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1-11 異常性レポート Case.ライト・イングリッド

ライト・イングリッドは片田舎の農家の一人娘であった。

彼女は献身的に働き、家族の手伝いを欠かさぬ手のかからない子。

貧しくも幸せな日々、農村であった村で人々は互いに助け合った。


ある日、村を流行り病が襲う。

ライトの父と母は倒れ、村人の半数が病床に伏した。


「ああ、金があれば街から医者を呼べるのに」


誰かがそうぼやいた。

無理も無い、それほどにやせ細った村。


「私がお医者さんを連れてくる!絶対に!」


両親の反対を押し切りライトは村を飛び出す。


最初の異変に気づいたのはライトの父だった。

病状が悪化し体の気だるさや苦しかった咳は徐々に収まりつつある。

朦朧とする意識の中彼は確かに見た。


村に医者がいるのだ。


「みんなが良くなってよかった!」


ライトは屈託無く笑う。


医者は村を去るまで必要な事以外、何一つ口にしなかった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――


ライト・イングリッドは誰よりも正義感が強かった。

己の内にある、誰に教えられたとも分からぬ絶対的な道徳に従うような

そんな節があった。


例えば村人同士の喧嘩をいち早く見つけては仲裁し、陰湿な嫌がらせをする

者がいればその者の犯行現場に現れ皆に謝らせた。


その程度であれば少し正義感が強いだけと斬って捨てたのだが、彼女の

その異常な正義感が暴走する事件が勃発する。


ある日、村の娘が姿を消した。

その翌日に届く身代金要求、山賊の仕業だ。


娘の両親は、王都から派遣される巡回兵に捜索を依頼するも、貧困な村では

捜索も碌に行われない。

彼らはひどく哀しみ、一週間が経過しようとする頃には、もう娘は戻らないもの

だという共通認識が村に蔓延した。


そんな中、ライトはどの様な手段を用いたのだろう山賊の拠点を発見した。

それを村の巡回兵に報告。

彼女は自身で解決がなせない物事に対して最適な選択をする強かさを持っていた。


しかし、これが悲劇の始まりだった。

その兵士は山賊から金品を受け取る内通者だったのだ。

兵士はライトの首を絞め気を失わせる。

山賊の拠点に連れて行き、「身代金を巻き上げた後奴隷商に売り払ってもう一儲けだ」

と豪快に笑う。


悲鳴が響き渡る。

フォークが山賊の首に突き刺さっている。

洞穴に響く数々の野太い声。

フォークは首を貫通し、明らかな致命傷。

自体を飲み込めない山賊たち。

小さな影が首元に、眼球に、胸に的確に急所に食器を突き立てる。


やがてそのうめき声は小さくなってゆき、消えた。


異常に震え怯える、もう一人の少女に小さな影は語りかける。


「帰ろう?」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――


ライト・イングリッドは十四歳を迎えると村から旅に出る。

両親を二度目の流行病で亡くしたことをきっかけに、

貧困に喘ぐこの村を必ず救うと。


「あの」事件以降村では住みづらくなっていたのは確かだった。

あの少女の両親には感謝された。

だが、その感謝と勝算も三日がたてば畏怖とおぞましさという感情に変貌

していった。

その無意識下でのライトへの恐れが彼女を苦しめた。


彼女も年を重ねるごとに己の中の正義への衝動を理性で押えつけられる

ようになっていった。


しかし、村人からの奇異の眼差しは「あの」事件以降変わらない。

以来、剣を振るうのすら、いや、フォークを持つことですら過去の死体が呪言を

語りかけてくるようで恐れていたというのに。

彼女の苦悩は誰も理解しなかった。


馬車に揺られ、様々なキャンプを経由した。

どれ程の距離を渡って来たのだろうか。

ライトは自身の出身の村が所属する国の王都を始めて訪れた。


その都はライトを苦しめた。

騙す者。

盗む者。

傷つける者。

数々の小悪を見るたび彼女は気が狂いそうだった。

それを見逃すことが出来ない。

しかし、見逃さなくてはまた村と同じような状況になってしまう。


「君、一人?」


冒険者ギルドの前で優しい顔をした男と出会う。

どことなく、父親と似た雰囲気。


「僕はシエラ。冒険者になりたくって家を飛び出したんだけど最低でも二人組で

来いって追い返されちゃって、ねえ君名前だけでも貸してくれないかな」

「・・・しょうがないですね!」


彼女は冒険者となる。

小さな依頼をこなす事で彼女は己の正義を騙すのが上手くなっていった。

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