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1-1 ギルドへ

「ここがギルドだよ」

「おお・・・」


タクトはライト達と共にギルドに訪れていた。

想像よりも大きい、想像よりもしっかりとした役所のような作りの建物。


「タクトが入れば私達最強だわ!」

「俺戦闘経験なんて全くないぞ」

「ハハハ、大丈夫だよ。僕達基本弱い魔物としか戦わないし。

採集や発掘がメインだから」


ギルドの中、忙しなく職員と思わしき者達が書類をあっちへ

冒険者をこっちへと動き回っている。


「どーも!四葉団のライトです!」

「四葉団って、二人しかいなかったのに、なんだそのネーミングセンスは・・・」

「彼女、四葉のクローバーが好きみたいで、人数なんて考えてもみないだろうね」


なにやら受付で問答をするライトが鼻息を荒くしタクトの手を引く。


「この方が我が団の新メンバーです!」

「はぁ、じゃあ冒険者登録をしますので水晶に手をかざしてください」


呆れる職員の顔色。

それもそのはず、タクトはどう見ても冒険者には見えない。

シエラからもらったフード付きの私服。

筋肉質でもなければ杖も持って来てはいない。

大方ライトがそのあたりに歩いていた一般人を登録させようと引っ張ってきたのだろう

と察したのだろう。


「言っておきますが、最低限度の依頼をこなせるだけの戦闘能力を有していると判断

されない場合は登録できませんからね」

「ふっふっふー、タクトを侮って貰っては困りますよ。彼は跳べばゴードン山脈を飛び越し

潜ればリダイズ海溝よりも深くまで・・・」

「わかりました。わかりましたから」


半ば強引に話を打ち切るようにし、タクトの手を水晶の上へと引っ張る受付嬢。


「水晶の上で十秒くらい、はい。そのまま」

「こうか」


ビシ!と水晶にひびが入る。


「きゃっ!?」


水晶がキラキラとガラス片を爆散させながら砕け散った。

喧騒渦巻いていたギルドが静寂に包まれる。


「劣化が進んでたんでしょうか・・・?飛び散った破片が危険

ですから隣にどうぞ・・・テミスさん。掃除を」


いそいそと奥から事務員が箒を持ってくると、隣でバリン。

同じく手をかざした瞬間はじける。


「一つ金貨3枚なのですが・・・」

「弁償は勘弁してください!」


タクトは机に頭をぶつけ直角の角度で謝罪。

ガラス片が頭に刺さり血だらけの顔面を受付嬢や職員がドン引きの眼差し。

ライトは目をキラキラと輝かせ、シエラは財布を取り出している。


「ひょっとしてイタズラで水晶に魔法を・・・」

「してませんしてません!!」


必死に何度も頭を打ちつけ謝罪の連打連打。

今金貨六枚を支払うなどといったらタクトの地道に貯蓄してきたバイト代

全て吹き飛んでしまう。


「その人、上につれてってあげなよ」

「係長」


大人ばかりの事務所にはあまりに不自然な姿。

小学生くらいの背丈に大きすぎる丸めがね。

近づいてきた受付越しだとこの距離では頭しか見えない。


「子供か?」

「子供って言うな!!!」


事務所との仕切りを飛び越え顔面にドロップキック。

タクトは空に放物線を描いた。

地面に激突、痛い。


「彼女はああ見えて三十・・・」

「年齢も言うな!!!」


メキャァア!

