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エリア51

 ポーラーは、きっとすぐにでも、『十三人委員会』が襲ってくるだろうと考えていました。ところが、行けども行けども敵の姿は見えません。

 ずいぶん長く走り続け、いくつかの建物の影が見え始めたところで、ウメコが言いました。

「アロンソ、パリー博士をさがして」

 アロンソは頷き、目をつぶります。そうして、車が大きな倉庫のような建物の前に差し掛かったところで、彼は「見つけた」と言いました。

「あの倉庫?」

 ポーラーが聞くと、アロンソは頷きました。

「でも、パリー博士しかいないみたいなんだ。誰も守ってないなんて、変だよ」

「罠ですね」

 ガートルードさんは言って、倉庫の入口からじゅうぶん離れた場所に車を停めました。そうして、車の後ろにある荷物置き場に置いたバッグを開けると、その中から大きな鉄砲を取り出しました。みんながぎょっとして見ていると、ガートルードさんは鉄砲を構え、倉庫の大きな扉に向かってそれを何発も撃ちました。爆発が起こり、大きな穴がいくつも開いた倉庫の扉は、内側にゆっくりと倒れました。

 ガートルードさんが鉄砲に弾を込めなおし、また構えると、辺りはしんと静まり返ります。しばらく経って、真っ暗な倉庫の中に車のライトのような光が見えました。でも、それはずいぶん高い場所にあったので、車でないことがわかります。

 ガシャン、ガシャンと大きな音が響きました。倉庫の中から現れたのは、大きなロボットでした。戦車のような緑色で、頭はなく、その代わり卵型の胴体にはガラスの覆いがしてあって、中に人影があります。ダチョウのような脚と、パワーショベルのような腕があって、腕の先っぽには三本の太い指が付いていました。

 みんながぽかんと眺めていると、太陽が昇り、ロボットの操縦席に朝日が差しました。その中には、にやにや笑いを浮かべるメンゼル博士の姿があります。

「おはよう、子供たち。どうやら、時間通りに着いたようだね」

 ロボットの胴体の下にあるラッパ型のスピーカーから、メンゼル博士の声が響きました。

「博士は返してもらうわよ」

 ウメコが言いました。

「いいとも。だが、それはこの、私の秘密兵器を倒してからにしてもらおう」

 ロボットは、ポーラーたちに右手を向けます。三本指の真ん中には、大きな丸い穴が開いていました。

「アビー、私たちを守って!」

 ウメコが叫ぶと、アビーはロボットに向かって両手を突き出しました。ロボットの手の平に開いた穴から火が噴き、ダン、ダン、ダンと鉄砲を撃つ音が響きます。でも、その弾はポーラーたちへ届く前に空中でぴたりと止まり、全部地面に落っこちてしまいました。

 お返しとばかりに、ガートルードさんも鉄砲を撃ちます。弾はロボットの操縦席に当たり、いくつも爆発が起こりました。でも、ガラスの覆いにはヒビ一つ入っていません。ウメコがバッグから代わりの弾を取り出し、ガートルードさんに投げてよこします。ガートルードさんは空中でそれをキャッチし、鉄砲に弾を込めなおしました。

「ポーラー、今のうちに博士を助けに行って!」

 ガートルードさんとロボットが撃ち合う騒音に負けないよう、ウメコが大声で言います。ポーラーは頷きました。でも、彼は真っ直ぐにしか飛べませんし、倉庫の入口はロボットが立ち塞がっています。どうやって倉庫の中の博士を助け出せばよいのでしょう。

 すぐに名案を思い付きました。ポーラーは高く飛ばず、地面すれすれに浮かび上がりました。そうして一気にスピードを上げ、ロボットの脚の間をすり抜けて倉庫へ飛び込みます。

