1-0 再転生
どういうことだ?何がどうなっている?
目の前の少女は確かに「ライト・イングリッド」と名乗った。
「どうされました?顔色が悪いようですが・・・」
「お前は、俺がわからないのか?」
「へ?・・・初対面かと」
ライトと名乗った少女は“あの”彼女がまるで幼くなったような、そんな容姿。
「お前は・・・!」
彼女に殺された仲間たちがよぎる。
抵抗もろくに出来ず蹂躙されたであろう彼らの変わり果てた姿。
焦げ臭い城の燃える臭い。
「・・・何でもない。人違いだ」
タクトは立ち上がり、路地に入る。
状況がさっぱり分からない彼は現状の整理しようと考えた。
先ほどの彼女には少なくとも目の前のライトは自身に敵意はなく――。
「あの」
「・・・」
「ねえったら」
「・・・・・・」
「おおぉーい」
「・・・・・・・・・」
「・・・ふん」
足を引っ掛けられ転びそうになる。
「何故ついてくる」
「何故って、貴方困っているでしょう?見過ごせません」
「ついてくるな、俺はお前がついてくるから困っているんだ」
ボロボロのマントをはためかせ、タクトは飛ぶ。
「すごい!」
跳躍したタクトの目に映る広大な都市。
山なりに広がる都市は、その頂上に“いかにも”な城を構えている。
城下町は扇状に伸び、だんだんと小さくなる家や何らかの建設物。
どうやらここは城から随分と遠い地点だ。
降り立った三階建ての家の屋上でタクトは俯く。
「俺はいったい、どうすれば。ここはどこなんだ」
「まったく、ウジウジウジウジ。自分は魔王とか抜かしてたのはどの口かしら」
「なっ!」
服の中にもぞもぞと動く何か。
「うおっ!?」
「ぷはあ!やっと出られたわ。ああ、臭かった」
「お前・・・リリスなのか?」
「ええ、そうよ。まったく、久しぶりで気合入れすぎたわ。
飛びすぎたわね、これは」
あって間もない魔族だが、この状況を作り出した張本人だが、
タクトは深く安堵のため息をついた。
「よかった、お前だけでも生きててくれて・・・」
「何いってるのよ。全員生きてるわよ」
「・・・何?」
「“リリリリカ・リロック・リリスリス”時を司る大悪魔よ。
長すぎて皆リリスって呼ぶけどね。魔力を使いすぎて今はこんなだけど・・・」
手のひらサイズになってしまったリリスがタクトの周りを飛び回りながら
踊るように話す。
「それよりどうだった?あのドラマチックなカンジを演出したアタシ!」
自慢げにタクトの目の前で鼻息をふんすふんす。
「いや、お前がヒロイン面は、流石に無理があるだろ」
「なんですってー!」
ぷりぷりと怒る彼女はふぅ、と息を吐き話題を本題に戻す。
「六年、時間を巻き戻したわ。こんなに戻したのは初めてよ。」
「なんで、いやでも助かった・・・のか?」
「なんでって、別にアンタのためじゃないわよ。アタシは魔王様の元で御使えするため。
ついでだからアンタも助けてあげたってワケ。一応は魔族みたいだしね」
「じゃあ、スライム達も、ケルトも!」
「生きてるわ。当然アンタのことなんて知らないでしょうケド」
「よかったぁ・・・・」
タクトはしりもちをつき、力が抜けてしまい寝転がる。
快晴の空が気持ちよい。
「安心したら、一気に疲れが・・・」
「いいから早く魔王軍に合流するわよ。アンタもタショ~の戦力の足しにはなるでしょ」
「ちょっと休憩させてくれ・・・」
「見つけましたよ!」
聞き覚えのある凛とした声。
しかし、あの声にさらに、その若さからか溌剌とした元気を加えた声。
「あなた!行き倒れのあなた!是非私のパーティーに入りませんか!?」
寝転がるタクトの手を引っ張る少女。
「ぐっ・・・やめろ、俺は本気で疲れて・・・」
「いいから~!私達のパーティーで一緒に冒険者として旅に出ましょう!」
本気で殺したい、とまで願った少女は今なんと言った?
