影8
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次の日も、またその次の日も、律子は幻一郎のもとにおにぎりを届けた。
幻一郎は律子の見ている目の前で、おにぎりを幸せそうに頬張った。律子はその姿を見て、自分も幸せな気持ちになるのだった。
毎日、律子がここに泊まる理由を、幻一郎は聞こうとはしなかった。律子もあえて話さなかった。毎年8月1日、2日、3日と盛岡で、『さんさ祭り』が行われる。律子は、1ケ月前から始められるその練習の音が嫌だった。律子は、練習場となる学校のすぐ裏側に住んでいる。連日、夕刻過ぎから聞こえ出す、太鼓や笛や掛け声の音がうるさくて堪らなかった。
律子は、日が暮れるちょっと前に就寝して、深夜に起床するという生活を繰り返している。その頃の時間帯になると、幻一郎の家に駆け込むようになった。それが、いつからかここに住み着き、寝泊まりするようになった。仕事の時だけ起きて出掛ける。そういう毎日が続いた。
「あいたい。あの人に会いたい。毎日でも会いたい」
律子は、幻一郎の瞳の奥の宇宙に魅かれていく自分を感じていた。何かしら底知れない苦悩を背負っているような、そんな雰囲気がこの男にはあった。