訓練の経緯(いきさつ)
俺は、ベビーベットの横においてある踏み台に乗って
「おはよう。アリー」と転んでいるアリーに、笑顔で俺は、話しかけた。
妹のアリーが生まれて1ヶ月がたった。
毎朝、起きたら話しかけるのが日課になっている。
「ユウ!アリーにあいさつするのもいいけど、顔洗ってきなさい」とローザの声が飛んできた。
「は~い!」
「ユウは、アリーのことを物凄く気に入っていますね」
「そうだな、いい事じゃないか」
「まぁ、良い事だけど……ちょっと度が過ぎない?」といいながらローザはお茶が入ったコップを全員の前に置いた。
「ありがとうございます」と言ってアリアがコップに手を伸ばし口に運んだ。
「度が過ぎるっていっても高が知れているだろう?」
「いやいや、あの子ったら、する事無かったらずっと見ているのよ」
「私としては、助かりますけど、泣いていたらすぐに伝えてくれるので」
「まぁ、もう少し様子を見よう、落ち着くって。そうだ、訓練の方はどんな感じ?」
「あの子、動きはいいのよ。でもなぜか武器が上手に扱えないのよね」
「魔法の方は言うこと無いですよ。もう少し大きくなったら、上級を覚えさしてもいい位に魔力操作上手なんですよ」
俺が顔を洗って戻ってくると両親がお茶をしながら話していた。
「パパ、ローザママ、アリアママおはようございます。何の話してたの?」
「あなたがアリーのことをずっと見ている事と訓練の事よ」と言って朝食の準備の為に席を立った。
「だってアリー可愛いんだもん」
ちなみに話で出てきている訓練の対象はもちろん俺の事である。
遡る事2週間前、アリアの様子も落ち着いた頃、3人に呼ばれたのだ。
何かというと、アリーが生まれる前の日に俺が魔法を無詠唱で使っていた件についてだ。
「ユウ、魔法を無詠唱で使っていたらしいがどの位扱えるんだ」
正直に答えると何か心配されそうなので少し抑え目に答えた。
「初級迄だよ」と答えると
「でわ、詠唱込みならそれ以上できるということですね」とアリアが言ってきた。
しまった……!答え方をもう少し考えた方がよかったかと頭を過ぎったその時
「本物そうですね」
「そうだな」
「なんで!?私の子なのに魔法得意なのよ、私全然だったのよ……」
「俺に似たんじゃないか」と笑いながら言っていると
「アイン、あなたは神聖属性特化でしょう、ユウはどう考えても属性が違いすぎますよ」
「じゃあ、アリアから見てこの子って才能ありなの?」
「ええ、十分だと思いますよ」
「よかったな、ユウ!アリアのお墨付きたぞ」と言いながらアインが頭を撫でてくれた。
アリアに認められるのは、嬉しいが、なぜお墨付きが付いたのかこの時は分からなかった。
しかし、後々の訓練時に聞いた話しによると、家の親はSランクに近いAランクの冒険者だったらしい。
この世界の冒険者のランクは一番上がSSランクで順にS、A、B……となり、最低ランクがFになっている。
SSランクは世界に6人だけで、かなり個性的な所為もあってか、あまり表に出てこないらしい。
実際クエストなどを受け持つ最高クラスはSランクになっているが、AランクからSランクに上がるのも数年に一度しかない試験に合格しないといけないらしい。
家の親は周りからは、試験を受けるとSランクに確実に上がれるだろうと言われていたが、結婚して俺が出来たのが判ったのを期に冒険者を引退した。
理由としては、やはり高ランクのクエストは危険が大きい為、もしもの事を考えてのことらしい。
でも、ローザはギルドによく呼ばれてクエストを受けている、何でも指名されている為、無下にできないとの事である。
訓練を受ける経緯に戻るが、どんなに才能があっても練習は必要だし、対象以外の被害を少なくする為らしい。
練習が必要なのは当たり前だが、被害が出ないようにすると言うのがよく判らない、弱く撃てばいいのか?と悩んでいると
「ユウ、風属性の魔法もいけますよね?」
「うん、使えるよ!」
「でわ、このリンゴを空中で4等分にして下さい」と真っ赤なリンゴを渡された。
俺は使う魔法を決めて、リンゴを放り投げて綺麗に4等分にした。
リンゴは床に落ちる前にローザがどこからか皿を出してキャッチした。
「これでいいの?アリアママ」と聞くとアリアは天井を見て「天井のあの傷、見えますか?」と指を指した先に確かに傷があった。
「あの傷は、先ほどユウが撃った魔法で出来た傷ですよ。ユウは撃つときかなり弱く撃ちましたよね?」
「うん、じゃ無いと、リンゴがたぶん砕けるし」
「でも、天井に傷をつけてしまった、この意味がわかりますか?」
「リンゴに対して撃った魔法がまだ強かったってこと?」
「そうですね。それもありますが、対象を撃ちぬいた後、まだ威力が残っていた事が重要なのです。よく考えて下さい。もし、大型モンスターの後ろに仲間が居て高火力の魔法を撃って貫通した場合どうなりますか?」
「仲間に当たる場合が出てくる」
「そうですね。ローザ、剣士の視点から見て避けられますか?」
「そうね、熟練のパーティで来るタイミングが分かってギリギリかしら、と言うかあなたわたしと組んでやっていた時、何回か私が擦ってるの知っているでしょに!」
「ええ、直撃しないかなとその時は思っていましたから」
「うん、そうだろうと思っていたわ、こっちを異様に見ていたから、まぁ私もわざとそっちにモンスターが行くようしていたからお互いさまか」
「いい思い出だな」とアインが言ってみんなが笑っているのを見て俺は頭をかかえた。
しかし、熟練のパーティでギリギリなら素人の俺がやると確実に当てることになってしまう。
「アリアママ、新人パーティの人はどうやって気をつけているの?」
「新人というか基本的に貫通するような事はないです。第一そんなことできるの、私以外Sランクの一部位ですよ。あなたは基本の威力が強すぎるのです。だから、呪文の中に対象を貫通した時点で魔力が霧散する術式を組み込むのです」
「でもそんなの、どの本にも書いてなかったよ?」
「当たり前ですよ。私オリジナルですから、その術式の組み方の練習と魔力操作を訓練していきましょうか」と笑顔で言われた。
「私もユウを鍛えようかしら」
「いいですね。基礎体力が上がればSランクも夢じゃないでしょうし」
俺は、アインの方に目を向けると口の動きが「がんばれ」と言っているように見えたので覚悟を決めた。
というのが訓練をするようになった経緯である。
「ユウ」
「なに?パパ」
「訓練がんばっているらしいな、今度ご褒美でも買ってあげるからな」
「本当?やったー!!」
この約束が俺の今後の人生に大きく影響するとは思いもよらなかった。