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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編(ホラー系)

交通事故



 ──とあるドライブレコーダーの記録。




 →再生







 カメラから100mほど前方に走行する車輌が見える。車の流れはちらほらと疎らである。

 道は広く整備され、ここが高速道路であることが分かる。標識や中央分離帯が後ろへ飛び去って行く速さを見るに、時速80㎞前後だろうか。


 空は薄く霞がかり、もう時間が遅いようで淡い紺色に染まっていた。

 カメラからでは確認できないが、そろそろ星が見え始める頃合いだろうか。


 また1つ、道路標識が後ろへ流れていった。


《 ■■SA(サービスエリア)まで 8㎞》



『お父さん、お腹空いた~』


 少年の声だ。まだ声変わり前の甲高い声が、空腹を訴えた。


 カメラに記録された時刻は、午後7時を過ぎている。

 小学生であれば、そろそろ何か腹に入れたいことだろう。


『もう少し待て、サービスエリアに寄ろう』


『え~、まだ~?』


 父親らしき男の声。

 僅かに画像が揺れる。

 少年はなおも不平をこぼす。


『早く着かない?』


『母さんが寝てるんだ。静かにしなさい』


 ぐんっと車が加速する。

 滑らかに追い越し車線へと移り、さらに加速する。エンジンの響きが録音に入っていた。


《 ■■SAまで 2㎞》


 標識が過ぎるのと同時に、また1台の車を追い抜いた。


 再びの車線変更。映像がガタリと揺れる。


『ん?』


 父親の呟き。

 わずかに減速した。カメラには映っていないが後方を気にしているものと思われる。


『どうしたの?』


 少年の問いに父親は答えず、車を再度加速させた。

 グオンとエンジンが噴かされ、映像が大きく乱れる。


《 ■■SAまで 600m》


 車の速度は落ちずに走り続けている。

 少年は父親に減速を求めているが、その要求は聞き入れられない。

 母親も目を覚ましたようで、困惑する女性の声が録音されていた。


『あなたどうしたの!?』


 父親は答えない。

 急な車線変更。大きく車体が揺さぶられ、少年が苦痛の声をあげる。

 追い越し車線へと戻った車輌は、さらに速度を増す。その時速は140㎞に達していると思われる。


『……せないんだ』


『なに? スピードを落として!』


 父親と母親の言い争う声が録音される。

 少年の声はない。


『アクセルから足を離せないんだ!』


 父親の叫び声。走行速度は時速160㎞を超えた。


 カメラが映す進路上には、右方への緩やかなカーブが見える。


『あなた! 止めて!』


 母親が叫ぶも、車はわずかな減速も見られない。


 カーブに侵入。車は止まらない。


 映像が大きく右に振られ、その後左へ勢いよく向く。

 悲鳴。

 揺れとともに映像が横転。カーブの外壁が迫る。

 悲鳴。

 フロントガラスが破砕し、屋根がひしゃげて、カメラはダッシュボードを映す。


 カメラが破損、映像が途絶する。




『あ~あ、いけないんだぁ』


 少女の声。衝突時の騒音の中で、何故か明瞭に聞き取れた。




 衝突した車輌が完全に停止するまでの音声が、以降およそ40秒にわたり記録された。





 * * *



『──昨晩発生した●●自動車道の■■サービスエリア付近での事故の影響で一時通行止めでしたが、現在は解除されました。警察は事故の原因として、スピードの出し過ぎと見ています』


『海の日と合わせての三連休、夏休みが始まった方も多いでしょう。お出かけの際には、交通ルールを守って安全に行楽をお楽しみください。また、長時間運転される時には適度な休憩もとられることをオススメします』


『続いては、✕✕✕動物園で双子の────』




ご覧いただきありがとうございます。

評価、いいねをいただけると大変励みになりますので、よろしくお願いします。



ニュースを見ていると、薄情なほどに切り替わりが激しく、どれほど凄惨な事件や事故であっても消費されるコンテンツに成り下がってしまったように感じる時があります。

これはそうなってしまった一家と、そうなるように引き込んだ既にコンテンツとして浪費された少女のお話でした。

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