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プロローグ起 魔王軍、スライム三匹しかいなかった

「・・・王!魔王様が!」


響く声に意識を覚醒させられる。

今日は休校のはずなんだが、と思いながら彼は瞼を擦る。


「ここ、は?」


眩い光。騒音、いや雄叫びか。

べとべとと体にまとわりつく何かを拭いながら彼はもがく。

ぼんやりと感じる光が目の前の液体を掻き分けるたび近づく。


「うええ、なんだこれ気持ち悪いな・・・」


薄く、柔らかい素材の膜。

指でなぞるとそれの表面は裂け、液体とともに彼は排出される。


「うおっ」


格好悪く地面に流され倒れる。

視線を上げると眩しすぎる光、爆音。

これではまるで産まれたての赤子のような。


「魔王様がついに御生まれになったぞ!」

「「うおおおー!!!」」


「・・・魔王?」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――


「御誕生、おめでとうございます」


骸骨男がカラカラと音を立てながら話しかけ、魔王と呼ばれた彼は目を疑う。


「ハハ・・・お、おう」


何の冗談だ?何かのテレビ番組に巻き込まれたか?いや、そもそも俺は

芸能人でもなければ芸人でもない。ただの大学生・・・。


「魔王様」

「はい!?」

「ああ、魔王様。魔王ともあろうお方が「はい」など・・・御生まれになられたばかりで

混乱しておられるのですね。もっと不遜に、横暴にしてこそ魔王ですぞ!」

「う・・・うん。ソウダネ」


夢にしては意識が覚醒しすぎているし、何もかもがリアルな感触。

先ほど飛び散った液体に反射する姿を見る。

容姿は彼の意識の中にある自身そのものだ。

ただ一点、肌の色がところどころ黒く変色していること以外は。


「して、魔王様。御名はなんと・・・」

「え?タクトだけど・・・っとまて!!」


仮に、もし仮に・・・もし仮にだ!これが何らかのファンタジー世界に自身が巻き込まれた

とするなば・・・。そうでなかったとしても今の状況を楽しもう。

彼は楽観主義者であった。


「我が名は、デス・・・えーっと。ファントム・・・違うな。」

「タクト様ですね」

「オイ!ちゃんと話しを最後まで聞けよ!」

「ひっ!申し訳ございません!」


骸骨男一瞬で土下座。

立場で怯えているのだろうか、魔王魔王と呼ばれて入るが彼自身何の力の実感もない。


「名前は・・・まあいいや。とりあえずタクトで」

「ほっ」

「それでここは、どういう設・・・世界なんだ?」

「タクト様は何の記憶も・・・」

「当たり前だろう、今生まれたばっかなんだぞ」

「そう、ですか。先代魔王様の忘れ形見である貴方様であれば、よもやと思ったのですが」


骸骨男はどことなく悲しげな雰囲気でタクトと見つめる。

当然骸骨男に表情などないのだが、その所作から感じ取ることが出来た。


「先代魔王様がこの世を去ってもうすぐ一年になります。この世界「アユース」を

全面統治しようとしておられたのが先代魔王ナーガル様でした。

しかし彼はにっくき勇者にその覇道を阻まれ・・・相打ちという形でこの世界から

お旅立ちなされました」


骸骨男はわざとらしくハンカチで瞳を拭う。

そしてタクトの膝元で杖を手渡す。


「どうかタクト様には先代の悲願を成し遂げて欲しいのです!」

「まかせろ!!」


タクトは異様に涙もろかった。

詳細を聞くまでもなく即答してしまう、そんな男である。


「で、この杖は?」

「魔王軍の統率杖です。それがあれば、いかなる魔物でも魔王様に従うことでしょう」

「なるほどな、それでこの城にはどれだけの軍勢がいるんだ?」

「私と、スライムが三匹。ですな」

「は?」


沈黙。


「待て、待て待て。聞き間違いだよな。だって生まれたときうおおお~て」

「ははは、このスライムたちですよ」


ひょっとして、この世界のスライムは屈強な戦士を指す言葉なのでは・・・。

後ろから現れる小さな影。


「ご紹介します。スラ吉、スラ男、スラ美」


カラフルでぼてっとしたゲル状。

ちょっとかわいらしい見た目の魔物が並ぶ。


「ほぼほぼ想像通りの見た目の奴!!!」


何故だか気恥ずかしそうにするスライム達。

かわいいけども!と心のなかで地団太を踏む。


「おい、これは流石に統治もなにもないんじゃないか?いくら勇者が

いないからって・・・そのへんの村人に倒されちゃうだろ」

「そこを何とか魔王様の手腕で・・・」

「無茶言うなよ・・・」

「いえ!そのようなことは!魔王として御生まれになられたのであれば貴方様にも

きっと強大な力が」


力説虚しくタクトは強烈な眠気に襲われる。


「む・・・すまん。詳しくは明日にしよう。体力的に限界だ」

「それはそれは、承知いたしました。さ、寝室にご案内します」


骸骨男が立ち上がり、タクトの道案内を始める。

荘厳な石造りの城。

壁には焼け跡や傷跡が残り、つい先ほどまで戦いが行われていたのではないかと

思わせるほど。


「魔王城・・・ボロボロだし・・・」


階段を登り、最上階に位置する魔王の寝室。

一人の人間が使うには大きすぎる部屋。

ど真ん中に設置されたベッドに寝転がる。


「おいおい・・・」


天井が、無い。

雨降ったらどうするのだ。

遠くから梟の鳴き声。今日のところは眠ってしまおう。


タクトは考える。

もしここで自分が寝て目が覚めてもまだこの夢のような状況だったら・・・。


毎日サボりすぎによる単位の心配をしていた日々。

自堕落にバラエティ番組を見ながら一人野次を飛ばしていた日々。

恋人どころか友人すらまともにおらずゲームとアニメに逃避した日々。


「うん、あんまり未練は無いな」


タクトは深い眠りに落ちた。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――


鳥の鳴き声、朝日が差し込み覚醒を促す。

空は、青い。

しかし空にいくつか浮かぶ島のような物を見て悟る。

ああ、どうやら俺は本格的にファンタジー世界の住人になってしまったらしい、と。


遠くから声が聞こえる。


「――――そしてあちらに見えます廃城がかの有名な勇者“イングリッド”が

打ち倒したとされる魔王城で――――――」



「観光地になってんじゃねーか!!!!」

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