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79話 夏の終り

 長い長い夏季休暇

 毎日どこかで新しい街をつくったり

 はたまた新しい制度をつくったり

 暇な日など一日もなく、あっという間に時が過ぎていく。


 新制度といえば臣民と下民の流動化。

 まだ判断を下すのは早計だが、あれは思うような成果が出ていない。

 でも別に悪いことではなかった。


「臣民による犯罪が、激減しています…」

「そ、そうか…」


 臣民の下民化。

 これは臣民達にとってとてつもなく忌避すべき自体であったらしい。

 刑罰に下民化が追加された重罪は目に見て激減した。

 街によっては0になったところすらある。


 悪いことではないのだが、俺とセリスは複雑な気分になってしまう。


「臣民にとって、下民になるってそこまで嫌なことだったのか…」

「その、ようです…」


 なにせ俺たちは元下民。

 自分たちの元の身分がここまで毛嫌いされて嬉しいはずがない。


「すでに収監済みの犯罪者を下民にする案は?」


 死罪が決定してる者や終身刑の者たち

 彼らを下民にする代わりに外に出すという案だ。

 俺達にとってこれは恩赦のつもりだったのだが…


「それも、芳しくなく…」


 死刑囚はこう言ったそうだ。

「おねげえします!下民にするくらいなら今すぐ殺してくだせえ!おねげえいたします!!」


 終身刑の囚人はこう言ったという。

「げげげげ下民に!?お、おら、いつの間にご領主様からそんなお恨みを買ってしまっただ!?どうか、どうか、勘弁してくだせえ!!」


「下民になることは、彼らにとって恩赦ではなく、さらなる重い刑罰に思えたようです…」

「そ、そうか…」


 つまり臣民にとって、量刑を比較するとこんな不等式になるらしい

 下民化>死刑>終身刑


「俺達って、生まれながらに死刑よりもつらい刑に処せられてたんだな…」

「そうなって、しまうようです…」


 二人揃って落ち込んでしまう。

 下民がひどい立場なのはわかっていたが、これほどまでだとは。

 定量的に見せつけられて、ショックだ。


 そんな俺達とは対照的に、他のみんなはこの成果にたいへん感心している。


「ここまで犯罪を抑えられるとは、効果は絶大だな!」

「うちの領地でもやってみます」

「私もお父様に伝えてみますわ。貧しい臣民の犯罪率の増加は、どこの領地でも悩みのタネですもの」


 貴族が領地にこの制度を導入するのは喜ぶべきことなのだが、やはり素直に喜べない…。

 そんな中、ビスケッタさんだけはちょっと違う意見を持っていた。


「今の世代の臣民にとっては下民化は死よりも恐ろしいものなのでしょう。だから犯罪率も減ったわけです。ただ今後階級の流動化が進めば、次世代の臣民にとっては下民化は普通のことになるかもしれません。ソラ様の意図通りに。この効果は、あくまで現時点における副産物。今後も効果を期待するのは、ちょっと違うかもしれませんね」


 なるほど。

 臣民が下民化を忌避しなくなったときこそ、ある意味の目的が達成できたときというわけか。


 制度づくりって、色々考えさせられる。


 ---


 ちなみにクスリの公営化は効果てきめんだった。

 今まで安く買い叩かれていた原料の栽培農家たち。

 彼らは合法化に大喜びして売り先をこちらに変更してくれた。

 これだけで闇市場のクスリは原材料が手に入らずに壊滅同然だ。


 クスリの精製業者も同様だ。

 業者が公営化に賛成したら違法なことをしてる自分たちは密告されてしまう。

 雪崩を打ったように自首し、公営の業者に鞍替えした。


 適正な価格で原材料を仕入れ、適切に管理された工程で精製する。

 それだけで今まで闇市場で売られてたものよりもはるかに安価で質の良いクスリが大量生産できた。


 常用者には回数を管理して売り渡す。

 重度の者は病院に直行だ。


 新規の客は決して喜ばしいものではないが、拒否はしない。

 回数と量などをセーブさせ、重度の常用者にならないように注意しながら売っていく。

 この管理のために身分を明かしてもらって会員証をつくってもらうのだが…


「まさか、貴族にも常用者がいるとは…」


 セリスは絶句していた。

 それも当然だろう。

 貴族でもこんなクスリに頼るのかと、俺も驚いていた。


「そうか?私は別に予想していたわけではないが、言われてみればいて当然だと思ったぞ?」

「そうですね。私もです」


 逆にエメラルドとビスケッタさんは驚いていなかった。

 ミネルバは「そうなんですの!?」とこの発言に驚いているので俺達側である。


「貴族は対外的なメンツに降格の危機等々、ストレスが貯まるからな。実力に応じた地位だったらそこまででもないが、実力に伴わない地位を継承してしまったりしたら全てを忘れたくなるのも無理はない。クスリに頼りたくなる者も出てくるだろうさ」


