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虚言男子は女神を求む  作者: 氷雨 ユータ
ハバカリさん
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いざ大いなる怪異の下へ

 一応は刻限通り、四名が到着した。クオン部長と萌はずっとじゃれ合っていたから時間は感じなかっただろうが、僕は暇だった。こんなのって部員差別だ。だから部員が集まらないのだ。せめて僕と萌がじゃれ合っていたなら話も分かるが、こんなんじゃ不平等も甚だしい。

 早速部長を強請るネタが一つ増えた。部長が人間を差別する様な人間だと萌に教えてやれば、きっと彼女も僕の魅力に気が付くだろう。

 そんな事は後で考えれば良いからさておき。

「誰ですか貴方?」

 九蘭高校の制服を着ているから、彼女が依頼者なのだろうとは想像がつく。だが当たり前の様にここに集まられても、僕には誰何だかさっぱり分からない。一瞬幽霊かと思ったじゃないか! 

「あらあら。クオンさん、ひょっとして部員の方々にわたくしの紹介を済ませておられないのですか?」

「……すまん。忘れてた。そこに居る彼女がシュウキの情報提供者こと九重智里ここのえちさとさんだ。シュウキはまだまだ被害状況が小さい。九蘭高校から外に噂が広まっていないからな。彼女が情報提供をしてくれなければ気付けなかっただろう。まあその代わり同行させなきゃいけない訳だが……一応聞いておきましょう。命はお守りしますが、怪我までは自己責任でお願いします」

「お構いなく。シュウキなどという怪談は、所詮悪戯好きな男が広めたデタラメに過ぎません。わたくしが同行する理由は、デタラメなのを確認する事です。怪異などという不確かな存在は、この世に存在しませんわ」

 同意する。その件については全面的に賛同したいが、同時に僕はそんな口調の女子高生がこの世に存在していた事に驚きだ。それこそ不確かな存在だと思っていた。実在する以上、僕の考えは失礼にあたる。反省。実は幽霊以上に信じていなかったが、言い訳はしない。本当に申し訳なく思っている。僕から見える世界が狭すぎただけだと認めよう。

「…………そうですか。まあ、どう考えるかについてこちらから口を挟む事はしません。個人の自由ですから―――話を戻すと、全員揃った事だし、これから学校に潜入する。智里さん、侵入口は作っておいてくれましたか?」

「ええ。こちらへどうぞ」

 今のやり取りから、僕は部長と情報提供者の間に存在している利害関係を見抜いた。情報提供者は情報提供の代わりに同行して欲しいと頼んだ。同行するつもりなら侵入口を作っておいてくれと部長は頼んだ。

 同行の許可はしないとか何とか言っておいて、そういう所はちゃっかりしている。抜け目のない人だ。しっかりリターンを稼ぐなんて。

 彼女の案内で僕達が辿り着いたのは体育館の側面入り口だった。九蘭高校は僕達の高校と同じで体育館から学校までが通路で繋がっている。体育館にさえ入れてしまえば、学校に入れたも同然だ。ここで気になるのは、もし彼女を置いてけぼりにしていた際に、部長は一体どんな侵入手段を考えていたのかという事だけれど……もしもを気にしても何か得をする訳じゃない。

 評価を上げる為にも、僕は食い気味に扉へ近づき、中に首を突っ込んだ。


「うわあ~暗いですね…………」


 当然の事なのだが、照明一つついていない体育館は月光だけが唯一の灯りなので、非常に薄暗い。昼は体育会系の男子が馬鹿やっているだけに、そのギャップをしているだけに、心からの本音として、一抹の寂しさと不安を覚えた。

 ある筈のものがない。

 欠落に由来する恐怖は、僕みたいな人間にもあるのだ。

「藤浪君、怖いの?」

「……怖くなんか無いよ! むしろ萌は大丈夫? もし怖かったら僕が守ってあげるからさッ。近くに―――」

「気持ちは嬉しいけど大丈夫! 仮に死んじゃったら、その時はその時だからッ」

「え?」

 その元気な声からは想像もつかない内容に困惑していると、背後から我妻先輩が近づいてきて、小声でこっそりと教えてくれた。発音そのものはハキハキしているので聞き取りやすい。

「ああ見えて萌は死生観が割とドライだからなッ。そこはちゃんと気を付けておけよッ!」

「ど、ドライですか……でも、女の子ですよ?」

「死生観に女も男もあるかよ! 部長の影響を受けてんだ。萌は高校に入るずっと前から部長と交流があるからな!」

 運命の相手である僕を差し置いてそんな関係を持っていたとは、あの狐面の下にはどうやら相当鼻の下が伸びたスケベ面が隠されているらしい。いつかあのお面を引っぺがして、その醜悪な本性を萌に見せてやらなければ。そうすれば彼女も、いつも傍に居た僕の頼もしさと魅力に気が付き、ついてきてくれるだろう。

「良し。それじゃあ入る前に、チーム分けをする」

「チーム分けって言いますけど、部長! また二人一組ですかッ?」

「その通りだ。ただし今回は智里さんが居る。命だけは守るのが最低限の役目として、智里さん。俺と一緒に行動してもらいますが、構いませんか?」

「ええ、構いませんわよ」

「後のチームは……そうだな。陽太、お前は藤浪君と組んでくれ」

 は?