「待て!」

 メンゼル博士の声が聞こえ、思わず振り返ると、ロボットの上半分がくるりと回るのが見えました。ロボットが、穴の開いた手の平を、こちらに向けるのが見え、ぎょっとしたポーラーは、倉庫の中で慌てて上昇します。ところが、倉庫の天井には何本も鉄骨が入り組んでいて、ポーラーはそのうちの一本に背中をぶつけ、床めがけて真っ逆さまに落っこちました。でも、それはラッキーでした。ちょっと遅れて、ダン、ダン、ダンと鉄砲の音が響き、狙いを外した弾はポーラーではなく、天井に大穴を開けたのです。

 ポーラーは危ないところで態勢を立て直し、どうにか床に激突する羽目にはなりませんでした。その代わりに、ロボットが撃ちぬいた天井のがれきが、ばらばらと落っこちてきます。慌てて飛び退くと、すぐ近くに縛り上げられて床に転がるパリー博士がいました。

「博士!」

 ポーラーはパリー博士に駆け寄り、彼を助け起こしました。

「ポーラー君、すまない」

 ポーラーは謝る博士に首を振ってから、出口の方を見てぎょっとしました。ロボットが、またこちらに手の平を向けていたのです。

「逃がさんぞ、パリー博士!」

 メンゼル博士が叫びました。

 ポーラーは、はっと息を飲みました。向こうでガートルードさんが、ロケット砲を肩に担いで構えていたのです。シュッと言う音がしてロケット弾が発射され、それはロボットの右ひざに当たり爆発しました。ロボットはひざがぽきりと折れ、大きく傾いでから、やかましい音を立てて地面に倒れこみました。

 今が逃げ出すチャンスだと気付いたポーラーは、パリー博士の身体をしっかり掴むと、浮かび上がって天井の穴を通り抜けました。そうして、じゅうぶん高い場所までくると、みんながいる車めがけて急降下します。でも、博士を抱えていては、両手を広げることができません。ポーラーは、おなかを地面に向けることが出来なくなり、いつものようにぐるぐると回転を始めました。目が回り、もう真っ直ぐ飛ぶこともできず、地面へ落っこちそうになった時、何か大きな手でそっと掴まれるような感じがして、回転が止まりました。ふと下を見ると、両手を上げてこちらを見るアビーの姿が見えます。どうやら、また彼女に助けられたようです。

 ポーラーは着陸して博士を降ろすと、ぺたんと地面に座り込みました。心臓がどきどき鳴っています。アビーが近くに来て、「大丈夫?」と聞いてきます。あまり大丈夫ではありませんでしたが、ポーラーは無理やり笑って「ありがとう」と言いました。

 ガートルードさんがロケット砲を放り出し、いきなりスカートをめくり上げました。ポーラーがぎょっとして見ていると、彼女は太ももに括り付けた鞘からナイフを抜いて、それでパリー博士を縛っていた縄を切りました。

 アビーが「こらっ」と言って、ポーラーの頭を叩きました。

「女の人のスカートの中を、じろじろ見るのはよくないわ」

 まったく、アビーの言う通りです。

「まだ終わってないわよ」

 ウメコが言いました。

「アビー、メンゼル博士を操縦室から引っ張り出してちょうだい。今度はあいつを捕まえて、縛り上げてやるの」

 アビーは頷き、ロボットに向かって両手を伸ばしました。でも、彼女ははっと息を飲んでから、ウメコを見ます。

「ダメ。あれには、私の力が効かないわ」

 ウメコはすぐに、アロンソに目配せしました。でも、アロンソもしかめっ面で首を振ります。

「僕の声も届かない。そもそも、メンゼル博士の心の声が聞こえないんだ」

 そう言えば、ここへ来たとき、アロンソは倉庫の中にパリー博士しかいないと言っていました。一体、これはどう言うことなのでしょう。

「あいつ、何かイカサマを使ってるんだわ」

 ウメコが言ってロボットを睨み付けると、メンゼル博士の笑い声が聞こえてきました。

「イカサマなどではない。これは科学の力だ」

 ロボットの脚が外れて、胴体だけがロケット噴射で空中に浮かび上がります。

「このロボットは、私が発明した超能力妨害装置で守られている。君たちの超能力は通用しないぞ!」

 ロボットの右手が、ポーラーたちに向けられました。アビーが両手を突き出して、鉄砲の弾からみんなを守ろうとします。ところがロボットは、鉄砲を撃たず、ロケットを吹かして地面すれすれに、真っ直ぐこちらへ突っ込んできました。