 説明されれば納得できてくる。

 クスリに頼ったり、そしてときには下民狩りで下民に当たり散らしたり、そうやってストレスを発散する貴族は大勢いるのだろう。

 かつていた、ラディシュ男爵のように。


「今までは闇で買っていたようですが、公営化されて堂々と買えると喜んでいる者もいるようです。同じ貴族としてどうかとは思いますが、クスリの購入者の身分を問う理由もございませんので黙認するしかないと考えております」


 ビスケッタさんは複雑そうだ。

 そもそも下民狩りも良しとしない公爵家公女の彼女としては、クスリに頼ることも認めがたいのだろう。

 だが合法化されたのだし、そもそも俺の政策だしと、認めてくれている。


 ごめんなさい。

 ありがとうございます。


 ちなみに公営化によってリゼルの領地、マスタング伯領はけっこう潤い始めているらしい。

 リゼルもクスリには反対派だったので、正直複雑そうだ。

 ごめんねえ…。


 俺の申し訳ない気持ちを吹き飛ばすように、エメラルドが元気よく声を出す。


「何はともあれ、新制度は2つともうまくいって何よりだ。晩餐会で色々あったから新規加盟者はいなくなっているが、今後はもっと増えていくだろう!」

「あ、ああ。そうだな!」


 そのとおりだ。

 予想外のことばかりだが、失敗したわけではない。

 ならば喜ぶべきだし、これによってエメラルドの言う通り新規加盟者も増えていくだろう。



 もうすぐ夏が終わる。

 夏が終われば秋が来る。


 秋といえば実りの秋。

 去年から今年にかけてたくさん増えた下民の街々では、多くの収穫が得られるだろう。

 それによって領地が富み、それを見た他の貴族たちはさらに興味をもつに違いない。


 そんな希望を抱きながら、夏季休暇が終りを迎えた。



 ---



 久々の学院。

 ミネルバとカレンには休み中も毎日のように会っていたのでいつもどおりだ。


 だがノヴァは久しぶりだ。

 結局夏季休暇の始まった当初の、あの一回しか会えなかった。


 昼食で久々に会えると思ったが、ノヴァは来なかった。

 ノヴァが元気でないことなど想像もつかない。

 何か用事でもあったのだろうか?


 昼食後、ノヴァに会えなかったことをミネルバに伝えた。

 するとミネルバは昼食時に他の生徒から入手した情報を教えてくれた。


「そういえば、臨時の大公会議が開かれるという噂があるらしいですわ」

「臨時の、大公会議?」


 それを聞いて、思い出す。

 ノヴァの言葉を。


「君にも参加して欲しい議題になると思うから、その際はよろしく頼むよ」


 そもそもノヴァが俺によろしく頼むなんて言うか?

 しかも念押しするかのように二度も。


 臨時の大公会議が開かれる

 だがノヴァからは何も連絡がなかった


 何かがおかしいと、俺は立ち上がる。


「そ、ソラ?どうなさいましたの?」

「ごめん、ミネルバ。俺、午後の授業は休むよ」


 そう言って教室を飛び出す。

 カレンも俺を追いかけてくる。

 いや、違う。


「大公会議の会場は、こっちです」


 俺を先導して、案内してくれた。


「よく知ってるね?」

「ペラス家にいるとき、教わりました。そんなことを知っている自分はすごいだろうと自慢気に」

「なるほどね」


 嫌な思い出だろうに、それを使って俺とノヴァを助けてくれようとしてるわけだ。


「ありがとう」

「いえ、お気になさらず」


 帝城内をどんどん進んでいく。

 途中で、見知った顔を見た。


 彼はたしか、サピロス伯爵

 ダイン・アテネの従兄弟。

 ペラス家の女当主の愛人。


「これはこれは、殿下にカレン、子爵ではありませんか」


 無視してもよかったが、何か知ってるかもしれない。

 カレンを呼ぶ声に嘲りが混じっているのが気に入らないが、一応足を止めた。


「大公会議に向かわれるのですか?殿下と言えど議決権はありませんのに?」

「友人に誘われていましてね。せっかくだから参加させていただこうかと」

「なるほどなるほど。見学というわけですか」


 伯爵の表情は変わらない。


「ではぜひ間近でご覧いただればと存じます」


 その嘲りが、俺にも向けられている。


「ノヴァ大公の最後の日を、ぜひその目でご覧いただければと」


 そこまで聞いて、俺たちは再び駆け出した。

 これ以上この男で時間を潰している暇はない。


 大公会議

 それは皇帝の継承者争いが起きた場合、次期皇帝を選定する力すら持つ。


 皇帝さえ左右する力をもつならば、他の貴族ならば言わずもがな。


 大公家という決して取り潰すことが許されない家だろうとも

 当代当主の一人や二人ならば、

 大義名分さえ整えば、

 潰しうる。


 そんな大公会議へ、俺たちは乗り込んだのだ。




なんとか更新できました。

来週末はできれば更新したいのですが、現在私生活がバタバタしておりまして更新できなかったら申し訳ありません。ただ年末までにはこの話も一段落する予定です。

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