psycho1
「うっ!! お゛ろ゛ろ゛ろろろろろろろろろ――」
学校帰りの午後、通学路から少しだけ外れた公園だ。
うーん心地よい風。
それに陽光が木陰から差し込んで気持ちいいー。
まあ、目の前には口から放水してる女子高生がいるんだがな、しかも派手に。
一応知ってる女子だ、俺と同じで伊東紗衣子ってやつ。
「ぶッ!!!??? うぷッ!!! ゴホッ!!??」
それを顔面で受けてるこの俺の名前は、眞木審。
この春から高校一年生やってまーす。
いやぁ…水が冷たいなー。
まあ待ってくれ。
何故こんな事になっているのか、みんな分からないと思う。
俺も分からんし、ハハハ。
「ま゛ぁ゛ぁぁぁぁーーーーー!!」
「ぶっ!!! つ、つめたっ!!?? おまっ待っ!? 何おっ何ずっ!?!?」
状況が、まるで理解出来ないんだが…。
◇
目の前で涙目のまま、おろおろとうろたえる紗衣子。
「ね、ねえ…い、今の見た?」
「いやその前にびちょびちょなんすけど…」
シャツが濡れて張り付いて気持ち悪い。
「ご、ゴメンなさい」
「あ…いや、怒ってる訳じゃないから」
濡れたのは事実だが天気良いからすぐ乾くだろうし。
ただ単に、「女子高生の口から放水されたおびただしい量の水を顔面にかけられた」て事実が飲み込めないだけで。
いや実際に言葉にしたら意味わかんねえなコレ。
紗衣子は…何かぐったりしてるし、落ち着く時間が欲しいと思うが。
あ、地面にへたり込むと砂とかで汚れるぞ?
それと身だしなみに気を付けろよ…いやスカートとか、生足か…おっと見てないない。
…足白っ、いやいやいかん。
こう見えて俺は紳士だ、困ってる女子の生足ふとももを凝視するなんて、そんな事はハハハ。
まあ、偶然見えてしまったら仕方がないがハハハ。
いかんな思考が脱線してきた。
ほら、手を貸すから取り敢えず立て。
「あ、ありがとう…」
うんそうそう、ちゃんと土埃払えよ。
俺も、自分のずぶ濡れスケスケ状態を何とかするか…濡れた前髪が張り付いて邪魔だ。
髪は上げておけばいいか…あんま前髪上げるの好きじゃないんだが。
まあ、今の時期なら服も含めてすぐ乾くだろ。
って、気が付いたら紗衣子が目の前に。
「って近い近い!」
「…あっ! ご、ごめんねちょっと見覚えある顔だと思って…。
そ、そうだ! ちょっと待ってて!?」
そりゃクラスメイトだし、視界の隅っこで見かけた事位はあるかもなー。
まあ、教室じゃ喋った事ないハズだ、印象が薄いのは仕方が無い。
「えっと…あった! このハンドタオル使って!」
「お、おう…ありがとうな」
あ、何か良い香りするなこのタオル…これが女子臭か?
そして何このタオルすげー柔らかい、女子力って何気ない小物にも滲み出るのな。
「悪いな、洗濯して返すよ」
「同じのまだ有るからあげるわ、あたしが濡らしちゃったし」
「そか、悪いなー」
家に帰ったら、ちゃんと匂い確認するか。
いや、変態じゃないよ? ほら、柔軟剤何使ってるのか気になって。
「えっと…眞木審君、よね? 同じクラスの」
うん、そうだよ。
そりゃ見覚えあって当然だよな。
「つか、俺の名前とか知ってたのなー、そっちは伊東紗衣子さん?」
「…同級生の名前くらい分かるわよ。
そ、それに眞木君だって、あたし名前ちゃんと知ってるじゃない」
そんなもんかねー、俺は殆ど会話しない女子とかは知ってる方が珍しい。
まあ、別にいいんだけどなー、別に。
「それで、俺は何をされたのか説明してもらえると助かるんだけど」
「ああ!! そ、そうだ…眞木君、ちょっとコッチきて!!」
そんなやり取りをしながら、広い公園の片隅にあるよく分からん小屋の物陰まで連れて来られた。
告白イベントとかの雰囲気じゃないが、何かちょっと切羽詰まった感じするな。
うーん、何て言うかこれは。
「あのー、俺お金とか持って無いんで」
「カツアゲじゃないわよ!!」
まあ、そうだよな。
「スマホの緊急通話ボタンは…コレか?」
「警察に通報しないでよ!!」
「この状況なら普通ポリスコールするだろ?」
冗談だ、冗談。
「あ、俺、ホント生意気な態度とか取った憶えないので勘弁して――」
「だからヤンキー扱いは止めて! 大人しくあたしの話しを聞いて!!」
「悪い悪い、ジョークだよ」
「あんた結構ふざけた性格ね…。
男子からは案外ノリがいいって話は聞いてたけど…」
「お前も案外良いツッコミをする女だな、気に入ったぞ」
「くっ、この男…! なんで偉そうなのよ!!」
陰キャではないな、よくわからんヤツとは言われるが。
大体人間なんてな、多かれ少なかれギャップあるもんなんだよ。
男子とはそこそこ喋るが、女子はなー。
だから無理もない。
「で、何だ? 他人に聞かれたくない話なんだろ?」
「分かってるなら、最初からそう言ってよ…まあいいわ。
ねえ…さ、さっきの見たでしょ?」
「見たな、でもああいうのは周り水浸しになるし、ストリートでやるパフォーマンスとしてはハードル高いと思うぞ?」
「大道芸じゃないし!!」
「シンガポールの観光地でなら大ウケするだろうがな」
「マーラ〇オンと一緒にしないで!!」
「ジョーク、ジョーク」
「あんたと会話してると!! 話が進まないんだけどっ!!!」
悪い悪い、ちょっとはしゃいでしまったか。
だから睨むな、あと扱いが急速に雑になってきてね?
俺への二人称が「あんた」になってんぞ。
「はぁ…まあいいわ、いや良くないけどもう話を進めるわ面倒だし」
「あきらめんなよ」
多少強引に話を進めやがったぞコイツ。
やっぱ雑じゃねえか、面倒くさがるなよ。
「あんたも見たでしょ…あたしが”超能力”を使ってる所をっ!」
あー、はいはい。
…。
は?
うん?
「…悪い、お前ちょっと何言ってんだ?」
「そうよね、超能力…エスパーなんて目の前で見ても、中々信じられないわよね」
「あのな信用の問題を言ってんじゃねーよ。
これまでの戦いを振り返ってもそんなシーン無かっただろうが。
第何話の何分あたりのシーンで超能力なんて使ってんだよ」
「え…あんたはっきり見てたでしょ? あたしが”水”を生み出したのを…」
「えぇぇぇ…?」
あー、アレか。
…いや納得出来ないんだけど。
超能力って言ったら、もっとこうさ…少年漫画で連載されてる様なの連想するだろ?
「確かに、どちらかというと”魔法”かしら? うふふっ、まるでファンタジー映画よね!」
ドヤ顔がクッソムカつくな。
魔法が口から出るファンタジーなんて無いんだよ。
映画で例えるなら、そんなメルヘンなヤツじゃねーだろ。
「どっちかというとミュー〇ント能力だな」
「そっちの映画と一緒にしないでよ!!」
どっちも映画だから同じだろうが。
パワードスーツで戦う人も人気だが。
「手からクモの糸出せる様になったら教えてくれよな。
んじゃ、俺帰るわーばいばーい」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! あんたっ!! 話は終わってないのよーーー!!」
全身タイツの色は赤にしとけよー。




