十三人委員会
ポーラーたちはびっくりして、声を合わせて「ええっ?」と叫びました。でも、どう言うわけか、ウメコだけは平気な顔をしています。彼女は助手席から、後ろのみんなに振り返って言いました。
「正確には、何千年も前に、本当の宇宙人と一緒に地球を出て行った人たちの孫が、地球へ帰って来て普通の地球人と結婚して、生まれたのが私たちなの」
でも、ウメコはちょっとだけ首を傾げてから言いなおしました。
「ただの孫じゃないわね。孫の孫の、そのまた孫の、数えるのが面倒になるくらい、すごい孫よ」
「博士が言っていた悪い大人が、僕たちを捕まえようとしている理由がそれなんだね」
アロンソが聞きました。
「その通りです」
ウメコにかわって、ガートルードさんが答えます。
「パリー博士は、彼らを『十三人委員会』と呼んでいました。『十三人委員会』は宇宙人の技術や不思議な力を、独り占めにしようと考えている人の集まりです。もちろん、あなたたちの超能力も、宇宙人だったお父さんやお母さんの力を受け継いだものですから、彼らはそれを狙ってあなたたちを捕まえようとしています。そして、博士は『十三人委員会』のたくらみから、あなたたちを守るために『学校』を作ったんです」
とんでもない話で、ポーラーはぽかんとして聞いていましたが、今度はだんだんと心配になってきました。今まで、ポーラーたちを守ってきた『学校』はもうありません。『学校』は、彼らの家でもあったのに、それは木っ端みじんになってしまったのです。
隣のアビーを見ると、まゆ毛の間にしわを寄せて、やはり心配そうな顔をしています。ポーラーはアビーを元気づけようと、彼女の手をぎゅっと握りました。それでアビーは、どうにか笑顔になりました。
「ガートルードさん。これから、僕たちはどうするんですか?」
アロンソが聞きました。
「ここからしばらく行くと、ホテルがあります。今夜は、みんなでそこに泊って博士を待ちましょう」
それを聞いて、ポーラーは不安な気持ちが吹き飛んでしまいました。今まで『学校』以外で寝泊まりをしたことなど、一度もなかったからです。そのワクワクした気持ちを聞かれたのか、アロンソがポーラーを見てくすりと笑いました。でも、それは心を読むほどでもなかったのかも知れません。心の声が聞こえないはずのアビーやウメコも、ポーラーの顔を見て、にこにこ笑っていたからです。ポーラーはちょっとだけ恥ずかしくなりましたが、それでも笑っているみんなの顔を見て、嬉しく思うのでした。
それから五人を乗せた車はどんどん走り、夜になりました。スーパーマーケットに寄って、食べ物を買い込んでからホテルへ向かいます。そこは少しばかりオンボロに見えましたが、ポーラーとアロンソに割り当てられた部屋は、じゅうぶんきれいでした。みんなでガートルードさんの部屋へ集まり、買ってきたごはんを食べてから、またそれぞれの部屋に戻って眠りました。そして朝が来ました。
「おはよう、ポーラー。そろそろ起きないと、朝ごはんを食べそびれるよ」
アロンソに起こされたポーラーは、目をこすりながらベッドから抜け出し、急いで支度をして、ガートルードさんの部屋へ向かいます。
「博士、もう来てるかな?」
ホテルの廊下を歩きながら、ポーラーが聞くと、アロンソは首を傾げて言いました。
「どうかな?」
ガートルードさんの部屋の前までやって来ると、ポーラーはドアの前に落ちている封筒に気が付きました。拾ってみると、表には「パリー博士の子供たちへ」と書かれています。中には、平たくて硬いものが入っているようです。
「これ、なんだろう?」
「さあ?」
ポーラーとアロンソは首を傾げながら、ガートルードさんの部屋に入りました。でも、そこにいたのはガートルードさんと、アビーとウメコだけです。
「博士は?」
アロンソがたずねると、ガートルードさんは首を振りました。
「まだ、来ていないんです。予定通りなら、昨日のうちに着いているはずなんですが」
ポーラーは、扉の前で拾った封筒を、ガートルードさんに差し出しました。ガートルードさんも心当たりが無いようで、首を傾げながら封筒をあけます。中から出て来たのは、一枚のディスクです。裏側が虹色に光っているので、たぶんDVDかCDなのでしょう。
ガートルードさんは、部屋に備え付けられていたプレイヤーに、ディスクを差し込みました。すぐにプレイヤーがカタカタと音を立て、黒ぶち眼鏡を掛けた男の人の姿がテレビに映ります。
「メンゼル博士!」
ガートルードさんが、ぎょっとして言いました。
「知り合いですか?」
アロンソが聞きます。
「メンゼル博士は、『十三人委員会』のメンバーなんです」
子供たちは、そろって「ええっ?」と声をあげました。すると、部屋の前に封筒を置いたのも、彼らを付け狙う『十三人委員会』なのでしょうか。
「おはよう、子供たち。と言っても、これを撮影している今は夜中だがね」