 堪忍袋の緒が切れた。僕はオカルトへの興味など忘れて、体育館よりもよっぽど真面目に食いついた。

「部長、おかしいでしょう! 僕は男子です、内裏も男子です! 普通ですよ? 普通は男女一組にするべきでしょう! 僕と萌とか、我妻先輩と御影先輩とか!」

「おお。良い事言うじゃねえか後輩! 俺も支持するぜ!」

 我妻先輩と順調に絆を深めている一方で、クオン部長は仮面越しに眉間を寄せた……気がする。

「気持ちは分からんでもないが、普通とは何だ? 俺達オカルト部は普通じゃない部活だ。敢えて言おう。頭のおかしい部活だ。頭のおかしい事しかしないし、歴代卒業生も十分頭がおかしかった。今もそうだ。他校の生徒が夜の校舎に潜入してる。下手しなくても不法侵入だ。普通じゃない。そういう事をするグレーな部活がここだっていうのに、普通という下らない物差しで測るのはあまり良い考えとは言えないな」

「じゃあどういう物差しが要るんですかッ?」

「俺の独断」

 あまりにあっさりと勝手で乱暴な事を言うもんだから、僕もついつい言葉に詰まってしまった。可哀想に、クオン部長は頭が悪いのだ。他の部員も呆れているだろうと意見を振る様に背後を向くと、

「藤浪君、大丈夫だよ! 部長の判断に従ってれば自分で動くよりは安全だから!」

「……信用出来ないけど、でも判断はいつだって正しい」

「部長はいつだって当てになるからな! そりゃ、今まで何度も危ない目に遭ってんだから、当てにならなきゃ困るんだろうが!」

 

 あれ?


 かなり信用されている。萌も含めて言わせてもらうと、ちょっとどうなんだと苦言を呈したくなる。こんな胡散臭い部長が当てになるなんて普通に考えてあり得ない。こんな高校生が何処に居る。

「藤浪」

「う、内裏」

「悪いが俺も賛同するぞ。お前は入ったばかりで、しかも一週間はハブられてたから知らんだろうが、クオン部長はマジで頼りになる。俺らで判断してたら間違いなく死んでた時もあるくらいだ。人は見かけによらないって言うだろ?」

 その言葉は嘘だ。いや、嘘ではないかもしれないが、身なりが汚くて発言も胡散臭くて、顔も見せようとしない相手を理解したい人間は居ない筈。交流したい人間は居ない筈。好きになる人間は居ない筈。

 僕には何も分からない。この男の何がそんなに魅力的なのか。

「うちの部活は民主主義を採用してはいないが、こればかりはな。分かってくれ藤浪君。分かってくれないなら帰ってくれても良い。どうする?」

 嫌だ。またハブられるのは嫌だ。それでは萌と交流を深められない。

「……行きます」

「宜しい。それじゃあ御影と我妻。お前等もペアだ」

「おおおおお! 部長、分かってるじゃないか! なあよろしくな由利! なあ!」

 肩に手を回しながら露骨にウザがらみを仕掛ける我妻先輩に、御影先輩は眉一つ動かす事なく部長に言った。

「チェンジで」

「今度高いデザートをやろう」

「私は、萌じゃない」

「御影先輩ッ!? さらっと私を馬鹿にしてませんかッ?」

「…………まあ、そう言わないでやってくれ。一人きりだと死ぬ可能性が高い。俺は智里さんを守らなきゃいけないし、頼む」

「………………分かった」

 三人の知らない所で、我妻先輩は人知れず胸を撫で下ろしていた。



「萌は一人で」



「はい!」

「――――――えッ」

 僕は耳を疑った。この部長、自分の発言も覚えていないのか。全く信じちゃいないが、それにしても一人きりだと死ぬ可能性が高いとは何だったのか。記憶力が人間とは思えないくらい低いか、もしくは萌を殺したくて仕方ないのか。

 彼女を好きな人物として、そして萌という人間を理解している者として、その発言を断じて見逃す訳にはいかなかった。

「部長! それはおかしいでしょッ。さっき貴方、一人きりだと―――」

「言ったが、それは御影と我妻の話だ。俺や萌に関してその心配はない。玄人という事だ。死ぬ可能性が皆無とは言わないが、君達よりはずっと低い。だから萌も承諾した」

「そんな理由で返事したんじゃないんですけど……えーと。やっぱり単独行動してた方が怪異って出るんですよ! 死ぬ可能性があったとしても、私はオカルト部部員として必ず怪異に遭遇したいんです!」

「―――そんな殊勝な心構えをしていたとは夢にも思わなかった。さては今考えたな!」

「部長、酷いです!」

「フフ、嘘だ嘘。ああ因みに言っておくが、こいつは馬鹿だから同じ心構えにはならなくて良いぞ。寿命と幸運の無駄遣いだ」

「部長ッ!」

 萌はクオン部長に飛びかかって、ポカポカと彼の身体を叩いている。勢いや音からそこそこ強い力で叩いていると思われるが、彼は全く痛がる素振りを見せない。

「酷いです酷いです! 命なんてもったいぶってたら怪異なんかに会えないって部長が言った言葉なのに!」

「そんな部長らしい事言った覚えが無いな。多分さいお…………うん。いいか。もういいだろ萌。自由に探索させてやるんだから嬉しがってくれ」

「謝ってください!」

「ごめん」

「許します!」

 大分前から思わないでも無かったが、この二人漫才か何かでもしているのだろうか。やり取りが先輩後輩のそれとは思えないというか、随分軽妙なやりとりと言うか……萌が敬語を使っているから上下関係は間違いなくある。あるのに、この二人の距離感は先輩後輩のそれではない。

 そして部長の指示通り、萌は彼の身体を叩くのをやめた。

「結構話がズレたから改めて確認するぞ。今回は学校をチームで探索する。御影と我妻、萌、陽太と内裏、俺と智里さんだ。トイレを中心に調査してくれ。異論は無いな?」

 夜という事もあり、肯定は沈黙で示される。クオン部長はズレてもいないのに仮面を上げ直して、体育館に片足を踏み入れた。

「オカルト部、いざ出発!」


 


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