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もう一人の公爵

 ジュジュと別れたアーヴァインは、公爵家の屋敷へと戻っていた。

 執務室へ入るなり、革張りの椅子にドカッと座る。

 そして、ポケットから指輪を取り出し、机の上に置いた。


「…………」


 アーヴァインは、胸元からクリスタルモノクルを取り出し、指輪を鑑定する。

 鑑定士は、等級が高ければ高いほど、鑑定品の情報を多く引き出せる。

 アーヴァインが手にしているのは、ジュジュが一瞬で鑑定した『人魚の涙』だ。


◇◇◇◇◇◇

《人・・涙》

美・・人魚・・・た・・・晶。

あ・・・万病・効・・・れる。

た・・、効果・・・・・清らか・・・・・・。

◇◇◇◇◇◇


「ちっ……」


 世界に三人しかいない特級鑑定士のアーヴァインですら、この程度の情報しか読めない。

 古代遺物は、全く役に立たないゴミも多くある。だが、奇跡を起こす神の道具である可能性もある。だからこそ、遺物という物は希少価値がある。

 指輪を机に置くと、ドアがノックされた。

 入ってきたのは、ライメイレイン家の執事ノーマン。二十代後半の、細身で全く動きに無駄のない青年だ。こう見えて、国内で五指に入る武術の遣い手でもある。


「失礼いたします」

「ああ」

「旦那様。紅茶をお持ち……はて、なにかいいことでも?」

「……なんでそう思う?」

「ふふ、とてもいい笑顔をされていますから」

「いい笑顔か……確かに、面白いことがあった」


 ノーマンは、紅茶を淹れてアーヴァインへ出す。

 アーヴァインは、喉が渇いたのか一気に飲み干し、ノーマンはもう一杯注ぐ。最初の一杯を飲み干し、二杯目からチビチビ飲む飲み方は、小さい頃から変わっていないとノーマンは内心微笑んだ。

 アーヴァインは、指輪を掴む。


「だ、旦那様。遺物を乱暴に……」

「これ、わかるか?」

「え?……い、遺物ですよね? 遺跡で見つかった古代の道具。並の鑑定士では名称すら看破することができないから、旦那様が鑑定を」

「ああ。だが、俺でも完全には鑑定できない。せいぜい、名前の一部を読み取るくらいだ」


 再び、指輪を置く。

 アーヴァインは、ニヤリと笑っていた。


「なぁノーマン。こいつを完璧に鑑定できる人間がいたとしたら、どうする?」

「え……まさか、他の特級鑑定士」

「違う違う。まさかの話だ。もし、こいつを完璧に鑑定できる人間がいたら、どうするかだ」

「ふむ……」


 これは、アーヴァインの遊び。ノーマンはそう結論付ける。

 そして、少し真面目に考えてみた。


「そうですね。もし遺物を完全に鑑定できるとしたら、旦那様以上の鑑定士として名を馳せるでしょうな。まだまだ鑑定の済んでいない遺物を鑑定し、その効果を調べることができる。もし遺物の中に『神の道具』があれば……この国は永遠に安泰でしょうな」

「ま、そうだな。それと……もしそいつが女だったらどうする?」

「え、女性だったら? ふーむ……そうですね、未婚でしたら、旦那様が娶るというのはどうでしょうか? 旦那様は未婚ですし、公爵夫人として迎えるには絶好のお方です」

「ふーむ……」

「……え、旦那様?」


 アーヴァインは、真面目に考え込んだ。

 そして、ノーマンに聞く。


「ノーマン。俺が授与できる爵位はあるか?」

「え……」

「確か、受け継いだだけの爵位がいくつかあっただろう?」

「え、だ、旦那様?」

「ライメイレイン家が管理する土地、爵位のリストを準備しておけ。必要になるかもしれん」

「えぇ……」


 ノーマンは、猛烈に嫌な予感がした。

 と───ここで、ドアがノックされる。

 ノーマンがドアを開けると、そこにはメイドと長身の男性がいた。

 アーヴァインは、男性を見るなり呟いた。


「カーディウス……」

「やぁ、我が親友」


 サラサラのロングストレートヘアを束ねた、メガネの男性だ。

 名前はカーディウス。二大公爵家の一つ、ボナパルト家の当主で、アーヴァインの幼馴染にして親友であった。

 アーヴァインは、ここまで連れてきたメイドをチラッと見て、ため息を吐く。


「……お前、聞いてたな?」

「さて、なんのことかな?」

「とぼけるな。どこから聞いていた?」

「んー……『なぁノーマン。こいつを完璧に鑑定できる人間がいたとしたら、どうする?』からだね」

「最初からか……」


 メイドの顔が、真っ赤になっていた。

 恐らく、ドアをノックしようとした瞬間、カーディウスに両肩を押さえつけられたのだ。そして、ドア越しにこの会話を聞いていた。

 長身、美男子のカーディウスに両肩を抑えられるという、いちメイドでは絶対に味わえない『幸福』に、メイドの女性は真っ赤になっていたのである。

 ノーマンに促されメイドは退室。カーディウスは、子供のように笑った。


「で、面白いモノを見つけたようだね。アーヴァイン」

「……なんのことだ?」

「キミの冗談の話さ。遺物の鑑定……まさか、完璧にできる人間を見つけたのかい? さらに、公爵夫人として迎えるとか?」

「…………」


 アーヴァインは、もう誤魔化せないと思いつつ、ジュジュとの出会いを話してしまった。

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