psycho31
観覧車を降りた後はそのまま遊園地を出て、特別な事もなく家に帰った。
別れ際に紗衣子さんは「いつ未来に帰るかは分からないけど、その時になったら連絡するわね」と話していた。
笑顔が、なんか寂しそうに見えたな。
まあ、俺も大人紗衣子さんと別れるのは…寂しい。
今日は学校の終業式だな。
明日から8月になる、天気
予報じゃ気温が一気に上がるとか言ってた。
大人紗衣子さんが未来に帰る前に、一回くらい海にでも遊びに行きたいな。
あるいは彼女から言ってくるかも? 「審君、海にいきましょう!」とかな。
なんて事を登校前にのんびり考えてたら、紗衣子さんからメールが。
「…今日は休むのか」
内容は『やっぱりボロが出るといけないから学校はサボるわね、ていうか今さら女子高生なんて出来るわけないでしょ! 無理無理!!』という感じだ。
うーん…なんていうのかな、やっぱ昨日の観覧車でのアレは気の迷いだったかなー、ハハハ。
まあ、今日はどうせ長い朝礼と成績表の受け渡しくらいしかやらんし。
明日からは夏休みだ、級友に会わなければ世代のズレに葛藤する必要もないだろう。
教室に入る、遠足の件で色々聞かれるか…と思ったが、そんなことは無いみたいだ。
ロックでメタルな雑誌を広げるサク、平常運転だなー。
ヒデは居ない…また生徒会かな?
「眞木君」
「お、委員長おはよう」
紗衣子の件があるまで、話すどころか近寄る事も無かった委員長。
いや、話してても忘れてたのかもしれんが。
とにかく、最近はなんやかんやで接点が増えてしまった気がする。
「紗衣子さん、今日はお休みなのね」
「ああ、委員長も聞いたのか」
まあ委員長だもんな。
紗衣子の事に限らず、ぶっちゃけ担任よりもクラスの事に詳しいんじゃねって思うし。
「遠足では、ごめんなさいね」
「…いや、おいて行かれたのは委員長のせいじゃないよ」
俺が寝過ごしたからだ。
あと教頭とか、紗衣子も一緒に寝坊してしまったとか、色々な不運が重なったからだし。
おかげで、紗衣子がタイムトラベラーになったりクマが電撃で撃退されるのを見たり、びっくり体験の連続だった。
流石にそんなことは話せないがな。
「ううん…私の所為なのよ、本当にごめんなさい」
「…? まあ、楽しかったぞ?」
「そう、それなら良かったわ…うん。
それじゃ先生に呼ばれてるから行くわね。
ありがとう眞木君、紗衣子さんの事、これからもよろしくね」
「お、おう…?」
よく分からんがあんま気にし過ぎるなよー?
しかし、授業は無いけど雰囲気が慌ただしいな。
なんか落ち着かない…まあ明日から夏休みだもんな。
高校生になってもう4ヶ月か。
…何か、そわそわするな。
教室の雰囲気が、とかじゃない…忘れてた宿題を思い出しそうな感じに似てる。
うーん、なんだろうスッキリしない。
お、ヒデが来たか。
「おはようヒデ、生徒会か?」
「ハハハおはようアキ! 今日は遠足の時の様に寝過ごさなかった様子だな!」
「うるせー」
「まあ僕は1時間以上前から学校に来ていたがな!」
話しながら何やらファイルをカバンに突っ込むヒデ、やっぱ生徒会は大変そうだな。
「む、今日は伊東は休みか?」
「らしいなー」
何故それを俺に確認する。
保護者じゃないし。
しかし、未来じゃヒデは教授だが博士だかになってるんだっけか。
こいつとは、笑い方のクセがうつるくらいには一緒だ。
未来では…俺が死んだ後も紗衣子に協力してくれたって話だし。
時間跳躍についても、ヒデが色々手助けしてるっぽいし。
良いヤツだよな、ホント…ああ、そうだ。
「なあヒデ」
「どうした? 僕はまだ生徒会の仕事が有るから手短にな」
「お前の考えでいいから聞きたいんだけど、ラノベとかSF小説でよくある”時間跳躍で過去を変える”っていう話あるじゃん。
あれやると、やっぱ平行世界とか出来んの?」
「ハハハ! 僕が思うに、そんな物は無いな!
時間跳躍をするだけで世界を分割や複製出来ると?
そんな事を繰り返して居たら、宇宙が崩壊しても不思議では無い」
もう一個似たような世界が作れたら、その材料どっから持ってくるだって考えか。
「じゃあ、過去を変えた後の未来はどうなるんだ?」
「そんなもの、ただ消えるに決まって――」
「わりぃ!! 風邪ひいたから早退する!!」
「は!? おいアキ!! 何処に――」
ああくそ失敗した。
あの大馬鹿は盛大にウソつきやがって…!
お前の帰る未来なんて、もう無いんじゃねぇか!!