「冒険者・・・?お前、魔王軍と戦うんじゃ・・・」
「まおうぐん?何ですかそれ。私達が目指してるのは冒険者として
様々なダンジョンで金銀財宝を集めて田舎に仕送りをですね」
「それは冒険者じゃなくて盗掘者と言うんだ」
「細かいことはいいんです!さぁ、胸躍る冒険へ!」
興奮する彼女のはあくまで冒険者を目指すのだという。
タクトはリリスを見つめる。
リリスも事情はわからないと肩をすくめる。
「わっ!なんですかその子!妖精ですか!?なんて珍しい!」
「や・め・な・さ・い!人間に触られるなんて!ああ、怖気が走るわ!」
「おしゃべりもできるんですかぁー!?すごぉーい!」
混沌とした状況。
そこに吹き込む一筋の風。
「声がすると思えば、こんなところにいたのか・・・ライト。探したよ」
落ち着いた口調とともに現れた青年。
柔らかな表情をした金髪の男。身長はタクトよりも頭一つ分は高い。
その腰には剣や魔道具を携えた冒険者然とした身なりだ。
「これからダンジョンにいくって約束、忘れてるんじゃないか?」
「ごめんなさい・・・でも!この人すごいの!冒険者のタグも騎士の証もつけてないのに
ものすっごく強そうで!ていうか飛んで!?うちのパーティーに勧誘してたの!」
「テンションあがりすぎだよ・・・。ふむ、その人浮浪者じゃないのかい?」
「違う!」
「ハハハ、失礼。何か事情があったんだろうね。喧嘩にでも巻き込まれたのかな。」
男は上着を脱ぎ、タクトの手渡す。
「これは?」
「あげるよ。その格好じゃ寒いだろう。うちのパーティー云々の話は
置いておいて、どうだろう。
僕達が借りてる部屋に来ないかい?せめて着替えくらいはあげるよ」
「そうだな・・・」
リリスは早く魔王軍にという顔をしているが体力の限界を身体の節々が訴える。
「お言葉に甘えさせてもらおうか」
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「どうして誘いにのったのよ。まったく。」
ぶつくさとリリスは文句を言う。
「身体が限界なんだ。それにライトのことが気になる」
「ん~?アンタ人間の女にキョーミあるんだぁ~。
確かに飼ってる奴はいたけどさぁ~」
「お前ホントデリカシーっていいうか・・・」
水浴びを終えたタクトはベッドに寝転がると玄関から物音。
「やっ、もう体力的にお話してる場合じゃないって感じだね」
ドアを開け先ほどのの青年が入ってくる。
「いや、助かったよ。服まで貰って。恩人を無碍になんてしないさ。
何でもきいてくれ」
「そう言われると恩着せがましくなっちゃって気まずいな」
何だろう、この感覚。毎日の非現実が彼のほんわかした性格が俺の気疲れを
癒してくれるかのような・・・まるでスラ吉のような・・・。
「ライトが悪かったね。彼女一回言い出すときかないから」
「本当だぞ、彼氏ならしっかり面倒をみるんだな」
「え・・・?ハハハ。僕が彼女のかい?うーん、彼氏か」
「なんだ、気持ち悪いな」
「僕は。そうだな。保護者だよ」
「へえ、そうかい」
男女関係で男側で保護者などと抜かす奴は大体一年以内に付き合い始めるんだよ
とタクトは己の捻くれた恋愛価値観を披露してやろうかと考えたが疲れが勝った。
「うん。おっと、紹介が遅れてすまない。僕はシエラ。キミは?」
「タクトだ」
「タクト、か。耳慣れない響きだな、遠方から来たのかな?」
シエラはマグカップを手渡す。
「あちっ」
「この辺りの名産だよ」
茶をすすりながら彼は今までのダンジョンの冒険譚を話す。
彼らが二人ペアの冒険者であること、魔物との戦闘はからっきし負け続きであること
を心地良く、時に笑いを生み、退屈のなく話した。
「ふあ・・・」
「もういい時間だね。僕はライトとダンジョンに行くけど、君は休んでるといい。
ベッドは好きに使ってくれてかまわないよ」
「ありがたい。そろそろ限界だし寝かせてもらうよ」
扉が閉まるとリリスが現れる。
「やっと行ったわね」
「人間のこと嫌いすぎだろう」
「嫌いよ、あんなイキモノ。直ぐに裏切る。カネのためなら何だってする連中よ」
「魔族も似たり寄ったりじゃないのか?」
「そんな事ないわ!アンタ魔王のクセに魔族のプライドがないの?ハァ・・・。
信じられないわ。魔族に生まれたならせめてニンゲンには負けないように・・・」
「長そうだから今度な」
ポカポカと頭を殴られるのを無視しタクトは布団をかぶる。
リリスが枕に腰を下ろすと、ポンと音を立て本を取り出す。
「なんだそれ」
「魔王軍の記録よ。あの男勇者のパーティーで見た覚えがないから」
ぱらぱらと心地のよい音が睡魔を誘う。
「あっ!これよ!」
リリスに頭をはたかれたたき起こされる。
「俺一応魔王なんだけど・・・」
「アタシは認めてないって言ってるでしょ、それよりこれ」
「本が小さすぎて読めないんだけど・・・」
「ったく!使えないわね!」
リリスは口角を上げ、うれしそうに語る。
「あの男、近々殺されるわ」