 みんなは、「わっ!」と叫んで、突進してくるロボットを横っ飛びにかわしますが、アビーは鉄砲の弾を止めようと集中していたせいで、逃げ遅れてしまいました。ロボットは伸ばした右手でアビーを捕まえると、メンゼル博士の笑い声と一緒に、そのまま空へ昇って逃げていきます。

「アビー!」

 ポーラーは急いで追いかけようと浮かび上がりました。でも、駆け寄って来たウメコに、いきなり足にしがみつかれ、バランスを崩して地面にひっくり返ってしまいます。

「ウメコ、邪魔しないで!」

 ポーラーが怒って言うと、ウメコはポーラーの鼻に指を突きつけます。

「武器も何もないんじゃ、アビーは助けられないでしょ」

 すぐにガートルードさんが、ロケット砲を持って来てポーラーに渡し、使い方をこまごまと説明します。でも、みんなは大事なことを忘れているようです。

「僕は飛んでる間、手を使えないんだ」

 すると、ウメコはふんと鼻を鳴らします。

「私が『学校』で説明したことを忘れたの? 両手を広げて飛行が安定するのは、スケートの選手が回っているときに手足を縮めると、回転が早くなるのと逆のことなの。でもね、一番の問題は、あなたがなんでもかんでも全力だってこと。飛び上がるのも、傾きを直すのも、右や左に曲がるのも、みんな力一杯。それじゃあ、コップへ牛乳をつぐのに、紙パックを逆さまにするようなもんだわ。もう少し、力を加減してごらんなさい」

 あいかわらず、ウメコの言うことはよくわかりませんが、とりあえずポーラーは頷きました。もう、あれこれ考えてる時間はありません。メンゼル博士のロボットは、今もどんどん遠くへ逃げています。

 ポーラーは、ロボットを睨みつけました。マンガやアニメのヒーローのように、一気に飛び上がりたい気持ちに蓋をして、最初はそおっと、それから少しずつ力を込めていきます。


 コップに、牛乳をつぐように……


 それは、びっくりするほどうまく行きました。ポーラーは、逆さまになって地面へ落っこちるかわりに、ぐんぐん空へ昇って行きます。

 自信が出て来たポーラーは、真っ直ぐ昇るのをやめて、ロボットを追いかけ始めました。もう、右や左に傾いても、慌てて反対側に傾けようとはしません。ちょんと軽く押すだけで、傾きは元どおりになり、ずっとおなかを地面へ向けたままにすることができるのです。ひょっとすると、ポーラーが知らなかっただけで、ヒーローたちも、こうやって飛んでいたのかもしれません。

 ポーラーは、さらにスピードをあげました。ロボットのお尻が、みるみる近づいて来ます。

 ポーラーは飛びながら、ロケット砲を構えてロボットに狙いを付けます。でも、引き金を引く前に、はっと気付きました。ロボットを撃ち落としたら、アビーも一緒に落っこちてしまうでしょう。

 ポーラーはスピードをあげました。ロボットを追い越してからトンボ返りをして止まり、ロケット砲を構えます。ロボットは急ブレーキをかけて止まりました。

 メンゼル博士はロボットを止め、操縦席のガラスの覆いを開け、両手をあげて言いました。

「降参だ、少年。君のガールフレンドは返そう。その代わり、私は見逃してくれ」

 ロボットの腕が、アビーを差し出します。ポーラーは頷き、ロケット砲をおろしました。ところが、ふと気付くとメンゼル博士は右手をポーラーに向けていました。その手の中にあったのは、小さな拳銃です。

 パン! と、小さな音が響きました。

 胸のあたりを、力一杯殴られたような感じがしました。ひどい痛みとショックで、ポーラーは後ろに吹っ飛ばされました。

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