メンゼル博士は言いました。
「ところで、君たちはよく眠れたかね? あいにくと、私の方は眠れそうにないようだ。なにせ、今夜はなつかしい友だちが、訪ねて来てくれたのだからね」
メンゼル博士は、手を伸ばしてカメラの向きを変えます。そうして映ったのは、椅子に縛り付けられたパリー博士の姿でした。
「博士!」
ポーラーが驚いて叫ぶと、ウメコが口の前に指を立てて「シッ、だまって!」と言います。
パリー博士はほっぺたに青いあざがあり、口の端から少しばかり血を流していますが、大きな怪我はないようです。すぐに画面の端からメンゼル博士が現れて、パリー博士の隣まで歩いてくると、その肩をぽんとたたきました。
「明後日――いや、君たちの時間で言えば、明日の夜明けまでに、エリア51と言う場所まで来てくれ。絶対に遅刻はしないでくれよ? さもないと、博士にお別れの挨拶をしそびれることになるからね」
「ダメだ!」
パリー博士が叫びました。
「彼の言うことを聞いてはならん。私のことはほうっておいて、君たちは逃げるんだ!」
メンゼル博士は、テレビの向こうからポーラーたちに、ニヤリと笑い掛けました。
「さて。パリー博士はこう言っているが、君たちはどうする? 私としては、君たちが賢明な判断をすると信じているよ」
そしてDVDが終わり、画面は真っ暗になりました。ウメコがプレイヤーからディスクを取り出し、みんなを見回してから言いました。
「もちろん、助けに行くわよね?」
でも、ガートルードさんは首を振り、言いました。
「あなたたちと、パリー博士を交換にすることなんてできません。博士が言うとおり、今すぐ急いで逃げましょう。博士は外国に、新しい『学校』を作ったんです。そこまで行けば、もう何も心配はいりません」
ところがウメコは、ガートルードさんにディスクを見せて言います。
「こんな物が、部屋の前に置いてあったのよ。あいつらは私たちの居場所を知っているし、その気になれば、私たちを捕まえることもできたはずだわ」
まったくウメコの言う通りだったので、ガートルードさんは、しぶしぶと言った様子で頷きます。
「でも、そうしなかったのは、あいつらが私たちの超能力を怖がっているからなの。だから、これは、いろいろ準備をした自分たちの基地に私たちをおびき寄せて、まとめて捕まえようって作戦に違いないわ。だったら、これはチャンスよ。博士を助け出すついでに、あいつらを逆にコテンパンにやっつけて、私たちを捕まえるのが、絶対に無理だってことを教えてやりましょう」
「僕はウメコに賛成だ」
すぐにアロンソが言いました。「私も」と、アビーも言います。みんなはポーラーを見ました。もちろん、ポーラーも賛成です。このまま博士を、ほうっておけるはずがありません。
ポーラーが頷くと、ガートルードさんは大きなため息をついて言いました。
「仕方がありません。でも、本当に危なくなったら、何があっても逃げてくださいね」
みんなは真剣な顔で頷き、約束をしました。
それからポーラーたちは、急いで朝ごはんを食べて、メンゼル博士に言われたエリア51に向かって出発しました。ガートルードさんは、ほとんど休まずに運転をしてくれましたが、それでもエリア51の入口に到着したのは、夜明けの少し前でした。
そこは、「止まれ」と書かれた遮断機でふさがれていました。しかも、鉄砲を持った兵隊が二人もいて、そこを守っています。ガートルードさんが車を止めると、兵隊たちは鉄砲を構えて近づいてきました。
「エンジンを止めて、ハンドルから手を離せ!」
兵隊の一人が、大声で命令しました。ガートルードさんは言われた通りにします。
「この人たちも『十三人委員会』なの?」
ポーラーは聞きました。
「たぶん、違うわ。エリア51には軍隊の基地があるから、彼らはきっと、そこの人たちよ」
ウメコは言って、アロンソに目配せします。アロンソは頷き、兵隊たちをきっと睨みつけました。すると兵隊たちは、二人とも、ばったりと地面に倒れてしまいました。
「うまく行ったわ!」
ウメコは言って、アロンソとハイタッチをします。
「何をしたの?」
ポーラーが聞くと、ウメコはにやにや笑いながら言いました。
「アロンソに、兵隊たちの頭の中で叫んでもらったの」
まさか、そんな特技の使い方があるなんて、ポーラーは思いも寄りませんでした。驚いてアロンソを見ると、彼はちょっと照れくさそうに笑いましました。
「さあ、急ぎましょう。夜明けまで、あまり時間がありません」
ガートルードさんは言って、またエンジンを掛けました。ポーラーの隣でアビーが指を振り、遮断機が勝手に開きます。
「まあ。ありがとう、アビーさん」
ガートルードさんがにこりと笑って言うと、アビーは「どういたしまして」と答えました。そして、ガートルードさんは車を急発進させ、ポーラーたちはついにエリア51に入りました。