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空飛ぶ円盤

 目の前が、だんだんと暗くなってきました。ポーラーは、なんとか飛び続けようとしますが、思うように力がはいりません。息を吸おうとするたびに、ズキンと胸が痛み、ますます気が遠くなるのです。

「残念だよ、少年。君の能力も研究したかったが、こうなっては仕方がない」

 メンゼル博士の声は、ちっとも残念そうには聞こえませんでした。

「ポーラー!」

 アビーが叫んでいます。

 結局、ポーラーは彼女を助けることができませんでした。でも、ポーラーは、空を飛べる以外、他にはなんの取り柄もない、ただの子供なのです。いえ、今はもう、飛ぶことさえ、ままなりません。

(どうした、もうあきらめるのか?)

 ふと、頭の中に声が聞こえました。でも、それはアロンソのものではありません。どうやら、男の人のようですが、ポーラーの知らない声です。

「だって、僕はヒーローじゃないんだ」

 ポーラーは、しょんぼり答えました。

(だが、君はまだ飛べるだろう?)

 ポーラーは、はっと息を飲みました。胸はまだ痛みますが、どうやら心臓は無事のようです。てっきり、自分は死んでしまうものと思っていたポーラーは、大した怪我では無いことに気付き、急に元気がわいてきました。

 ポーラーは、体を真っ直ぐに戻すと、メンゼル博士をきっと睨み、ロケット砲で狙いを付けました。

「バカな。確かに、心臓に当たったのに!」

 メンゼル博士はぎょっとして言ってから、ロケット砲に狙われていることを思い出して、あわてて操縦室に引っ込み、ガラスの覆いを閉めました。

(下を見ろ。アンテナを探して、それを壊すんだ)

 また、男の人の声が聞こえました。言われた通り、下を眺めると、お皿のようなアンテナがたくさん付いた、鉄の塔が目に入りました。

 ポーラーはロケット砲の狙いを、メンゼル博士のロボットから鉄の塔に変え、すぐに発射しました。

「やめろ!」

 メンゼル博士が叫びました。でも、もう手遅れです。ロケット弾は鉄の塔の真ん中に当たって爆発し、塔は真っ二つに折れて倒れました。

 それから、一つ二つと瞬きをする間に、塔の近くの倉庫の屋根が吹き飛びました。倉庫の中には、銀色の大きな円盤があって、それは風船のように、ゆうゆうと空へ昇ってきます。

(いいぞ!)

 男の人の声が、ポーラーをほめました。

(さあ、君のガールフレンドを助けよう)

 今やポーラーと同じ高さまで昇った円盤に、黒くて四角い穴がぽかりと開き、そこから一機のプロペラ飛行機が飛び出してきました。飛行機は猛スピードでポーラーの横を通り過ぎると、ロボットに近付いてから、バリバリと機関銃を撃ち、アビーを掴むロボットの腕の、付け根あたりを穴だらけにしました。ガートルードさんの鉄砲で、傷一つ付けられなかったロボットを、こんな風にボロボロにするのですから、とんでもない威力です。

 たまらずメンゼル博士は、ロケットエンジンを吹かして逃げ出そうとします。ところが、その勢いで、アビーを掴んだ腕が、機関銃に撃たれた場所から、ぽきりと折れて落っこちてしまいました。

 ポーラーは急降下して、落ちてゆく腕の下に素早く潜り込み、それを受け止めました。

 ウメコは、全力で飛ぶのは良くないと言いましたが、ロボットの腕はとんでもなく重く、全力でもぜんぜん足りないくらいです。ポーラーは、どすんと落っこちないように、なんとか踏ん張って、じわじわ降りていきます。

 下を見ると、そこは滑走路でした。ポーラーは、地面に足が付きそうになったところで、ロボットの腕を、そっと地面に降ろしました。

「大丈夫、怪我はない?」

 ポーラーが聞くと、アビーは指を一振りして、自分を掴むロボットの手を開かせました。そしてアビーは、いきなりポーラーに抱きついて、ほっぺたにキスをしました。

「ああ、ポーラー。てっきり、死んでしまったかと思ったわ」

「僕もだよ」

 ポーラーは言って、メンゼル博士に撃たれた場所を見ました。ジャンパーの胸ポケットのあたりには、確かに小さな丸い穴が開いています。

 ポーラーは、「あっ!」と声をあげました。ポケットに手を突っ込んで中身を引っ張り出すと、それはアビーが、あの樫の木の下で読んでいた、魔女見習いの女の子の本だったのです。本を開くと、中から拳銃の弾がぽろりと落ちてきました。

「もう、読めないわね」

 アビーは言って、くすりと笑います。

 ポーラーも笑い返してから、ふと空を見上げました。そこではまだ、メンゼル博士のロボットと、円盤から出て来た飛行機の、追いかけっこが続いています。

 突然、ロボットが急ブレーキを掛けました。後を追い回していた飛行機が、左の翼を地面へ向け、危ないところでロボットの横を通り抜けます。そうして、今度は飛行機が、追い掛けられる側になりました。

 ロボットは、右に左にと逃げる飛行機にぴたりと付いて、残った左腕を真っ直ぐに伸ばしました。まさか、飛行機のお尻を捕まえようとでも言うのでしょうか。それとも、右手のように、左手にも鉄砲が仕込まれているのでしょうか。

