の仕返し…⁈」
「いえいえいえいえ!!
そんな事は決して!
姫様は薬玉を大そうお喜びになって、お礼に心を込めて魔除けを…。
盛大にナナメ上いってますが…。」
「でも、こ、コレを若様が見たらきっとショックで…っと!」
「よお、二人で何やってるんだ?」
「わ、若様…。
コレは、その…。女官殿がこの前のお礼にと…。」
濃い緑色の瞳を見開き、じっとソレを見つめる若様に二人ともイヤな汗が止まらない。
そしてぽつりと呟く。
「格好いい…。」
((えーーーっ!))
「さすがだな…。とっても効き目がありそうだな。」
結ばれていた文を解き、それを読み終え、片手で口元を隠し、目元をほんのり赤く染め横を向く。
「良かった…。」
と照れる姿に私と侍女殿は大きなため息を一つつき、
((甘酸っぱーい!))
と、胸を押さえ倒れ込んだ。
その隙に、イワシの頭をバリバリと平らげたハチワレ猫が、そんな二人を横目で見ながら優雅に顔を洗っていたという…。
見た目は美少年少女 中身は天然
な、二人はいかがでしたでしょうか?
もう一話閑話を挟みまして
「第二章 陰陽師姫の初恋と受難に遭う話」
をスタートします。
お読みいただきありがとうございます。
不定期投稿になりますがよろしくお付き合い下さいませ。




