20話 夏季休暇と晩餐会
色々あったが、俺の学院生活は順調だ。
「おーほっほっほっほっほ!ごきげんようソラ!今日も素敵な天気ね」
帝城は雲の上にいるからだいたい良い天気だ。
そして気候も魔法で操作するから、常に平穏そのもの。
だから素敵じゃない天気のほうが珍しいのだが、まあ、否定するのもあれだろう。
「こちらこそごきげんよう。今日もミネルバは天気と同じくご機嫌だね」
「当然ですとも!私はいつでもご機嫌ですわ!」
一瞬能天気って受け取られたらどうしようかと不安になったが、大丈夫だった。
さすがミネルバ。
基本的にすごいプラス思考だから助かる。
そしてちょっと単純だから心配になってしまう。
ミネルバの中では色々葛藤があったようだが、今では普通に会話してくれる。
エメラルドにも相談があったらしい。
「エメラルド様は、どうして殿下、いえ、ソラと、どうやってあんなに親しくなれたのでしょう?」
「友達だから。理由なんて、それだけだよ」
「お友達、だから…」
そんな会話があったとか何とか。
エメラルドが顔を耳まで真っ赤にしながら教えてくれた。
そんなに恥ずかしいなら教えてくれなくてもいいのに。
それでも教えてくれる。
やっぱりエメラルドはいいやつだ。
「ではぁ、ソラ君。答えてくれますかぁ?」
「はい!」
今日の魔法の授業は座学だった。
実技でなければ問題はない。
魔法も理屈や歴史を学ぶだけなら楽しいもので、今の質問もちゃんと回答できた。
「はぁい。よくできましたぁ。みなさんもぉ、苦手なことでもちゃぁんと頑張ればぁ、ソラ君のようになれますからねぇ?」
スポール先生にしては珍しく、俺を褒めてくれた。
驚いたけど、やはり褒められるのは嬉しい。
これからも頑張ろう。
「あれから全く陛下に謁見できなくてねえ…。親友の君から口添えしてくれないかい?」
数日に一回、昼食時間にこうしてノヴァの襲撃を受ける。
こいつが来ると他のみんなはあっという間に消えてしまう。
さすが学院の例外。
学院一の危険人物。
最初の襲撃時、ミネルバは果敢にも立ち向かおうとしてくれた。
「いや、大丈夫だよ。ミネルバ」
「でも、この方は…」
「俺には実害は加えてこない。でも、君には約束できない。だから、お願いだ」
「…わかりましたわ」
さすがに相手が悪すぎる。
こうして何とか引いてもらったのだ。
「兄である君が親友の僕をオススメしてくれれば一発だと思うんだけど、どうかな?」
「馬鹿言うな。親友どころか友達でもない、ただの顔見知りの頼みを聞く義理なんて微塵もないね」
いつの間にか友達から親友から格上げされていた。
冗談ではない。
ただ実際のところ顔見知りなら話ぐらい聞いてしまうかもしれない。
だがこいつはダメだ。
ましてやその頼みがサラとの面会なんて、御免こうむる。
「つれないなあ。僕たちはこんな二人きりで昼食をとるぐらい仲良しなのに」
「お前のせいで、みんなが離れていってるだけだ!」
ちなみに他の一般生徒もノヴァが来ると距離を取る。
聞き耳を立てることすら恐ろしいらしく、この会話も聞こえないほどの距離を。
なんて迷惑なやつだ。
「でもまあ、そのうち思い知るときが来ると思うけどね」
そんな不吉なことを言いながら笑ってる。
縁起でもない。
「じゃあ、また」
「何がまただ。もうすぐ夏季休暇だぞ。当分会うことなんてないよ」
そう。夏季休暇。
学院生活において最も長い長期連休だ。
学院が休みになるのは残念だが、こいつと顔を合せなくてすむのだけは良いことだ。
「そうかい」
なにか企んでる顔をして去っていったが、ビスケッタさんに絶対こいつは通さないようお願いしてあるし問題はない。
絶対、顔を合わせてたまるもんか。
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「晩餐会?」
学院で終業式が終わった帰り、サラのところに寄った。
そこでサラの口から飛び出てきたのがこれである。
「そうなんです。晩餐会しなきゃいけないって。私は興味ないんですけど、みんながどうしてもって…。兄さんはどう思いますか?」
実に難しい質問である。
正直俺も晩餐会自体には興味はない。
ただ、そうもいかない事情がある。
そもそもただの晩餐会ならこの帝城では毎夜どこかで行われている。
珍しいものでもなんでもない。
ただ「皇帝主催の晩餐会」となると、意味は全然違ってくる。
そこに参加することは皇帝に認められたことと同義。
その招待状は大貴族たちの間で取り合いが発生する、プレミアチケットだ。
ちなみにサラが即位してからこれが開催されたことは一度もない。
理由はサラ自身が言ったとおり。
皇帝本人が晩餐会に興味ないので、皇帝主催の晩餐会が開かれるはずもない。
通常ならサラの意志が最優先になるが、そうもいかない場合もたまにはある。
そして今回は、そのたまにという場合だ。
学院の夏季休暇の終業式後。
夏季休暇中、多くの学院の生徒、つまり貴族の子弟は親と一緒に自領へ帰る。
そこでお別れ会もかねてと、この時期に晩餐会が開催されるのが慣例化しているのだ。
慣例となると、サラがいやと言っても周りはそこを何とかと頼まざるを得ないだろう。
たいへんだ。
ではなんで俺がこんな事情を知ってるのか?
