1-2 クエストの受注
タクトが四葉団に加入し一週間が経過した。
ここは王都ルリエ、文化レベルはまさに西洋ファンタジーそのもの
といった街並み。
獣人やエルフなどの亜人の姿も見え、それでも街は商売をする者
談笑をする者で今までタクトの見てきた日本の街並みと変わらず。
「平和だな」
「タクトォオオオオオ!」
「ふが!」
背中に衝撃が走り、地面に顔を擦りつける。
「ライト、お前は何度言ったら普通に話しかけられるんだ」
「ようやく私達にもできそうなクエストが!」
「店長が追いかけて来てるぞ」
「ハッ!私はこれにて失礼します!話は夜!宿の食堂で!」
鬼の形相をした店長にライトは首根っこを捕まれ引きずられていった。
この一週間、ライトに関して少しずつ理解し始めた。
彼女はここルリエから遠く離れた田舎から出稼ぎに出てきたようだ。
一攫千金を狙い冒険者になったようだが魔物と戦うのが恐ろしく
最弱の魔物であるスライムを収集クエストのついでに倒しているだけ。
収集クエストは碌な金にもならず、発注量に対して駆け出し冒険者の
数の方が多く受注するのも困難な状況だ。
ああしてバイトをしながら冒険者を続けているらしい。
「あいつが勇者になるなんて、まるで想像がつかないな」
タクトが何故こうして日がな一日同じ場所にい続けるかというと、
これもまたバイトであった。
看板を持っているだけである。
パン屋に訪れそうな者がいれば案内するだけ。
「牧場のジイさん、かなりバイト代くれてたんだな・・・。
これ一日であの頃の半額だとは、ハァ・・・」
今は無き魔王城を思い出し、あの頃はよかったナァ、と呟きながら
青空を見上げしみじみとした気持ちになっていた。
「世を忍ぶとはいえ魔王様がバイトしてるなんて、アンタの部下が
知ったらどう思うのかしらね」
「俺あの時もバイトしてたぞ」
「うっそでしょ!?」
タクトの発言にリリスが心の底から引いている。
「呆れたわ・・・アンタねえ、一応魔族なんでしょ?魔王なんでしょ?
魔族の正義は弱肉強食よ。弱い奴は強い奴に何されたって文句は言えないの」
「ふぅん」
「ふぅんじゃないわよ!ふぅんじゃ!部下を恐怖で従わせて、部下の手柄を
全部差し押さえる、それが魔族でしょうが!」
「なんだかなぁ、効率が悪い気がするんだよな。それ」
タクトは元人間だからだろうか、と思いながら考えをリリスに言う事はなかった。
「タクト」
「シエラか。どうしたんだ?お前は今日バイトじゃないのか」
「ちょっと野暮用でね。実家に帰ってたんだ」
「ん・・・?実家ってことはお前、王都に住んでるのか?じゃあ、わざわざ
あんな安宿に泊まる必要なんてないじゃないか」
「そうでもないさ。僕も一人前の冒険者になりたいんだ。だから宿代くらい
簡単に払えるようにならないとね」
タクトはシエラの真っすぐすぎる性格が嫌いではなかった。
よく「いい奴ほど真っ先に死ぬ」なんて台詞を聞いたことがあるが彼はそれを
体言しているのではないだろうか、などと意味のない推測をしていた。
「ライトがクエストを見つけたってさっき騒いでたぞ」
「ああ、聞いたよ」
「いつもどおり王都近くのダンジョン「ミスト」での散策依頼だね。低層で
採取できる・・・」
「まった、ライトが語りたげにしていたから夜アイツから聞くよ」
「ふふ、そうだね。じゃあ僕はクエストに必要そうな物を調達しておくよ」
胸ポケットがもぞもぞと動く。
「行った?」
「本当に人間が嫌いなんだな」
「いいじゃない、性分なのよ」
「そういえば、この時代の魔王軍の情報は集まったのか?」
「それがサッパリね。アタシはずっとアビスの守護を言いつけられていたし。
外に戦いに出たことあまりないしね。だからこうして未来の軍記を読むこと
くらいしか・・・」
リリスは訝しげな顔で一ページを見つめる。
「アンタたち「ミスト」に行くって言ってたわよね」
「ああ、そう言ってたな」
「そこの主に冒険者二人と遭遇したって記録があるわ、やっぱりここで・・・」
