表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ショートショート5月〜4回目

駐車場

作者: たかさば

 ……早朝、朝六時。


 今日も公園の駐車場は…すっからかんだ。


 車一台停まっていない、見晴らしの良い光景。

 風が通り抜ける、気持ちのいい場所。


 やや大型の公園の収容台数100台を超える北側駐車場は、朝7時~夜8時までの開放となっており…今の時間帯は入り口が封鎖されている。


 朝早いから、誰も…車を停めていない。

 朝早いから、誰も…車を停められない。



 ……ビュゥッ!


 だだっ広い場所に、風が、吹いた。



 風の行く先を目で追うと……先ほどまで見えていなかった、モノが見えてきた。


 瞬きを二度ほどすると、何もない空間にピントが合って……透き通ったモノが見えてくる。



 ……今日も公園の駐車場は、いっぱいだ。


 車一台分も空いていない、みっちりと詰まった光景。

 風が窮屈に通り抜けそうな、圧迫感のある場所。


 駐車場の入り口が封鎖されているのをいいことに……自由に出入りするモノたちがいる事を知ったのは、二年ほど前の事だ。


 この、公園北側駐車場は、人ではなくなった者たちが集まる場所らしいのだ。

 夜8時~朝7時まで……人ではないモノたちが休憩所にしているらしいのだ。


 駐車場には、いろんな車がたくさん並んでいる。


 黒いの、白いの、でかいの、小さいの。

 軽自動車、普通自動車、電気自動車、カスタムカー、レトロカーにトラック、ダンプにバス、カートにバギー、遊園地でよく見るバッテリーカーなんかもある。


 自分の車にいろんなおみやげを詰め込んで、ドライバーは旅立つのだろう。

 この場所で思い出を確かめて、ドライバーは人生という長い旅の終わりを知るのだろう。


 車が多くて…息が詰まりそうだ。


 こんなにも旅立つ人がいるのかと…いつも驚く。

 こんなにもすがすがしい朝なのに…気が滅入る。


 決して風と連動しているわけではない、何一つ世界に影響しない、ただの…光景。

 吹き抜ける風があることにすら気づかない、命のある世界から消えた、ただの…名残。


 ……音一つたてずに、車が動き出す。


 駐車場の出入り口を無視した、自由で規律のない…旅立ちが始まったのだ。


 毎朝この時間帯になると、風もないのに忙しなく…駐車されている車が移動を始める。


 すっと上に浮かんで消えるモノ、斜め上方向にゆっくり移動するモノ、生垣を無視して突っ込んでいくモノ、駐車場の路面方向指示に従って律儀に出口から出て行くモノ……。


 あんなにも駐車場に几帳面に並んでいるのに、旅立つ時は…バラバラなのだ。


 ……風が吹くたびに、駐車場から車が出ていく。

 ……風が吹かなくても、駐車場から車が出て行く。


 生者には思いつきもしない、何かのルールが存在しているのかもしれない。

 亡者にとって当たり前の、何らかのルールが存在しているのかもしれない。


 最後まで見たことがないから憶測でしかないが、おそらく7時までには、全ての車がいなくなるのだろう。

 夜に来たことがないから憶測でしかないが、おそらく8時が過ぎる頃から、車が乗り込んでくるのだろう。


 俺の横を、じいさんの運転する車が飛んでいく。

 俺の前を、ばあさんが乗った車が滑っていく。

 俺の頭上を、若者が乗ったバイクが跳ねていく。

 俺の足元を、中年が乗ったトラックが潜っていく。

 俺をめがけて、スクーターに乗ったおばさんが突っ込んでくる。


 おじさんおじさん、おばさんおじさん、おじさんおじいさん、おばあさんおじいさん…。

 手をつなぎあって、家族で飛んでいくものもいる。

 

 俺はそっと、小さく……手を合わせて。


 駐車場の見えなくなる場所へと、急いだのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