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心の叫び

作者: さち

…今日も疲れたなぁ。


今日はパート先が忙しかった。

珍しく残業してきて帰ったのは夕方の4時過ぎ。


慌てて晩ご飯を用意しながら、今日あった出来事を口々に話す子どもの相手をする。


「ねぇねぇ、お母さん!今日ね〜!」

「あ!俺が先ー!」

「はいはい。ケンカしないの!順番ね。」

「うん。…うん。そっかぁ!頑張ったねぇ。」

一通り話を聞くと満足したのか、ニコニコと笑う子ども達。その顔を見てホッとする。

そして抱きしめて小さな温もりを確かめる。


うん。今日も二人とも元気だ。



お風呂を用意して子ども達に入ってもらう。

一人で入れるようになったのでずいぶんと楽になった。


「髪の毛乾かしてよ〜!」

「はぁい!ちょっと待ってね。」

乾かしながら鏡越しに目が合うと笑い合う。




そうこうするうちに我が家の大黒柱が帰宅する。

…ただいまも言わない。

ここ数ヶ月、関係は過去最悪。

ギクシャクどころの話ではない。

目も合わない。というか、合わせない。

会話は必要最低限。


結婚して11年。

何かあるたび、折れない彼との折り合いをつけ我慢するのは私の役目だった。

それで上手くいっていたつもりだった。


私が我慢すれば丸く収まる。そう思っていた。


きっと彼も我慢はしてると思う。

けど、度重なる暴言。

デリカシーのない台詞に無関心な態度。


一つ一つは小さな事でも積もり積もると大きくなるんだな。と他人事のように思っている。




そんな当たり前だと思っていた私の日常が、ある日突然ひっくり返った。


去年の秋のこと。

私がある人のファンになったのがきっかけだった。

もちろん、それだけが理由ではない。


けれどトキメキを忘れたアラフォーには人生がひっくり返るだけの威力があったのだ。


当たり前なのに見ないフリをしてきた自分自身の幸せ。


誰かの為に頑張るのは当たり前だけど、当たり前じゃない。

まず、自分が幸せじゃないと誰かを幸せには出来ない。

それを教えてくれたのはその人だった。



一度しかない人生をこのまま終えていいのだろうか?と疑問を抱いた。

やりたいけど目を逸らしてきた事。

たぶん沢山ある。


なんで私だけが我慢しなきゃいけないんだろう?

一度もった疑問は答えが出るまで、いつまででも頭に居続ける。





もうやーめたっ!





私の人生は私だけのもの。

誰の好きにもさせない。



私自身、すごく驚いている。

中身がすっかり入れ替わったみたいだ。


本当の自分を探す旅が始まった気がした。




開き直ってしまえばなんて事はない。

今の時代、繋がろうと思えば色んな人と繋がれるのだ。

趣味が出来て悩む暇がなくなると、人間明るくなるもんだ。イライラしてる時間さえもったいない。



けれど、そんな私の変わりようについて来られなかったのが"ウチの大黒柱"


ダイエットを始めてみるみる痩せる私を見て驚いていた。

好きな人がいるのは生活に張り合いが出る。


もちろん、簡単に会える人ではない。

…基本、一方通行だ。

でもその人がこの世に存在して、発信してくれる言葉や作品。沢山の人達に向けた笑顔でさえ、生きる糧になる。



"ウチの大黒柱"

彼には理解出来ないと思う。

相手を思いやる、人の気持ちに寄り添う事の出来ない人には絶対に。



人生の転換期を迎えた私。

人の顔ばかり見て生きてきたけど、もう人に振り回されるのはやめたのだ。

それからは景色の変わった楽しい毎日が続いていた。

これからも楽しい日々が続くと思っていた。




でも、今日ふと気づいてしまったのだ。


それは…





一日の家事を終え、子ども達はそれぞれ布団に入った。


最近は、家族みんなが寝た後に一人で入るお風呂が私のリラックスタイムだ。


いつものようにお風呂で使えるスピーカーを壁に貼り付け、大きめの音量で曲をかける。





♪〜ただ、泣いて笑って過ごす日々に…





いつもならノリノリで歌うこの歌詞。


ふいに涙が溢れた。

どうしてだろう。涙が止まらない。


鼻を啜り、流れて止まらない涙をシャワーで流す。



新発売の洗顔料。

イマイチだったから全身に使ってやるっ!

この悲しみが消えるように、たくさんの泡ですべて洗い流してしまおう。





「こんな泣き虫の私ごと消えてしまえっ!!」






そう。気づいてしまった。

自分の体の真ん中にポッカリ空いた穴に。



毎日、楽しく過ごしていた。

そのはずだったのに、どうして?



急に襲う寂しさ。虚しさ。

体を冷たい冷たい風が強く通り抜けていく。



寂しさに蓋をしていた事に気づいてしまった。

…単純な話だ。




誰かに抱きしめてほしい。

大丈夫だよって頭を撫でてほしい。

誰でもない私を見てほしい。


嫁でもない。妻でもない。母でもない。

ママ友でもない。職場のしっかり者でもない。



ただの私。




誰か気づいて。

寂しいよ。

悲しいよ。



心が寒い。

でも、誰も温めてはくれない。



温かいはずの湯船に浸かり、自分で自分を抱きしめてみる。



あの人に抱きしめられていると想像して。




…でなければ、きっと心が死んでしまう。




これから何年も何十年もこんな気持ちを抱えて、ここにいなくちゃいけないのか。


…ゾッとした。




私は私の人生を取り戻す。たった今、そう決めた。


泣いて泣いて悲しかった寂しがり屋の私はさっきシャワーで洗い流した。



これから先どう生きるのか、決めたのなら前を向いて歩くのみ。



私は私を生きる。

誰にも私の道を邪魔させたりしない。



それは寂しさや悲しさと共に歩く道かもしれない。

でも、それさえも友達にしてしまおう!



私が終わる時、笑って良い人生だったと言えるように。

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