三歳
「マグロの刺身が食べたい。」
たけのこを挟んで横にいる、肩幅が野球場の内野席を三個並べたぐらいあるデカ男が山のどこを見渡してもいないであろう生物を口にしたいという欲望をさらけ出した。
「お前がたけのこ食べたいって言ったからわざわざ山に来てるの分かってる?」
しかもTHE.収穫中。二分ほど前のたけのこご飯を口の中いっぱいに放り込みたいね〜なんて話はどこへ行ったのやら…。
「いやいま山にいるじゃん。そんでたけのこ取ってるじゃん。ならマグロの刺身食べるしかなくない?」
ツッコミどころしかないが、一度こいつの言ったことを考えみようか。もしかしたら理解できるかもしれない。
確かに僕らは土の塊の上にいる。フカフカのいい土だ。そんでその恵みを受けて育った美味しい美味しいたけのこを取ろうとしてる。だからマグロの刺身が食べたい。と。なるほど、納得…できないな。
「一度考慮してみましたが私の頭では理解が追いつきませんでした。」
肩幅デカ男は優しい目でコクッと頷いた。
「君は難しく考えすぎなんだよ。もっと思うように、感じるように生きればいいのさ。そう!三歳児のようにね☆!」
考えるな感じろ。かぁ。
そう言えば肩幅デカ男が三歳の時は肩幅がデカかったのだろうか。
「あ、マグロ」
肩幅デカ男よ。何を言っているのだ。こんなところにマグロなどいるわけがな…
「は?」
振り向くと僕が掘り出したたけのこがマグロに変わっている。ピチピチピチピチと先ほどまで泳いでいたかのように跳ねている。この山は魔法使いかなにかか?もしくは神霊スポットとかその類か?
横で肩幅デカ男はバカみたいに喜んでいる。それでいいのか?色々と考えるべきことが…。
いや、さっき言われたばかりだ。考えずに感じろ。考えずに感じろと。
「よし。」
そうだなぁ。とりあえずこの状況を考えずに感じるなら…。
僕もマグロの刺身が食べたい。