第2話【親子】
朝モヤが晴れて来た頃、丘の上には薪を割る男が一人。
男の後ろに建つ家の煙突からは、モクモクと煙が上がっていた。
「ふんふーん♪今日も美味しく出来るかな~?」
私は朝食を作っていた。
ジュウウウ
焼き音と、外まで漂う香ばしい香りが食欲をそそる。
「はぁ~、今日も美味しそうに出来たぞ~!さて・・・、
親方ー!!!!出来ましたよー!!!!」
外に聞こえるように叫ぶと、
「わかった!今行く!」
と、野太い声が返ってきた。
私が出来上がった料理をテーブルへ並べていると、
カランカラン
玄関の開く音が聞こえた。
「ちょうど今出来たところですよ~!」
玄関へ向かって声をかけ、料理を並べ終えたところで親方が入ってきた。
「お疲れ様でした!さあどうぞ召し上がれ〜」
そう言ってコップに水を入れていると、親方が席に付いて、
「ライラ、お前も今日で16歳だな・・・。
いつからだったか・・・鍛冶屋を目指すと言いだしたのは・・・」
と言い出した。
言われて気が付いた。
私はどうやら今日、16歳になっていたのだ。
16歳・・・この国ではもう結婚できる年だ。つまり、大人の仲間入りをしたわけだ。
(やったー!それにしても、月日が経つのは早いですなぁ・・・。)
しかし、私が鍛冶屋を目指すようになってから、
誕生日を祝ってもらう事はなくなっていた。私が断っていたのだ。
だから忘れていたのだけど・・・。
なので、意味も分からず
「えぇ・・・?急にどうしたんですか・・・??」
と聞くと、親方は私を無視して話し出した。
「お前は女だてらに・・・、年端もゆかぬうちから槌を振る才があった。
まあ経験としては、まだまだこれからだろうが・・・、
基本的な打ち方はもう、一人前と言っても差し支えないだろう」
「へ??え、うぇ?ふひっ、なんですかなんですかぁ!
そ、そんな誕生日だからって突然褒められても!
なっ、ウフフ、なんにも出ませんよ!?
ウフフフフ、くふっ、ふひひ・・・」
私が込み上げてくる笑いを抑え変な声を出していると、
親方はニヤっと笑い
「・・・だから今日はな、一つ、サプライズだ。
ほれ、開けて見ろ」
と言って、細長の木箱をテーブルに置いた。
私は突然に次ぐ突然の申し出に、
「えぇ・・・、さぷらいずぅ・・・?
へ!!!?!?!?!?!
お、親方!?!?私成人したばっかで・・・
って、わ、私たち一応親子ですよ!?!?!?!
そりゃ私だって親方のことは大好きですけど・・・、
そ、それに私の指、こんなに太くないですよ?!!!!」
と、木箱を指さし咄嗟に叫んだ。
私が叫ぶと、親方は今まで見た事のない唖然とした顔で私を見ていた。
そして口を開くとため息をついた。
「はぁ・・・、おめぇ、何と勘違いしてんだ・・・?」
「えっ・・・?だ、だってそんな、急に褒めるし、
そしたらサプライズとか言ってなんか箱出すし・・・、
そんなの完全にアレじゃないですか!!!」
私がそう答えると親方が
「ったく、バカなこと言ってねえで、とにかく開けてみろ」
と言うので、
「えぇ・・・、なんなんですかぁ?これぇ・・・・。
まあじゃあ・・・失礼します・・・」
と間抜けな反応をして、言われるがまま箱を開けた。
カコッ・・・スッ・・・―
中には小槌が入っていた。
「ええええ!!!こ、これって・・・親方・・・!!親方ぁ!!!!」
「まったく、何と勘違いしたんだか・・・。
ちなみにだが、それはお前のために俺がこさえたもんだ。
槌を打つ才・・・と言ったが、そりゃぁおめぇの力が強いからだ。
それが最近なんでか、今までに増して強くなったみてぇだからな・・・。
まさか小槌をぶっ壊しちまう程になるとは思わなかったぞ。
だが、それなら簡単にゃ壊れまいよ」
親方はそう言うと、鼻の下を指でこすった。
「お゛や゛か゛た゛ぁ〜〜〜〜〜」
私は親方にしがみ付いた。
私は物心つく前から親方に憧れ、鍛冶屋を目指していた。
だから当然、見習いとして私も鍛冶をするのだけど、
なぜか最近、よく小槌が壊れてしまうので困っていたのだった。
だから私はこのサプライズが心底うれしかった。
しかし、ダバダバと涙を流してすがる私をよそに、
親方は私の持っていた蓋をサッと取ると、
カココッカコッ
と蓋を閉めて、
「だーれが今やるって言ったよ。話は終わってねえ。泣くなっ」
と言って木箱を取り上げた。
突然の意地悪に、
「えっ、えっ!?くれるんじゃないんですか?!だって私のために作ったって」
と言いかけたところで親方は、
「ハッハッハ、まあそう焦りなさんな。やらないとも言ってないだろう。
それでだ、おめぇにはマシュ山の頂上にある、
星空石ってのを取ってきて貰おうと思ってる。
そして、この槌でお前の作りたいものを作ってもらう。
その出来栄え次第で、国家試験の推薦状を出してやる」
と言ってきた。
私が親方のその言葉に、
「良いんですか!?ほんとに?!」
と言って胸の前で手を組んで喜ぶと、親方はコクっと頷いた。
「そうゆう事なら!!!
私・・・・絶対・・・絶対ぜーーーったい取ってきます!!!星空石!!!!」
私は拳を握り、瞳の中をメラメラ燃やしながらガッツポーズで決意をあらわにした。
そして気付いた。
「・・・って、どこにあるんでしたっけ・・・?」
目をぱちくりさせてとぼけた顔で親方を見ると
「まったく・・・。マシュ山だ。
たしか、ニブルの北側の馬宿から行けるはずだ。
それと星空石はな、頂上にあるでっけぇ岩に混ざってる。
中々綺麗な石でな・・・、見りゃ分かんだろう。
ま、いつもの要領で取ってこれるはずだ。
あとはついでにお使いを頼む。鉄でも取ってきてくれ」
と、呆れた顔で説明してくれた。
親方はそう言うと
パンッ!
と手を叩いた。
「さ、なんにせよまずは飯だ。あったかいうちに食うとしよう」
それから私たちは食事を終え、お使いの準備をすると玄関を出た。
私が籠を背負い歩き出そうとした時、
「ライラ、これ持ってけ」
と言って、唐突に親方がピッケルを差し出してきた。
「え?あ、はい。え?なんでですか?」
と聞くと、
「星空石はそのピッケルで取った方がいい」
それだけ言うと、
「じゃあ気を付けてな、いってらっしゃい」
と、送り出してくれた。
親方からピッケルを受け取った私は、
「行ってきます。」
と返事をして、丘を後にした。
さて、ライラの誕生日はどうなっていくのでしょうか。
読んでいただきありがとうございます。
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