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影
その家を探し当てるまで、藪ヶ原の住宅街を、律子は何度も自転車で往復した。その家を簡単に見つけ出すことが、律子にはどうしてもできなかった。
あれは、満月の丑三つ時近い、爽やかな夜だった。仕事の帰り道、自転車のライトが何かを捕らえた。
「死体か?」
はじめは、そう思った。だが違う。年配の男がライトの眩しさに、わずかに反応した。自転車からおり、恐る恐る、間をおいて声を掛けるが、少ししか反応はない。男性をそのままにして、律子は知っている近くの公衆電話ボックスまで、自転車を走らせた。