この理由は実に単純。
エメラルドに相談を受けていたからだ。
「陛下に晩餐会を開いていただくにはどうすればいいと思う?」と。
親衛隊隊員であるエメラルドは、そのサラに頼み込む人間の一人だったのだ。
サラに強く言うこともできず、だからといって大貴族たちの
「晩餐会は当然開いていただけるんでしょうな?代々の皇帝陛下が行われてきた歴史ある伝統行事。親衛隊が、責任持って、守ってくださるんでしょうな?」
というプレッシャーからは逃れられない。
そんな板挟みでストレスを抱え、俺に相談してきたのだ。
だが俺に言われても困る。
サラはスラムでも引きこもりだった。
危ないから外に出さないということもあったが、そもそも部屋の外に出ることにあまり興味がなかったのだ。
そんなサラが晩餐会に興味を持つなんて、俺には考えられなかった。
俺が頼めば開催してくれるかもしれない。
だがサラに無理やりやらせるのもちょっと…と思っていた。
思っていたのだが
「陛下主催の晩餐会は世界中の美食が集まるすごいものなんだがな…。私も見てみたかったが、まあ、しょうがないか」
俺は下民である。
食事など満足にとれることはなかった。
だが、帝城に来てからは生活が一変した。
驚くほど美味いものが腹いっぱい食べられるようになったのだ。
エメラルドの部屋で食べた、彼女お抱えのシェフの料理も見事なものだった。
もちろん日々食べてる食事も、俺にとっては三食全ては一生縁のないはずだったご馳走ばかり。
だが皇帝主催の晩餐会は、それ以上の料理が出ると。
彼女は、そう言っていた。
「俺に任せろ」
勝手に、口がそう言っていた。
俺ではなく、俺の胃袋が声を出していた。
そう、俺は晩餐会を知っていた。
「晩餐会?」なんて白々しく聞くまでもなく、知っていたのだ。
そして俺はこれから、美食のために妹をそそのかす。
サラ、悪い兄ちゃんを許しておくれ…。
「サラ。俺、晩餐会に興味あるんだけど…」
さあどう出るサラ。
これで少しでも興味をもってくれればよし。
興味をもたなければ、なんとしてでも説得させてもらう。
さあ、どう出る!?
「え?そうなんですか?じゃあやりましょう!すぐやりましょう!」
次の瞬間、皇帝主催の晩餐会開催の聖断は下された。
即断即決すぎる。
しかも開催日は今夜。
大混乱が起きるかと心配したが、誰も彼もが喜んで準備に奔走していた。
待ちに待った皇帝主催の晩餐会の開催。
帝城全体が、大いに盛り上がってきた。
なお、”皇帝の兄”が陛下を口説き落としたと。
無駄に俺の評価が上がったらしい。
ただの私欲なのに…。
罪悪感が…。
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「ではみなさん。かんぱーい!」
「「「乾杯!」」」
サラのゆるい乾杯と、貴族たちのかしこまった乾杯。
対称的で面白い。
立食パーティー形式らしく、みんな自由に歩き回って歓談している。
そしてサラの前には挨拶待ちの大行列ができている。
助けに行きたいところだったが、俺の前にも大行列ができていた。
とても助けるどころではない。
ご馳走を味わうどころでもない。
目の前にご馳走があるのに何も食べられないというこの苦痛。
間違いなく大事な大事な妹をそそのかしたバチが当たったのだ。
受け入れるしかない。
ビスケッタさんがいてくれたら何とかしてくれたかもしれない。
だがメイドさん達全員に「今日は晩餐会で羽伸ばしてきて!」って言ってしまった。
だから俺はこの場で一人ぼっち。
助けてくれる相手は誰もいない。
まさに因果応報。
そうして、俺は心を無にしてずっと挨拶を聞き続けたのだ。
「プラナ公爵でございます。殿下とは一度ぜひお会いしとうございました。また別の機会に、より深いお話を。ええ、それはもうぜひに」
「リズラン公爵と申します。帝城の結界についてご不満等あれば、いつでもご連絡ください」
「ドズル侯爵です。殿下にお会いできて光栄の至り」
「バーハラ侯爵にございます。殿下が陛下を説得してくださったおかげでこうして晩餐会が開催され、感謝の言葉もございません」
貴重なはずの公爵とか侯爵とかがゴロゴロでてくる。
以前ならビビりまくってただろうが、学院で少し免疫ができたので大丈夫だった。
学院というか、ノヴァのせいで。
決してノヴァのおかげ、ではない。
「ば、バレス侯爵にございます」
バレス?
