psycho2
「――話をまとめると、この事はナイショにしてほしいと?」
「そ、そうよ…やっと話が通じたわ…」
なんだ、紗衣子疲れ切ってんなー。
無理はいけないな、早く帰って休め。
「と、とにかくこれは秘密! いいわね!?」
「別にいいけど。
でも、あんなの間違って見られてもさ、その後にドヤ顔で” マーライ〇ン! ”て言えば問題なく誤魔化せると思うぞ?」
「くっ! あ、あんたってヤツは…何処までもあたしを馬鹿にする気ね!!」
いっけね、ちょっとふざけ過ぎたか?
ほら、そんなに眉間に力入れてるとシワが残るからやめとけ?
「ふん! いいわよ!!
あたしだってね…ここまで侮辱されたら黙ってられないの!!
明日の放課後、もう一度ここに来なさい! 本物のエスパーってヤツを見せてあげるわ!!」
紗衣子が、食通陶芸家の息子みたいな事言い出した。
指をさすな指を、めんどくせぇ。
何回やっても大道芸は大道芸だと思うけどなー?
1日で劇的に芸の練度は上がったりはしないだろ。
「大人しくマーライ〇ンである事を受け入れろよ、な?」
「あたしを諭さないで! ちょっと黙って聞きなさい!!」
おっと、流石にこれ以上イライラさせると本気でキレるかもしれんし、大人しくするか。
「あたしの超能力はね…なんと毎日変わるのよ!!」
おいおい…この子はそうやって対応に困る設定を。
そのドヤ顔やめてくれ。
すげーツッコミにくい。
「あー? はいはい、つまりお前の超能力? は他にも色々? 有るわけか? なるほど」
「あんた適当に返事してるわよね?」
睨むな紗衣子、続きは明日な。
だが…明日の俺は何を見せられるのか、不安だ。
しかし、毎日変わるって言われてもなぁ…。
「まあ、【日替わりエスパー】て感じだな」
「日替わり定食みたいに言わないでよ!」
◇
次の日、紗衣子は昨日と同じ場所で、スプーン片手に堂々と立っていた。
そう、”超能力”と来て”スプーン”だ。
まさか出オチとは、な…。
ハハッわかる、言わなくても分かるよ、でもさ…。
「いや、ベタ過ぎるのも限度があるだろお前…」
「え、何よ…なんで頭抱えてるのよ」
初手で8割ほど気力消費したぞ、まあ一応確認しておくか…。
「それで念のため聞くけど、今日の能力ってのは?」
「スプーン曲げよ!」
「うわぁ」
うわぁ。
見たまんまだった。
えっいまどき? マジかコイツ。
「ほら見なさいよ! こう持って…ちょっと触れば曲がるのよ、凄いでしょ!!」
あー曲がってるわ、たしかにちょっと触る程度で曲がってるわ。
ネットで見た事ある、昔のテレビとかでやってたのと同じだ。
「酷いよな、お前ってやつは…。
俺、実は少し期待してたのに…」
「え、なんで、イヤ…そんな眼で見ないでよ…」
「…はぁ、取り敢えずそのスプーン一本俺に貸せ。
軽く握ぎりながら、左手は添えるだけ…と。
お、案外簡単に曲がるもんだ」
むしろ、紗衣子より早く曲がったな。
「え? なんで曲げられるの?? まさかアンタもエスパーなの!?」
「いや物理だろ物理」
テコの原理とかだろ。
こんなのはな、ネットで調べれば動画付きでやり方載っとるわ。
「ウソ、あれってイカサマなの…?」
「信じてたのかよ。
つーか、今時の女子高生がスプーン曲げを超能力に分類する方が不思議現象だな」
大体スプーン曲げとかどこで知ったんだ?
