君が、君たちが変えてくれたんだ
16歳 高校2年 5月14日の朝
「それじゃあ、行ってくるよ。ちゃーちゃん」
「あい。行ってらっしゃい」
キッチンの方から祖母の優しい声を後ろに、また新しい制服をきた僕は玄関の引き戸を開けた。
家の周りは田畑に囲まれている。
植えたばかりの稲がまだ涼しく感じる風を受けながらゆらゆらと揺れていた。
小学生の頃は年に一度来ていたが、中学に上がってからは来れなかった。
懐かしい光景だな。
そう思いながら僕はペダルを蹴り始めた。
転校初日の朝。
10回ほど経験した朝だ。
はっきりと経験した数字は覚えてない。
5回を超えてから数える事もしなくなった。
最初の転校ほどドキドキとした思いもない。
もう慣れてしまったのだ。
転校する高校は祖母の家から自転車で30分ぐらいで着く所だ。
バスも通ってはいるが本数が少ない。
最寄りの駅も15分ほどで着くが高校の最寄りが1駅で電車賃が勿体無い。
だから僕はお気に入りのロードバイクを走らせている。
20分ほど走っただろうか。
段々と住宅街になってきた。
この辺は来たことがなかったので、駅を目指しながら進んでいった。
駅を通ってからさらに奥へ進む。
転校する高校、川越青桐高校はもうすぐ。
ちらほらとその学校の生徒だろう人混みを横目に先へ進む。
正門が見えてきた。
正門の所には先生達が何人か立って生徒達と挨拶を交わしている。
おはよう。
あ、おはようございます。
久しぶりに家族以外の人と挨拶したな。
そんな事を思いながら自転車置き場に自転車を置いて、昇降口で脱いだ靴を持ちながら職員室を探した。
コンコン、失礼します。転校して来た戦場 燈花です。
担当の先生と話ながら朝のHRを待った。
この時の僕は、前と変わらず胸躍らぬ退屈な日々が始まらないなど思ってもいなかった。