無心で聞いてたが、さすがに知ってる家名がでてくると話が違う。
「ソラ。紹介いたしますわ。私のお父様、バレス侯爵ですわ」
「ミネルバも来てくれたんだ!」
これは嬉しい予想外。
「我が家は歴史あるバレス家でしてよ?当然ですわ!」
「いや、そうじゃなくてミネルバ本人も来てくれたんだってこと」
バレス家は侯爵家だからそりゃ参加するだろう。
でもその子弟となると来たり来なかったり。
だからミネルバが来てくれるとは思わなかったのだ。
「そういうことですのね。でも学院の生徒だったら、たいがい参加していましてよ?」
それはそうだ。
この晩餐会は元々学院が夏季休暇に入るからと行われるもの。
だから学院の在学生なら当然参加する権利はあるわけだ。
ただどうしても気が引ける者もそれなりにいるらしく、全員とはいかない。
だから、たいがい参加、なのである。
「確かにそうだね。でもわざわざ挨拶に来てくれてありがとう。長期連休でしばらく会えなくなるけど、またよろしくね」
「ええ、もちろんですわ。よろしくして差し上げますとも!」
その後ミネルバの父親、バレス侯爵本人とも少し話をした。
二人が去ると、また見知らぬ貴族たちの挨拶が再開される。
…つらい。
横目でサラを見ると、椅子に座ってぐだっとしてる。
おめかししてめちゃくちゃ可愛いのに台無しじゃないか。
いや、ぐだっとしててもめちゃくちゃ可愛いんだが。
あ、俺に気づいて手を振ってきた。
挨拶してる貴族なんて全然気にしてないぞ。
あ、オスカルにあーんしてご馳走食べさせてもらってる。
軽く手を振り返し、俺は挨拶聞きに戻る。
当然ご馳走は食べずに。
なお飲み物だけは減ると給仕さん達がかいがいしく足してくれる。
ひたすら飲み物で空腹をごまかす。
匂いをかぐだけでお腹がなりそうなのを必死に我慢しながら。
この状況は、俺への天罰なのだから…!
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「少しは食べたほうがいいんじゃない?」
俺の目の前にご馳走が現れた。
だが、我慢。
食べてはならない。
そもそも、持ってきたやつも問題だ。
「まさか僕がここにいて意外だなんて思わないだろうね?大公、しかも学院の在学生。参加してないほうがおかしいだろう?」
ノヴァ・ガイア。
いないはずがないとは思ったが、やはりいた。
「サラへの挨拶は、終わったのか?」
嫌味のように言うが、全く効果はない。
「これからだよ。陛下の視線は君に釘付け。だったら僕と君の仲の良さを目に焼き付けてからの方が、挨拶はよっぽど効果的だろ?」
俺は当て馬か!
文句を言いたいが、それが気のおけない間柄だと誤解されても困る。
袋小路ではないか。
悩んでいると、別の方向から声がかかる。
皇帝の兄が大公と会話しているのに、そこに割り込んでくる?
「殿下が困ってらっしゃるぞ。少しは礼節というのを覚えたらどうだ?ノヴァ」
そこにいたのは魔法使いとは思えないほど立派な体をした偉丈夫。
威厳の塊の風貌。
忘れようもない、戴冠式で先頭を切って俺への忠誠を誓った男。
大公家筆頭エトナ大公家が当代当主、アルヴィス・エトナ
「友人同士の楽しい会話に入ってくるおっさんの方が、よっぽど無礼だと思うよ。アルヴィス?」
「相変わらず目上の者に対する言葉遣いを知らんガキだ」
貴族社会の頂点、大公が二人も集まってきて
俺の目の前で殺気丸出しで睨み合い始めた。
晩餐会なんて二度としたいと思いません。
だからどうか、許してください…。
ミネルバは調子を取り戻して元気いっぱいです。
晩餐会っていうと席は指定席で料理もコースのようなものを想像されるかと思いますが、今回の晩餐会はもっとゆるーいものになります。元々は学生のためのものですし、サラがそういうお固いの苦手ですので。
更新できないかもと思いますが、けっこう書けたので更新いたします。
ただ体調よろしくなく、残りはまた別途とさせていただきます。
更新頻度が悪くなりそうですですいません。
ただみなさんのブクマと評価、感想は間違いなく励みになっております。




