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異世界転移調査員のとある一日

作者: 灰色

最近、世界的に理解不可能な行方不明事件が増えていた。

あるケースでは、車で引かれたはずの人物が消え去った。車事態はぶつかった際に生じる破損があるにも関わらず、血の跡や被害者が見つからない。

またあるケースでは、病気か何かで倒れたと思われる人物が、救急車等を呼ぼうと一瞬目を離した瞬間に消え去った。

今後の世界を担うと期待されて来た天才児、大統領、アイドル、サラリーマン、引きこもり、学生、主夫、主婦等々、共通点が見当たらないケースも多く、社会現象にもなっている。

中でも、日本における発生率は尋常では無かった。

その為、単なる行方不明か否かを調査する仕事に需要が出てきた。冗談のようだが、本当の事である。

この業務に携わる人物は、当時、一部で流行っていた小説や漫画に似ていたことから、こう呼ばれていた。

「異世界転移調査員」と。

これが、僕の職業である。


〈ケース1〉

ある企業に勤めている女性社員が無断欠勤の上、連絡が取れなくなった。病死を心配し、社員が家を訪ねたが、扉の鍵がかかっており、声をかけても応答が無い。建物の管理人に連絡し、鍵を開けてもらい入室した所、本人はおらず、私物もほぼ全てそのまま残っているように思われた。この事から、夜逃げ等の可能性は低いと思われ、調査を依頼する事になった。


「調査期間は1日、これまた急な依頼ですね」

「失踪したのはプロジェクトの中核メンバーで、彼女の有無がプロジェクトの成否に関わるそうだ。失踪の前日も深夜まで勤務し、自腹でタクシーにより帰宅したそうだ。何日も泊まり込みが続いており、更に泊まり込む為の着替え等を準備しに帰った筈が、連絡が取れなくなったとか。典型的なブラック企業だな。一日も早く見つけたい程の重要人物なら、もっと大切にしろってんだ」

「橘先輩、今は二人だけなので良いですが、あんまりストレートな発言は避けて下さいね」

今回は僕と橘先輩が担当することになった。先輩は会社でトップクラスの成績だが、口の悪さが災いし顧客とのトラブルもトップクラスの人だ。

「お前も同じように思ってるんだろ。中心人物に自腹でタクシーとか、泊まり込みとか。どう考えても典型的なブラック企業の特徴じゃねえか。俺なら3日も持たねえな。プロジェクトリーダーを殴って即退職」

「先輩ならそうでしょうね。でも暴力は駄目ですよ。せめて無能さを自覚させた上で、会社に居づらくさせる位で勘弁してあげて下さい」

「お前の方が酷いじゃねえか。そんな陰険にはなれねえよ。さて、駄弁るのはこの辺で。仕事を開始しますか」

部屋は良くあるワンルームマンションの一室。玄関から部屋までの間の廊下に台所と風呂トイレが配置されている。

入室前に、部屋の中を確認する。玄関の靴は整えられており、スリッパが廊下に転がっている。その横にはビジネスバッグが落ちている。

「見たところ、廊下の途中で突然消失した感じですね」

「そうだな。ただ、この状況が最初からなのか、最初に入ったヤツが行動した結果か。それを確認しねえとな」

事件の場合、第一発見者は極力部屋のものに触らず、警察が来るまで現場を維持するのが鉄則なのだが、実際はそうもいかない。本人は触ったつもりが無くても、無意識に触ったり整理したりする事がある。行方不明の場合は尚更だ。

「靴が揃っているのは、部屋主がよほど几帳面なのか、他の人間が揃えたのか。疲れきって、準備して直ぐに出ていく奴は、靴を揃える気力なんて普通は残って無いとは思うが」

「そうですね。僕なんか靴を揃えた事が無いですね」

「お前を基準にすると、誰でも几帳面になるので、比較対照としては不適当だな」

心外だなあと思いながら、先輩に続いて入室する。

廊下の状況を維持するため、注意しながら。

「部屋の中はどうですか?」

「あんまり物がなく、綺麗な部屋だよ。室内に衣服を干している以外は」

家に帰る事が出来ない、ブラック企業あるあるとも言える室内干し。着替えを取りに帰宅したにしては、干された衣服がそのままと言うのはおかしい。

「後、室内で暴れたような痕跡も、傷も見当たらないな」

ということは、誘拐の可能性も低いと言うことだろう。

「ドレッサーに置いてあるジュエリーケースが開いたままで、いくつか指輪等が無いのが気になるが、普段から会社に着けて行っていたのかもな。以外はほとんど手付かず。廊下で消失したでほぼ決まりだな」

ジュエリーケースが開いたまま?几帳面な女性だったと仮定すると、開いたままになっているのはおかしい。蓋をして引き出し等に入れるのが普通では無いだろうか。

それに、システム会社の中核。キーボードを打つには手にするアクセサリーは邪魔ではないだろうか。徹夜や泊まり込みが多いのなら尚更アクセサリーは邪魔になりそうだ。

「夜逃げで装飾品を持っていった、という可能性は無さそうですか?」

「お前、わかった上で言ってるだろ。キャリーバッグも服装も持たず、装飾品を数点だけ持って夜逃げする人がいると思うか?ジュエリーケースも中身をいくつか持ち出すなんて中途半端な事はせず、箱のまま全部持ち出すのが普通だろ」

やはり、先輩と僕は同じ結論に達しているようだ。

「さっさと帰って報告書を作るぞ。期間も無いしな。ジュエリーケースやその他については、警察の仕事だ。一応、連携だけしておけ」

「わかりました」

こうして、今回の調査は終わった。特に難しくもない案件だった。


【調査結果】

・異世界転移と断定

・補足:確認に来た社員は窃盗容疑で逮捕。理由は「事務の一般社員は薄給であり、残業で稼いでいるエンジニアの友達がお金を使う暇もなく、宝石類を収集している事を知っており、以前に見せてもらった事があった。夜逃げにせよ異世界転移にせよ、もう彼女には必要が無いと判断し、魔が差した。箱ごと取らなかったのは、他にも彼女が宝石類を集めている事を知っている者がおり、全てが無くなっていると怪しまれると思った」

・補足:プロジェクトは失敗に終わった様だ。大事な仕事なら尚更、一人に任せず複数人で情報共有出来る体制を作らないと。若しくは、彼女が優秀過ぎて回りがついていけなかったのか。

・考察:異世界転移で居なくなる人物は、かなり優秀か、逆に問題児とされている人物に片寄っているそうだ。優秀な人物が減りすぎると、国の今後が不安になるので、勘弁して欲しい所だ。


担当者:橘楓、田中一郎








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