影4
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4度目の呼びかけで、ようやく幻一郎が姿を現した。ここの住人は、けして想像を裏切らない。ぶ厚いレンズの眼鏡をした撫で肩の、まるで飼い慣らされた、おとなしいカメレオンのようである。しかし、何故かしら来る者を捕らえて離さない、魅惑的な容貌をしている。
「なんだ。来たんだ。」
よれよれのパジャマ姿で、頭を掻きむしり、襖から力の無い表情で顔を出した。その白髪の混じった頭から、フケが空気中に散らばった。
「私、方向音痴だから」
律子は、自分の物覚えの悪さを隠すように、不躾に部屋の中に入ると、きつくなっている襖を両手でゆっくりと閉め、呼吸を整えるように座卓の前に座った。「とっても片付け甲斐ありますよね」
「適当にやってもらっていいよ。適当な時に適当にやって。業者に頼んでも、半年はかかるって言われてたんだ」
ヤニですっかり茶色くなり、ところどころ破れた障子の隙間から、何年も手入れをしていないような、雑草の生い茂った広い庭が見える。
座卓の上には、空のカップラーメンの容器。灰皿代わりの汚れたコーヒーカップに、炭酸の抜けた、色のついたラムネ水の入った瓶などが、無造作に置かれている。