SNSか? ネットは何が流行るかマジ分からんし。
「お前さ…能力者自称するならこう、触れずに曲げるとか浮かせるとか有るだろ」
「何言ってるのよ…そんなマンガみたいな事、出来る訳ないじゃない」
お前こそ何言ってんだ、そういうマンガみたいなのが超能力って言うんだよ。
これなら、まだ昨日の大道芸のがマシだったろ。
あれは、明らかに有り得ない量を放水してたし。
最後は小さい虹とか出てたぞ? 中々綺麗な虹だったなー。
んー、どうしたものか…流石にこれで終わり! 解散!! では納得しないだろうなコイツ。
少し話を聞いたが、どうもスプーン以外には一切何も効果が無いらしい。
針金すら曲がらないとか役に立たないなー、すげー微妙。
これはもうフォロー出来ねえ、面倒だな…でも俺が納得しない様子は、紗衣子にも確実に伝わっている。
そして何となく分かる、この流れだと納得するまで呼ばれる。
そのうち、ボストンバッグから出てきて「はいーー!」なんて笑顔で叫ぶわけだ。
「…あれ? あんた何で泣きそうなの、ねえ、ちょっと…」
「…悪い、流石にちょっと不憫で」
まだ泣くな、俺にも出来る事がある筈。
もうちょっとこう、誰でも分かる程度に超能力してくればいいんだが、うーん。
こいつはコレが本当に限界なんだろうか…マンガやラノベの能力バトル物だと、固定観念や思い込みが能力成長の邪魔になってるパターンがあるけど。
あれか、『スプーン曲げはこう!』ていうイメージが強いのかもしれん。
…ぶっちゃけ気の持ちようか? その前になぜスプーンだけなのか分からんけどなー。
まあ、ちょっと精神的に動揺させれば変わるかも?
色々試すのはどうせタダだし、まずはやってみるか! なんか楽しくなりそうだしな!
「今のさ、もう一回出来ね? 今度は後ろで視界に入らない様に見てるから、もっと集中してさ」
「いいけど…別に変わらないと思うわよ?」
紗衣子がさっきと同じ感覚で指を動かし始めた。
タイミングを見ながら、曲がり始めそうな時に…耳に息を吹きかける。
「ふぅぅぅぅ~」
「あんんっ!!」
おおう、ちょっとえっちぃ声をあげさせてしまった。
今の声、録音したかった。
ん? おお! こ、これは…!?
「ちょっとぉ!! い、いきなり何するのよー!!」
「いや、お前手に持ってるスプーン見てみろよ!?」
「はぁ!? …え??」
紗衣子が持ってるスプーンが、何だか前衛な芸術みたいに曲がってる。
後ろから見てたらすげーグニャグニャ曲がってた。
動きヘビみたいでめっちゃ気持ち悪かったが。
曲がりくねったスプーンを改めて見てみる…なんだこれ??
何て言うか…見てると不安になる造形だ。
「やだ、なにこれキモい」
「お前がやったんだろうが」
自分のやった事に責任を持てよ。
「後ろからリアルタイムで見てたが、変形中の動き相当ヤバかったぞ?」
「え、マジ? あたしヤバくない?」
「ヤバいヤバい」
動揺してるせいか、若干語彙力が低下してるな。
俺もか、ヤバいな。
「ま、スプーンは一本駄目になったがな」
「これは曲げる専用だから大丈夫よ」
なんだ曲げる専用って。
「でも、なんでこんなに曲がったのかしら…ねえ、眞木君はこうなるのが分かってて、あんな事したんでしょ?」
「あ? 分かるわけねぇだろ!?
俺が予想してたのは、もうちょっとナチュラルな変化だよ!!」
予想の斜め上だわ、まじで。
「…ごほん。 ま、まあ何か変わるぐらいには予想してたのね?
でも、じゃあなんでこんな風に?」
なんで? って言われてもなあ。
んなこと俺が知るかっ。
「そんなのお前な…今まで根性が足りなかったんだよ、根性が」
「…眞木君、あんた説明が面倒だからって適当な事言ってるでしょ」
紗衣子め、二日目にして俺の本質を理解しやがって。
でも、あながちまったくの適当でも無いんだが。
「超能力なんてよくわからんもの、大体気の持ちようで変わるもんなんだよ。
ほら、精神力の大きさがパワーになる的な?」
「ああ…確かに、そういう事なのかしら?」
他に思いつかんし。
「もっとも、ゲームとネットの知識しかない俺の言う事だ…当てにならないと思うけどなー」
「胸張って言う事じゃないでしょ…でも、間違っててもいいのよ。
超能力について、あたし以外の人からも色々意見を聞いてみたかったし」
「今まで、誰かに相談とかしてないのかよ」
「…出来る訳ないでしょ」
そりゃそうか、俺も同じ状況なら…誰にも言えずに抱え込んでたかもな。
バレた時の反応が、まったく予測出来ないし。
「あたしもね…コレで色々、困ってるのよ…」
ああ、そういう事か。
偶然とは言え、今まで抱えてた悩みを相談できる相手が…ここに一人出来た訳か。
しょうがねえなー。
「…相談にのって欲しいって事なら、話し聞くけど?」
「ホント? 良かったわ! もし相談にのってくれなかったりバラそうとしてたら、『眞木君に公園でスカートの中覗かれそうになった! 耳に息吹きかけられるセクハラもされちゃった!』って、クラスの女子SNS網で拡散しようと思ってた所よ!」
「あっっっぶねーーー!!!」
あやうくクラスの女子全員から冷遇される所だった!!
