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虚言男子は女神を求む  作者: 氷雨 ユータ
ハバカリさん
12/13

悪辣な裁き

 古戦場が終わったら他の作品は更新します。



 主人公がこれから痛い目見るってマジ?

「なあシュウキに関わるものって何だよ」

「俺も知らないけど、普通なら絶対に無い物とかじゃないか?」

「普通なら絶対にない物って何だよ」

「だから知らねえって」

「じゃあ僕達は何を探してるんだよ!」

「しつこいなお前も! シュウキに関わる何かだって話聞いてなかったのか? 状況的に考えられない物とかあるんだよ。例えば机の上にノートが置いてあったとしようじゃないか。ノートには名前を書くものだけれど、その名前が血で描かれてたら? 『ばばやん』の時もそうだった。あの時は学校じゃなかったから、手掛かりを見つけるのにはかなり苦労したけども」

 当たり前だが、僕は全く気が進んでいない。他の人に比べれば内裏の事はずっと信用しているが、それは相対的評価だ。絶対的評価を下せば、彼もまた信用出来ない人間の一人となる。僕に信用して欲しかったら今すぐ怪異とやらを目の前に出してほしいものだ。それを萌の目の前でボコボコに叩きのめせば、きっと萌は僕に惚れてくれる。内裏はああ言ったが、僕がどういう人間かは他でもない僕自身が一番よく分かってる。

 

 ―――やっぱ萌の所に行こうかな。


 僕はそもそも萌の好感度を稼ぎたいが為にオカルト好きを装っているのであって、居もしない奴を探しに来た訳じゃない。仮にそうだったとしても、三階なんて内裏一人で十分だろう。アイツには教室や特別教室の机の中、棚の中、用具入れの中を探る様がお似合いだ。どうせ何も見つからないし、探すだけ骨折り損。何だ、やはりお似合いじゃないか。

 人には適材適所というものがある。

 クオン部長ならオカルト部の運営、内裏なら無駄で無様で醜い仕事、萌は僕に守られる仕事、そして僕は萌を守る仕事。間違っても内裏の手伝いをしてやることではない。それに萌は僕の魅力に気付かないくらい観察力が足らない、それくらい頭が弱い女性だ。

 誤解を招くのは嫌なので補足しておくが、僕は決して内裏の悪口を言いたい訳ではなく、むしろ彼を誉めているのである。萌は運命の相手である僕の魅力に気付かないくらい観察力に欠けているのだから、そんな女性に二階を丸々一つ任せるのは酷というものである。一方内裏は無意味で無駄で無益な事をこなす能力において彼の右に出る者はいない。僕が居なくてもやっていける事は間違いない。

「…………内裏。僕は別の教室を探すから、ここはよろしく」

「うん? ああ分かった。まさか同じ階に居て別々に遭遇するとは思えないけど、気を付けてな」

 嘘は吐いていない。僕は別の教室を探すと言っただけで、この階とは一言も言ってない。内裏が奥に行ったのを見届けてから、僕はぬるりと廊下へ出て、音を立てない様に階段を目指して歩いていく。

 そして一気に踊り場まで階段を下ると、丁度僕と同じくらいの背丈の人間が踊り場まで上っ

「……うぉッ」

 声が喉まで出かかったが、踊り場まで上がってきたのは僕だった。らしからぬ動揺だが、少なからず誰も居ない校舎に恐怖を覚えているという事実は、どうやら認めざるを得ない。まさかこの年にもなって鏡に驚く事になるとは。全く情けない話だ。しかし人間にとって弱みとは魅力の一つにもなり得るので、僕にもこれくらいの可愛さはあっていいだろう。自分で言うのもなんだけど。

 堪え切れない笑みが鏡に映る。


 ―――ん?


 左手を動かすと、右手が動く。

 右手を動かすと、左手が動く。

「…………」


 階段を下りると、階段を上ってくるって……おかしくないか? 


