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太郎頑張る

作者: 金峯蓮華

穴掘り好きの柴犬太郎が掘ってみつけた宝物は?

 豆柴の太郎が庭で穴掘りを楽しんでいるようだ。

 

 私は縁側でアイスを食べながらその様子を眺めた。小さい頃から穴掘りの真似をしていたが可愛いので放置していた。


 そのうち本気で穴を掘り始め、3歳になった今では遺跡発掘のバイトにいけそうなくらいになっている。ただうちの庭では何も出ず、太郎が掘った穴を私が埋める不毛なイタチごっこを毎日繰り広げている。

「太郎、たまには掘った穴からええもん出してみ」

 アイスを食べ終えて声をかけたら、太郎は一瞬穴掘りをやめて〈無茶振りはやめてくれ!〉と言っているような顔をして私を見、またすぐに続きを始めた。

 

さて、穴を埋めようか。立ち上がり庭に降りた。


あれ? 太郎どこ? 太郎の姿が見当たらない。慌てて辺りを見渡した。鳴き声はさっき掘っていた場所から聞こえる。

まさか上がってこれないのか? 近づいて穴を覗き込んだ。嘘?! 私の身長より深い。さっきまで身体が見えていたのにこんな深い穴を掘れるわけがない。何かで空洞になっていた場所があって、そこに落ちてしまったのか? 太郎はわんわんと鳴きながら穴の中からじっと私を見つめる。


「ちょっと待って、助けたるからな」

 そう言ったもののこんな時に限って誰もいない。


「陽菜ちゃんどうしたん?」

 塀の向こうから声がする。隣のおばちゃんだ!

「おばちゃん、太郎が穴に落ちてん!」

 細かく説明したいけど上手く言葉が出ない。

「え〜!そっち行くわ」

 おばちゃんは洗濯物を取り入れているのを中断して見にきてくれた。


「あらま〜、こらおばちゃんも無理やな。ちょっと待ちや、拓哉呼んでくるわ。友達来てるしなんとかなるんちゃうか」

 おばちゃんは拓哉兄ちゃんと友達を呼びに家に戻った。

「太郎頑張りや!」

 私はわんわんと鳴いている太郎に声をかけた。


 すぐにおばちゃんが拓哉兄ちゃんと友達を連れて来た。

「陽菜! 太郎はどうや?」

 心配そうな拓哉兄ちゃんに大丈夫やと思うと返事をし、私は横にいる友達を見て驚いた。

 

 えっ、白川先輩!嘘やろ!中学の頃からずっと片想いしている白川先輩が拓哉兄ちゃんと友達だったなんて知らなかった。

 あまりの衝撃に固まってる私を見て、おばちゃんは勘違いしたのだろう声をかけてくれた。

「大丈夫か? そら、太郎ちゃんがあんな穴に落ちたら心配やもんな」

 太郎ごめんよ。私は穴に落ちたあんたより、目の前の白川先輩の方に気持ちがいっちゃったのよ。

反省します。

 

 私の方をチラッと見てから白川先輩は穴を覗き込み、

「もうちょい穴を広げてから俺が降りるわ。下はコンクリートやし、空間があるみたいやから、かがんで太郎君を抱いて持ち上げるから受け取ってくれ」と拓哉兄ちゃんに話している。


「そんなん、服汚れるし悪いです。私が入ります」

 私は慌てて先輩の申し出を断った。


「この中やったら俺が1番背高いやろ。足も着きそうや。服のこと言うてる場合か!」

 太郎より先輩のことを気にした私は見事に怒られた。


「おばちゃん、風呂沸かしたるわ。拓哉の服着て帰ったらええやん」

おばちゃんもノリノリになる。

 こうして太郎救出作戦が始まった。


「拓哉兄ちゃんと白川先輩がショベルで太郎が掘った穴を広げていく。

私も手伝おうとしたが邪魔だからと却下された。

拓哉兄ちゃんに陽菜は太郎を励ませと言われたので穴の中の太郎に声をかける。

「太郎頑張れ!」

 太郎は〈はいはいわかった〉みたいな冷めた感じで私を見る。


 ん? 変。怖くないのか? きっと思い過ごしだろう。

怖いはずだ。

頭に浮かんだ太郎の言葉を打ち消しながら応援を続けた。


「よっしゃいけるぞ」

 白川先輩は穴に入り、太郎を捕まえ、腕を伸ばして地上にいる拓哉兄ちゃんに渡す。

私は無事帰還した太郎を拓哉兄ちゃんから渡され思いっきり抱き締める。

おばちゃんもそんな私と太郎を見てほっとしたようだ。


 ふと穴に目をやると白川先輩がぴょんと上がってきた。カッコいい!!


「ここ危ないから、埋めとくわ。土管みたいなんが埋まってる。上に穴が開いていて、それを塞いでいた木が腐ってたみたいや。そこに落ちたんやな」

「先輩ありがとうございます。これ以上迷惑をかけるわけにはいかないのであとは私がやります」

 そこまでしてもらうなんてとんでもない。私は太郎をおばちゃんに渡してショベルを握ろうとした。

「乗りかかった船やし、土管にも土入れといたら、太郎君がいくら掘っても大丈夫やろ。俺と拓哉がやるから陽菜ちゃんは太郎君とおったり」

 陽菜ちゃんて呼ばれた。


 にっこり笑って言われたら断れるはずもなく、太郎救出のあと穴埋めまでやってもらってしまった。泥だらけになっても白川先輩はカッコいい。

「先輩、ありがとうございました。何かお礼をさせて下さい」

「お礼?」

 先輩は何故か顔を赤らめて私を見る。「ほんなら次の日曜日デートしてくれるかな?」

 えっ? デート? なんで?


 抱っこしている太郎を見るとドヤ顔をしている。

〈たまには穴掘ってええもん出せって言ってたやろ!〉


ほのぼのしてもらえたら嬉しいです。

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