影6
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この家にテレビはない。米を炊いている様子もない。ガスは止めていて、お風呂は週に一回銭湯に行くだけだという。藪ケ原は、岩手山の麓に近い場所にあるので、冬になれば水道管がすぐに凍結してしまうという。そのせいで洗濯機も壊れて使えなくなったという。おそらく洗濯もしていないだろう、と律子は思った。
さっそく、律子は着ていたナイキの体操着を脱ぎ捨てると、Tシャツ一枚になった。幻一郎が、ゴミを捨てられない性格であるのに対して、律子は逆に、ゴミをどんどん捨てたい性格だった。箒で埃を掃いて捨てる。ゴミは、90リットルの業務用の袋で、日に10個は出た。死んだ虫がくっ付いている靴下もあったが、まだ使えそうな下着類は全部まとめて持ち帰り、律子の家の洗濯機に放り込んだ。
台所の様はもっとひどかった。カラになって転がっている缶や、ペットボトルをゴミ袋に詰め込むと、強力なカビ用の漂白剤を数本使い、油ぎった床に徹底的にばら撒いた。水道からは赤茶色の錆びた水が出た。綺麗な水が出てくるまで少し時間がかかった。窓を開け放ち、何度も何度も雑巾で拭いた。冷蔵庫の中には、小さい虫の死骸が転がっている他は、食べ物らしいものはほとんどなかった。