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プロローグ結 本当の転生

「うん・・・」

「ようやく起きたか」

「お前は・・・誰だ」


意識が定まるや否やリリスは臨戦態勢を取ろうとするも

身体に力が入らず膝をつく。


「俺は魔王、タクトだ」

「魔王?魔王ですって、はっ。信じられないわ。

それに、魔王様はアンタみたいなブサイクじゃないわ」

「ぶっ・・・何を!ええいこれを見ろ!」

「それは、魔王様の・・・魔王軍の・・・」


リリスはその杖を見、涙を流す。

嗚咽が混じり、冗談を言える状況でもなく。


「その杖が魔王様以外が持ってるって事は、本当に魔王様は亡くなったって事なのね」

「ああ、そして新魔王として俺が生まれた」

「・・・ふぅん。でもアタシはアンタを認めないわ」

「何?」

「第一顔が好みじゃないわ。助けてくれたことには感謝するけど、それだけよ」


リリスの顔が曇る。


「あれ」

「む?」

「魔王城の方じゃない」


遠くを眺めると魔王城から煙が上がっている事に気が付く。


「急ぐぞ!」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――


「なんだ・・・これは」


ただでさえボロボロだった魔王城が燃えている。


「スラ男ー!スラ美ー!ケルトー!」


ごうごうと燃える木々と城。

熱気で気圧され前に進むこともままならない。


「スラ男!」


ボロボロに、痛々しい姿のスライムが城門から現れる。


「魔王様」

「大丈夫か!?どうした!スラ男」

「やっと、俺の名前・・・すみません、俺」

「いったい何があったんだ」

「急に城が爆発したと思ったら、燃え始めて・・・

皆殺されて・・・ケルト、スラ美・・・」


スラ男は悔しそうに涙を流す。


「俺、悔しいッス。なんでこんな」

「わかった。もう休め!すぐ手当てをしてやる!」

「見ぃつけたァ」


燃え盛る城の中から現れる影。


「拍子抜けだなァ。残党だッて聞いたから四天王並みを期待してたんだが」


城を燃やした理由は問わない。

魔王城だ、攻撃される理由など数え切れないほどあるだろう。

部下を攻撃した理由は問わない。

魔物は「悪」と見なされているのだろう。


「貴様、死ぬ覚悟はできているのだろうな」

「ハッ、怖ェ怖ェ」


飄々とした男はにやけながらこちらを見つめる。

手にもつ槍を器用に曲芸のように回しこちらを威嚇する。


「俺の名はソウマ。勇者パーティーの伊達男。五聖の一人だ。ヨロシク」

「お前は・・・アタシをッ!」


リリスの瞳が怒りの感情で赤く光る。

勇者パーティーと彼は言った。そしてこのリリスの反応を見る限り本人なのだろう。


「ん?なんでアビスの主がこんな所に・・・って考えるまでもねェか。

魔王復活なんてこのソウマさんが許しませんッてね!」


ソウマは飛ぶ、しかしタクトは動かない。


「・・・まて、貴様・・・お前。その顔、その性格・・・!

