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影5
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せめてものおもてなしでもあるかのように、幻一郎が、「ちょっとうるさいけどね」と、年代ものの古ぼけた扇風機を、そっと律子の前に置いた。ヤニが凝り固まったようなその扇風機は、回り始めると、埃が部屋中に散らばった。しかもその扇風機の音は、ちょっとどころではなかった。ガラガラ、ガラガラと無神経な音をたてるだけで、お世辞にも涼しいとは言えない。二人の会話は、自然と大声になった。
「いつもパジャマなんですか?」
「うん。それに楽だしね。」
そう言って幻一郎が、もとの色が何色だったのか、分からないほど色褪せたタオルを、四つ折りにして顔に当てて、倒れた背もたれ椅子へ、『くの字』になって寝た。その姿は若い律子には、『弱りきったひな鳥』という印象にうつった。