と、えげつない効果音が鳴り響く。

シエラは青い顔で膝を押さえ倒れる、いやどんどん土色に変化していく。


「全く・・・おい。そこの失礼な奴」

「ん、え、俺?」

「お前以外にいないだろう!こっちへ来い」


服を引っ張られギルドを出、外に併設された階段を登る。

その廊下には歴戦の冒険者然とした格好の者達。

如何にも使い込んだ、歴戦のと言うべき大剣を背負う者や、体中傷だらけの屈強な

亜人の戦士。大仰な髭を蓄えた耳の長いエルフと思しき老人。


「タクト!ムキムキに囲まれてます、なんて幸せな光景なのでしょうか!」

「え?お前そういう趣味?見るからに強そうな連中で怖いんだけど・・・」

「黙ってついてこい」


タクトが自身の異物感を存分に感じながら、おっかなびっくり「係長」と

よばれる彼女について行く。

扉を開け、部屋の中には多くの冒険者が詰めており

ひっぱられるタクトについてきたライトと二人おお、と声を漏らした。

先ほどの水晶とは異なり、高さ一メートルはあろうかという結晶。


「こっちを使え。お前、元々レベル高いだろ」

「そうなのか?」

「たまにいるんだ。家の周りにモンスターが出て狩りが日課の奴とかで、

冒険者目指す頃には既に駆け出しの何倍も強い、みたいな奴がな」

「なるほど」

「そんなやつでも水晶にひびが入る、とかその程度なんだが・・・」


身に覚えはあまりないが、やはり魔王として生まれた以上最初からある程度の

ステータスなのだろうか。

あまり目立つと面倒ごとに巻き込まれそうだなぁとぼんやりとタクトは考える。


「そういえば、お前達は何レベルなんだ」

「え?私は2レベルです」

「僕は5レベルだね」


足を引きずるシエラがいつのまにかタクトの背後にいた。

心なしかやつれて見える、大丈夫だろうか。


「うそ!シエラいつの間に?この間まで3レベルだったじゃないですか!」

「ははは」


シエラの胸ぐらを掴み裏切り者~とライトが揺らす。

気の毒に、とタクトは心の中で合唱。

先ほどよりも大きな、より澄んだ色の水晶に手をかざす。


「そうか、冒険者記録。新しいのだったな通称“タグ”だ。覚えておけ」


係長が水晶の下に厚紙を置くとジワリと文字が浮かび上がる。


「どれどれ、見せてみろ」

「あっ、おい。個人情報だぞ」

「レベル、500・・・!?」


その声に周りがどよめく。


「何かの間違いだろう?いや、しかしタグは神の加護により嘘偽りない・・・」


ブツブツと独り言を放す係長から素早くタグを奪う。


「あ!まだ全部見終わってない!」

「これで登録完了だろう。さ、いくぞ。」

「僕は事務手続きを済ませておくから君たちはクエストでも見ておいてくれ。

それにしても五百なんてね。すごいな」

「あんまり驚かないんだな」


シエラは少し困った顔をし、こう答える。


「あまりに非現実的な数字ってわけでもないんだよ。ここにいる歴戦の冒険者

達は皆レベル百近くだろう。五百となると・・・そうだな歴史に名を遺した強者達と

同じくらいの数値じゃないかな。」


歴史上の英雄達と同レベルといわれてもピンとはこないが

誤解ということにしないと腕自慢の冒険者達に戦いを挑まれたりするのではないか。


「タクト、君は僕たちには秘密な何か一子相伝の流派の継承者でしたとか・・・」

「無いよ!」


タクトはタグを覗き見る。

リリス、読めるか。と小声で呟くと後ろからクスクスと笑うリリスが耳元で

「ジョブ、魔王見習いですって!ほぉら。やっぱり。」

と茶化していた。


「よくみろ、五十だ、五十」


タクトはタグの「0」に当たる文字をリリスの魔法で消してもらい周りに見せる。


「なぁんだ。五十か。五百は流石に非現実的だったかな」

「当たり前だ、そんなにホイホイ英雄級の強さの奴が転がってたら怖いだろ」

「うぅん・・・私が見間違えていたのかしら・・・」

「五十だってすごいです!今すぐクエストに!」

「落ち着け」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――


ギルドを後にし、タクトとライトは宿屋で食事を取る。

シエラはギルドに用事があり、今日は二人だけでの食事。


「タクト!これに挑みましょう!ボルケーノドラゴンの卵の回・・・」

「や・だ・よ!水晶の故障なんだからあまりアテにするなよ」

「そんなことないです!あの跳躍力!それに溢れんばかりの魔力!

五十でも限りなく五十一よりの五十に違いありません!」

「仮に俺が滅茶苦茶強かったとしてそのおこぼれに預かるような

経験、お前たちの望む冒険か?」

「うぐっ・・・」


はしゃぐライトを落ち着かせ、タクトは外の空気を吸ってくると言い

近場の木にもたれかかる。


「リリス」

「どうしたの?魔王見習いサン」

「イラっとするな・・・」

「あの人間たちを利用するって決めたんでしょ?もっと仲良くしなくていいのぉ?」

「いいんだよ。・・・それに人と話すのが苦手なんだ」

「くっふふふ!魔族らしい台詞じゃない」


魔王城へのライトによる襲撃。

仲間を有無をも言わさず殺され、タクトにとってライトは許しがたい

存在に変わりはなかった。

その当の本人・・・とはいえ過去の、今目の前にいるライトからは魔族に

対する恨みも何も感じることができない。

それどころか魔族の存在すらまともに認識していない状況。


それではタクトの消化不良の恨みはどうすればいい?


タクトは考えた。

昨晩のリリスの記録を見るに近々シエラが魔族に殺されライトが

魔族と戦う決心をする、という流れが妥当だろう。

例えば、そのシエラの死が回避されたら?

回避させたのが魔族のタクトだと彼女が知ったら?


タクトのたどり着いた結論は一つ。


「未来の勇者を消し去り、更にわが物とする。これでこそ魔王!」

「それでこそ魔王(見習い)ね」

「うるさい!」

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