 鏡は左右反転こそすれ、上下反転はしない筈だ。そういう風に設置してあるならともかく、姿見とあればどう考えてもおかしい。科学的に考えて、不自然にも程がある。これがいわゆる怪奇現象という奴だろうか。オカルト部は妄想に取りつかれた危ない部活だとばかり考えていたが、まさか本当に―――?

 あり得ないとは思いつつも、「まさか」という名の好奇心が僕を突き動かした。恐る恐る鏡に触れようと手を伸ばすと、本来の感触は無く、僕の手は鏡の中に入っていた。

「うわあああああ!」

 未知への恐怖から目論見がバレる事など忘れて叫び声をあげた―――刹那。何かとてつもない力が僕の手を鏡の中へと引っ張った。直ぐに踏ん張ろうとしたが、この謎の力と僕とではあまりにも実力差があった。とても人間が抗える強さじゃない。まるでブルドーザーと綱引きをしているみたいだ。

「内裏、助けてくれえええええ!」













 

 全身が鏡の中に入ると同時に、僕を引っ張る力は忽然と姿を消した。

 慌てて身を翻し鏡に飛び込むが、単に頭を強打しただけに終わる。

「いってえ…………ん?」

 鏡の世界に入った―――と思ったが、周囲の景色を見ていると、気のせいだったのかもしれないと思い直す。もし本当に鏡の世界に来たのなら、周りも僕も反転している筈である。しかし景色を見る限り、先程とは何の違いも見受けられない。

「夢…………?」

 腕を見ても、手の痕がぺったりくっついていたりはしない。だけど確かに、引っ張られた感触が残っている。


 ―――幻覚だったのかな。


 人は思い込みで殺せると聞いた事がある。目隠しをした状態で『足を切る』と言って痛みを与えながら水をかけると、実際に死ぬとか死なないとか。小耳にはさんだ程度でうろ覚えだが、それくらい思い込みの力というのは強いらしい。

 だとしたら、失敗した。助け何か呼ぶんじゃなかった。よりにもよって内裏なんか呼んでしまったら僕の計画は全て台無しではないか。こうなっては仕方がないというか、また説教されるのも面倒なので大人しく三階に戻る事にした。今から戻っても手遅れな気はしなくもないが、『階段で足を滑らせた』と言えば何とかなるだろう。アイツは僕の数少ない友達だし。

 再び三階の廊下に戻ったが、アイツの姿は何処にも見えなかった。もしかして声が聞こえなかったのか? 僕の声はそこまで小さかっただろうか。それよりは探索に夢中になって聞こえなかった可能性の方が高い。教室の中を覗き込むが、やはり姿が見えなかった。


 ―――まさか、アイツ。僕を出し抜いたのか!?


 だとしたら許せない。見つけ次第ぶん殴ってやる。人の恋を応援するフリをして自分の恋を推し進める奴はこの世で最も許せぬ邪悪だ。そう考えれば教室に居ないのも納得出来る。アイツは僕が萌に合流しようとするのを読んで、僕が抜け出したと同時に反対側の階段を下りて、先に合流しようとしたのだ。

「くっそ!」

 教室から離れ、また直ぐに階段へと向かう。二人きりの時間を過ごしたいようだが、そうはさせるか。

 角を曲がって階段に足を掛けた瞬間、鏡の前に萌が立っている事に気が付いた。

「も、萌ッ!?」

「藤浪君……! 三階を探索してたんじゃないのッ?」

「え? も、勿論してたよ。それで調べ終わったから、今降りようと……」

「そうなの? でもここに居るって事は、藤浪君も鏡に引っ張られたんじゃないの?」

「ん? …………え。じゃあもしかしてここって」





「多分鏡の中。私も凄い力に引っ張られちゃったんだ。孤立してたらどうしようかなって思ったんだけど…………藤浪君が一緒なら、少しは安心だよね!」


 

  


 

 

 黒彼の方では萌がずっと敬語だったせいで、ため口に違和感が…………後輩ムーブが板についてた証拠ですが。

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