「それがシエラの・・・」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
バイトが終わりライトとタクトは夕焼けに染まる道を歩く。
「ひいふう・・・うん、これで今月も何とかやりくりできそうですね」
ライトは三人の給金を数えている。
宿屋の食堂、いつも使っている席に座るもシエラはまだ到着していないようだった。
「先飯食べないか」
「もうすぐ来るでしょう。そんなに腹ペコなんですか?」
「看板持ってるだけでも結構体力使うんだ」
「キミたち、そこの席譲ってくれないかな!?」
赤髪長髪の男が何の脈絡もなくタクト達の机の前で大声を出す。
俺に話しかけてるのか?まさかな、とタクトはメニュー表を眺める。
「やっぱ先食べていよう。シエラもそんな心の狭いやつじゃないさ」
「あの、タクト。この人」
「ん?」
「キミたちィ!?聞こえなかったようだね!」
わざとらしくマントをはためかせタクトの肩に肘を乗せる。
「この宿じゃ、まだボク達の武勇伝は伝わってきていないのカナ?クイン!」
「そうね、キング。アタイ達そんなに大した活躍はしていないもの。」
「ハッハッハ!クイン。今いいところなんだからサ・・・何でキミはいつも
卑屈なんだい?ボクらミストを踏破したじゃないか・・・」
「ミストを踏破!?すごい!」
「ハッハッハ、もっと褒めたまへ。褒めまくりたまヘ!そして満員のこの客席を
このデキる!冒険者のボク達に譲りたまへ」
ライトが目を輝かせながら椅子をつめる。
こいつ、譲るどころか一緒に食事をする気か。とタクトが頭を押さえる。
「悪いが俺はお前達の噂もなにも・・・」
「そうかそうか!では教えてやろう!ボクたちが誰なのかを!」
「聞いてねえ・・・」
もはや何度も目の前の男の名前は聞いた気がするが、とジト目でタクトは行く末を
見守った。
「この美形なボクの名はキング!「ミスト」マスターの冒険者ッサ!
「ミスト」でわからない事があればこのボクに聞きたまっへ!」
ぐい、と連れを引っ張り出す。
「こっちの美少女がクインッダ!我がバディにして「ミスト」の主を屠るこの街
随一の暗器使いといえば彼女の事ッサ!」
前髪をかき上げ、キメポーズ。
「ボクらに「ミスト」の事はお任せさッ!・・・だからそこを退きたまへ。
腹が減っているのだ、我々は」
「どうしたんだい?」
混沌としたタイミングでシエラが現れる。
「シエラ!この人達スゴイです!是非一緒に食事をしてお話を!」
「ボク達は席を譲ってほし・・・ん?キミは・・・」
キングはシエラの顔をまじまじと見つめると
「すまない、用事を思い出したヨ!ハッハッハ!デキる冒険者は多忙でね!」
と言い残しクインの襟を掴み脱兎の如く帰っていった。
「何だったんだ、アイツら」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
タッタッタと小刻みに鳴り響くカスタネットを奏でるような音。
「クイン、見たか?」
「うん見た」
その音の正体は闇夜を走る二つの影の足音。
「アイツ確か―――」
「そう、この国の。アイ様に―――」
「ふぅん」
二人は立ち止まる。
影、としか言いようのない姿。
「何だキミは。盗み聞きとは品のないヤツ」
「聞かれたからには、殺すしかない」
クインがいち早く動く。その瞳は赤く光り、角が生える。
どこからか取り出したモーニングスターを投擲。
目視不能の光速の一撃が影を貫いた。
「まだまだ!」
腰に隠した暗器を次々繰り出す。
キングは前線に立つクインの背後で詠唱。
「我々に遭遇したことを後悔したまへ!」
地からヘドロの魔物が影を襲う。
しかしその全てはただただ地を抉っただけ。
闇から伸びる腕にクインとキングはは首を絞められる。
「ぐっ、お前は・・・!」
「安心しろ、殺しはしない。」
章管理の王都の名前ドチャクソ間違えてました・・・
原案だったんです。修正しました