壮真。吉川壮真じゃないか!」

「なッ!お前、何故我がの真名を!」


攻撃しようとしたソウマが咄嗟の言葉に身を翻し距離を取る。

彼の顔をまじまじと見つめるタクトの記憶が蘇る。

大学を遡り、高校、中学校時代の記憶を。


「お前、中二病こじらせて、どんなルートかわからないが水銀を手に入れ

一気飲みした挙句死んだ伝説の中二病吉川!」

「ぐああァア!俺様を中二病とか言うな!」


どういうことだ。彼は中学時代に死んでしまった筈。

ということはタクト自身も既に・・・。

その答えにたどり着き自身の死が確定した気がして、だが仲間を見つけられた

気もして、タクトは少し複雑な心境になってしまった。


「おい吉川、俺を覚えているか。筧拓斗。中学で同級生だった。」

「フッ、我が前世を知る物よ。・・・俺様を二度とその名で呼ぶなァ!」

「・・・わかった。もうこんな事やめてくれないか。

前世の記憶が有るお前ならわかるだろう。この魔物たちは悪さなどしない。

しそうになったとしても俺が制御する。だからこんな虐殺みたいな真似はやめろ」


首筋にチクリ、と槍が刺さる感触。


「俺様はお前など知らん。それにお前は魔王。それだけで戦う理由は十分だ」


ソウマは先ほどまでと打って変わって真剣な表情で槍を構える。


「俺もお前のように転生して・・・!」

「それが俺様を誑かす嘘じャねェと証明できるか?」

「な・・・」

「魔物の嘘に騙され仲間は何人も死んだ。例えそれが本当だとしても

俺様はお前を倒す。魔族を殺しつくす。そうやって、ようやく作り上げた平和なんだ。」


その瞳に嘘はない。

否、その瞳は今まで彼の経験してきた地獄を物語るようだった信念に満ちた瞳だ。


「どうしても、か」

「どうしてもだァ!!」


視界の外からの魔術。

ゴウ、と爆炎が辺りに焦げ臭い臭いを醸す。

目の前にいたはずのスラ男は、もういない。


「スラ男!」

「ごめんな、騙してて」


背後にいたはずのスラ吉が消え、ローブ姿の人間へと変身する。


「カイン。遅ェよ!」

「目的は果たしてるでしょ」


背後の者に右腕を固められ、タクトは地面に押さえつけられる。


「お前達・・・クソッ!」

「ごめんなさい。タクト」


城の縛縁の中から伸びる影。


「お前は・・・!」

「私の名はイングリッド・ライト。貴方の敵です」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――


目の前に立ちはだかる四人のグループと、タクトを押さえつける者。

飄々とした槍使い。

強靭な肉体、岩と見まごう程の体躯の老人。

目の下のクマが目立つ白髪の病弱そうな女。

そしてブロンドの髪の見覚えのある少女。


「勇者一行は魔王と相討ちって・・・」

「私たちは蘇生の加護を受けていますから」

「チートじゃねえかよ・・・!」


リリスが、タクトが拘束されるや否や臨戦態勢に入るも本調子ではないのであろう

老人に取り押さえられる。

背後にいた魔術師のような見た目に反して異常な腕力であった。

鎖を引きちぎったタクトの力でも抵抗できない程に。


「魔王の復活は何があっても止めなくてはいけないのです。この世界の為に」

「お前は・・・お前は!俺を魔王とわかって!」

「はい」

「魔物と共存している村がって・・・!」

「カーム村の事か?胸糞悪かったよなぁ。全員殺さなきゃいけなくなるなんて」


タクトはその言葉に耳を疑う。

ライトは何を俺に同情するような口調でソレを語った?

最初からライトはタクトを魔王だとわかって、居場所や同行を探って。取り入って。

怒りに唇を噛み千切れ血が流れる。

無残に散ったゲル状の死体と折られた骨が視界に入り涙が溢れだす。


「許さねえ・・・許さねえ!お前ら、絶対に!」

「動かないで」


女は拘束を強める。


「あいつらがお前らに何をした!」

「村人を襲いました」

「あいつらがお前らに迷惑をかけたか!?」

「魔物は存在するだけで妖気を放ち周囲の生物を魔物化させます」

「あいつらがお前らに・・・」


意味のない問答。彼女は長い旅の中で全ての回答を見つけ出したのだろう。


「許せるかよ・・・あんな気のいい奴らを。何の意味もなく」

「ごめんなさい、貴方が生まれ変わることがあれば、きっと次こそ人間として」


剣が振り下ろされる。

畜生こんな所で、また俺の仲間を奪うのか!

感情が爆発し身体の痣がタクトを覆う。

彼は真っ黒な存在と成り果てた。


「くっそおおおおおおおおおお!」

「きゃあ!」


拘束を無理やり解き、跳ぶ。


「皆殺しだァアア!」

「やはりそれが貴方の本性!」


リリスを抑える老人以外の四人が臨戦態勢に入る。

魔術で手は抉られ、槍が腹を裂き、剣が足を砕く。


止まるな!


己の内から湧き上がる殺意を原動力に辺りの木を抜き辺りを凪ぎ

口からドス黒いエネルギーの塊とも思しき光線を放つ。


「うおおっ。生まれたてにしては、あまりにも強えぇ」

「久しぶりだからって油断しないで、ソウマ」

「わかってますともォ!」


槍が分裂したかと見まごう程の連続突き。

雷魔術がタクトを焼く。

傷つけたはずの勇者達は後方に控える魔術師により瞬時に回復して行く。

彼らの攻撃一撃一撃が確実にタクトの体力を奪う。


「許さねえ」


ボロボロの身体で巨大な老人に爪をむける。


「許せねえよなぁ!」

「コヤツ!」


咄嗟の男の掌底を喰らいタクトは吹き飛ぶ。


「離せ!」


その隙にリリスが拘束から逃れる。


「逃げて」

「な、に」

「今のアンタじゃアイツらには絶対勝てない。ここはアタシが時間を稼ぐわ」

「何を言っている。お前までいなくなったら、魔族はどうなる」

「なんで私が封印されてたと思う?」

「こんな時に、何を」


迫る勇者達。

勝ち目がないのは明白だ。

既に身体は碌に動かない。

無傷の勇者達の攻撃が眼前まで迫っている。


「私、不死なの。さ、行って。魔王様」


手に触れられた、その瞬間視界が暗転。


「リリス!」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――


「ここ、は」


見覚えのない都市。

レンガ造りの街並みの路地裏。

道行く人々が血や吐瀉物や襤褸切れのようになった布を纏うタクトを

気味悪がって通り過ぎる。


「君、大丈夫?」

「お前は・・・!」


見覚えのある顔。

見覚えのある髪型。

だが、タクトの知っている彼女よりも随分と幼い。


「私はライト・イングリッド。君は?」

次から一章です

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