 でも、ポーラーの予想はどちらも違いました。メンゼル博士のロボットは、ひじのあたりから腕を切り離したのです。そして、切り離されたひじは、ロケット噴射して、猛スピードで飛行機に迫りました。つまり、ロボットの左腕は、ミサイルだったのです。

 ポーラーが危ないと思った瞬間、飛行機は突然、急降下しました。ミサイルは飛行機を追いかけようとしますが、急にどこへ行けば良いのかわからなくなった様子でふらつき始め、しまいには地面に激突して爆発しました。

 飛行機は地面すれすれで上昇し、ロボットの後ろにぴたりと付きました。ロボットは、飛行機から逃げようとしますが手遅れでした。飛行機に機関銃で撃たれ、ボンと真っ黒な煙を噴き出します。そうして、煙を引きずりながら、よろよろと山の向こうへ落ちて行きました。どうやら、決着がついたようです。

 エンジンの音が近付いてきました。ウメコの車が、こちらへ走ってくるのが見えます。車は急ブレーキをかけてポーラーたちの近くに止まり、すぐに中からみんなが飛び出してきました。

 ガートルードさんが、ポーラーとアビーを二人まとめて抱きしめ、体を離してから怪我をしていないか聞いてきます。

 アビーは、少しかすり傷があるくらいでした。ポーラーが、メンゼル博士に撃たれたことを話すと、ガートルードさんはぎょっとして、撃たれた場所を見せるように言いました。ジャンパーの前を開け、シャツをたくし上げて見せると、ガートルードさんはポーラーの胸をしげしげ眺め、指で触ってからしかめっ面をしました。

「あばら骨が、折れてなければいいんですが」

「後で病院へ寄って診てもらおう」

 パリー博士は言って、空を見上げました。

 メンゼル博士をやっつけた飛行機が、ぐるりと旋回してから、滑走路へ向かって降りてきます。一足先に銀色の円盤も移動してきて、ポーラーたちから少し離れた場所に着陸します。

「大きいわね」

 ウメコが言いました。

「中に、人がたくさんいるみたいだよ。それに、僕なんかより、ずっと力の強い人がいるみたいだ」

 アロンソが、じっと円盤を見つめて言います。

「話はしてみた?」

 ウメコが聞きます。

「ちょっとだけ。女の人で、あとで普通のやり方で話そうって言ってる」

 飛行機が着陸し、滑走路の上をポーラーたちのそばまで走ってきて、止まりました。エンジンが止まり、操縦室のガラスの覆いが開くと、ゴーグルを掛けた男の人が降りてきました。

 飛行機のパイロットはゴーグルをはずし、パリー博士に駆け寄って、笑顔で言います。

「パリー博士、お久しぶりです」

「そうだな、ヒロ。きっと、また会えると思っていたよ」

 そうして、二人はがっちりと握手をしました。

 ポーラーは気付きました。パリー博士がヒロと呼んだ男の人の声は、メンゼル博士に撃たれた時に聞いた頭の中の声と、まったく同じでした。

 ヒロがポーラーを見て、真面目な顔で頷きました。

「いい飛行だった」

 自分をパイロットの子供だと考えていたポーラーは、本物のパイロットに褒められて、とても誇らしい気分になりました。それも、普通のパイロットではありません。メンゼル博士のロボットと、空中で戦った様子からして、ヒロさんはきっと、達人級のパイロットです。

 円盤に、四角い口がぽかりと開きました。そして、するすると階段が伸びて、地面に着きます。少し遅れて、真っ白で足首が隠れるほど長い、ワンピースのような服を着た人たちが、そこからぞろぞろと出て来ました。男の人も、女の人も、若い人もお年寄りもいますが、みんな同じ格好です。

 いちばん先頭にいた、とてもきれいな女の人が、階段を降りるなり、スカートの裾を持ち上げて、ポーラーに駆け寄って来ました。女の人は、嬉しくてたまらないと言う顔でポーラーを見つめた後、いきなり彼を抱きしめました。

「ああ、サク。あなたは、こんなに大きくなってたのね」

 ヒロさんが女の人の肩を、ぽんと叩きました。

「なあ、ゲルダ。あれから、もう八年になるんだ。サクだって、大きくなるさ」


 サクって?


 ポーラーがきょとんとしていると、パリー博士が咳払いをしました。

「今の彼は、ポーラーと呼ばれている。私が彼を助けた時にはもう、君たちはメンゼル博士に捕まっていて、本当の名前を聞けなかったから、私が勝手に名前をつけさせてもらったのだ」

「そうでしたね」

 ゲルダさんは目をぱちくりさせてから、ぱっと笑顔を浮かべてパリー博士に抱き着きました。

「パリー博士。あなたには、たくさん苦労を掛けてしまいました」

「どうと言うことはないさ。大事な友だちのためだからね」

 パリー博士は、ゲルダさんの背中をぽんぽんと叩いて言いました。

「ああ、なるほどね」

 急にウメコが言って、ぽんと手を打ち鳴らしました。

「なにが、なるほどなの?」

 ポーラーは、わけが分からず聞きました。

「あなた、自分はパイロットの子供だって言ってたじゃない。それに、あなたは、ゲルダさんにそっくりなのよ?」

 ポーラーが目をぱちくりさせると、ウメコは大きなため息をついて言いました。

「あなた、ホントににぶいわね。つまり、ヒロさんとゲルダさんは、あなたのお父さんとお母さんだってこと!」

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