「いや耳に息フーッってやったのは悪かったけどの覗こうなんてしてないぞ?!」
「昨日公園で、水出し終わってむせてしゃがんでたときに――」
「大変申し訳ありませんっ!!」
うっそだろ、何故バレてた…俺は視線を動かしていなかったぞ?
周辺視は限界まで鍛えてた筈なのに。
「ゴメンなさいわざとじゃないんですあわよくばなんて思ってないです実際見えませんでしたくそっ何でも協力するので許して下さいぃ!!!」
「…すけべ、へんたい、スカート覗き魔」
…何故か心に響く言葉だ、良い。
つらい時に今日のこの言葉を思い出そう。
「とりあえず現状で何が困ってるとかを聞かせてもらえませんかね伊東さん?」
「露骨に早口で話題を変えに来たわね…まあいいわ、パンツ見ようとした件は改めて追及するから」
「ちがうぞ俺が見ようとしたのは太ももだ」
「語るに落ちたわね」
正直に言ったから勘弁してもらえませんかね?
「昨日の”水”なんかもそうなんだけど、例えば授業中とか我慢出来なくなりそうな時があるのよね…そうなると大変でしょ?」
なるほどな、制御出来ないってか。
え、あんなショボい超能力を?
「お前、ちょっと気合が足りないんじゃないか?」
「あんた真面目に考える気ある?!」
「悪い悪い、しかし暴発ねえ…まあ突然隣の席に座った女子が、口から延々と水吐き始めたら…そりゃ周りは大変だろうな」
下手すりゃホラーだ。
「そういう事よ、水に関しては最近になって我慢するのも厳しくなってるし」
その言い方だと他にも有るって事だろうな、日替わりって言ってたし。
まあ、他の超能力は実際見てからでいいか、じゃないとツッコミできん。
「なあ、そもそもいつからその…えっと超能力?? が出てきたんだ??」
「疑問形…ぐっ…抑えるのよあたし…!!
た、多分だけど…高校入学直後だと思うのよ」
なるほど、思ったよりは最近なんだな。
「んで、最初のうちはそこまで困る程じゃなかったのが、最近は我慢出来ず放課後公園でマ゛ー! してしまう程になって来たと」
「マ゛ー! とか言わないでよ!
そうよ…だから何とか我慢する方法をさがしてるのよ!!」
あんま興奮するな、悪かったって。
まあたしかに、会話中いきなり友達が口から水吐き始めたらトラウマになるかな。
何かの病気を疑われるかも?
しかし、そういうの無理にため込むのも良くは無いと思うんだが…。
「取り敢えず、別に我慢する必要は無いんじゃ? 休み時間にトイレいって吐いてこいよ」
「休憩の度にトイレに行って吐くって行動だけ見ると、凄く嫌でしょ…」
メンヘラダイエット女子なんて言われるかもしれんしな。
もしくは頻尿女子?
だからって我慢はいけないんだぞ。
それにな、頻尿でも病んでてもいいじゃないか。
別に悪くない、オタクの世界ならどっちも需要は有るはずだ。
言ったら又怒られそうだから言わないが。
「じゃあ水筒持ち歩いて、我慢出来なくなったら飲む振りして出せばいいんじゃね?」
「えぇぇぇ…いや待って、案外有りかも?」
「スポドリ入れるヤツとかストロー付きの水筒なら、バレないんじゃね?」
「そうね…それならいけそう! なによあんた頭良いわね!!」
「アッハッハよせよせ!!」
ストローはバレない様に不透明なヤツを選べよ、アッハッハッハ!