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ブサイクでモテなかったオレは朝起きたら超イケメンに変身していたが……

作者: 天音光人

 オレは生まれてから今まで一度も女にモテたことがない。それというのも、実はオレは超ブサイクなのだ。背は低いのに肩幅だけ広く、おまけに腹も出ている。顔はゴリラにそっくりだと誰からも言われる。


 こないだなんか、公園のベンチに座ってくつろいでいたら、幼稚園児のガキどもが「やーい、ゴリラ、ゴリラ」とはやし立てたので、オレはマジで怒って追いかけ回してやった。ガキどもには逃げられてしまったが、一人だけ女の子が残っていて、「はい、おサルさん、これあげる」と半分食べ残したバナナをくれた。オレはついつい「わあ、ありがとう、うれしいな」と言ってバナナを受け取り、ウホッ、ウホッと胸を叩きながら帰って行ったのだった。


 オレは家に帰るとつくづく自分が情けなくなり、必死で神に祈った。ああ、神様、なんでオレはこんなブサイクな顔に生まれついたのですか。どうかせめてもう少しイケメンにしてください。お願いします。すると、「おまえの願いを叶えてやるぞよ」という低い声が聞こえたような気がした。おれは空耳だと思い、気にしないでそのまま寝てしまった。


 ところが翌朝、目が覚めるとオレは自分の身体に違和感を感じた。寝返りがいつもよりスムーズだ。なんだか肩幅が狭くなったような気がする。おまけに足が長くなったようで、フトンの中で動かしにくい。フトンから起きて立ち上がると、目線が高くなっている。明らかに以前の身体とは違う。


 オレはすぐに洗面所へ行って鏡を見た。するとそこには超イケメンの男の顔が映っていた。有名人でいえばフィギュアスケートの羽生結弦によく似た甘いマスクで、体型もほっそりしていて、身長は180センチぐらいありそうだ。そうか、神様がオレの願いを叶えてくださったんだ。ああ神様、ありがとう。よーし、これからオレはモテまくるぞ。


 オレはすっかりうれしくなった。服が身体に合わなくなったので、まずは近くのスポーツ用品店で、とりあえずジャージでも買うことにしよう。それまではしかたがないので、オレは合わない服を着たまま外へ出た。


 ところが道路を歩いているうちに、オレはふと異変に気づいた。道行く人々がなぜがみんなブサイクな人ばかりなのだ。男ばかりでなく、女もみんなブス、しかも超どブスばかりだ。これは偶然なのだろうか。不思議に思いながらスポーツ用品店に着き、中に入るとオレはまた驚いた。そこの店員や客たちもみんなブサイクなのだ。オレはとりあえず自分に合うジャージを買って、あわてて家に帰った。


 家に着くと、オレはテレビをつけた。するとなんということだろう。出演しているタレントたちまで、みんなブサイクではないか。オレは今度はパソコンを立ち上げ、ある美人女優の画像をネットで検索したが、驚いたことに、とんでもない超どブスになっている。


 すっかりわけがわからなくなったオレは、だれか知り合いにでも確かめたくなり、友人の一人に電話をかけ、近くのスタバで会うことにした。やってきた友人の顔は、以前の面影はあるものの、かなりブサイクになっていた。友人はイケメンに変身したオレを見ても、いつもと変わらない対応ぶりだったので、尋ねてみた。

「あ、あのさ、オレずいぶん外見がかわっただろ?」

「別にどこも変わってないようだが。どうかしたのか?」

オレは不思議に思い、もう一度尋ねた。

「だいぶイケメンの顔になっただろ?」

「いや、以前と同じブサイクな顔のままだ。まあ顔は生まれつきだからしょうがない。あきらめるんだな。おっ、見ろよ、あの窓側の端っこに座ってる青いシャツの子、すっげえ美人だぜ」

オレは友人のいう青いシャツの女を見たが、それは超超超どどどブス、ブスの3乗ぐらいのブスだった。


 オレは自分の顔が気になってトイレに行き鏡を見たが、やはり羽生結弦のような超イケメンだった。そのときふとオレの頭に、パラレルワールドという言葉が思い浮かんだ。もしかしたらオレはブサイクな人たちだけが住むパラレルワールドに移行したのではないだろうか。その中でオレだけがイケメンなのだが、そこの人々にとってはブサイクな人がイケメンや美人で、今のオレみたいなイケメンはブサイクなのだ。


 ああ、なんということだろう。オレはやはりどこへ行ってもモテない運命なのか。それなら元の世界のままでいい。ゴリラの顔のままでいい。神様、元の世界に戻してください。するとそのとき、また低い声が聞こえた。「おまえの願いを叶えてやるぞよ」


 気がつくとオレはフトンの中にいた。時計を見ると朝7時だ。あれは夢だったのだろうか、それとも本当に一度はオレも羽生結弦のような超イケメンになったのだろうか。


 どちらでもいいや、とオレは思った。このゴリラの顔のままで生きていこう。こんなオレでも好きになってくれる優しい人が、もしかしたらいつか現れるかもしれない。もし現れなかったら……それはそれでしかたがないさ。それならせめて、この顔で人を笑わせながら、生きていくことにしよう。


  


実は本編のこのあとに、後日談として次のような文を入れることも考えていました。


十年後、オレは同じくブサイクな、ブタに似た顔の男とコンビを組んで、お笑い芸人として成功した。コンビの名前はブタゴリラだ。なんかアニメの登場人物にそんな名前のヤツがいたような気もするが。とにかくオレも相方も個性的なブサイクな顔のおかげで、映画やテレビドラマ、バラエティー番組にも出演している。私生活では、オレはやはりサルのような顔をした女と結婚した。人はブスと言うのだが、オレは可愛い女だと思っている。そして去年、同じくサルに似た顔の子どもが生まれた。今、二人目が女房のお腹の中にいる。こいつもやっぱりサルに似た顔になるだろう。


こんな感じで、悪くないとも思いましたが、このあたりはやはり読者の想像に任せるべきだと考えて、加えませんでした。


なんだか、志賀直哉の『小僧の神様』の後書きみたいになってしまいました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 結局、美的感覚とか美の基準というのは、その時代や環境によって変わっていく。そしてその基準が自分と合っていなくても、何ら問題がないではないか。 というものですよね。 構想から執筆まで1時…
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