女神との遭遇 Ⅳ
「泉雲さん、まずは、どこから案内しましょうか?」
緊張気味の泉雲に対して、穏やかな声で聞く。
「まず、事務室で手続きをしなくてはならないのですが……」
「事務室ならすぐそこよ。手続きをするなら右側ね。早く終わらしてね」
「えっ、待っていてくれるんですか」
「もちろんよ。彼の頼みを断ったら後で何があるかわかったものじゃないのよ」
「脅されているんですか。暴力とか。大丈夫ですか? 何かあるなら、早く警察に行ったほうがいいですよ。それとも、今から行きますか?」
「い、泉雲さん? 何もされてないから、安心して。大丈夫よ」
針小棒大に想像している、と思ったが、泉雲が、安心したような顔をしていた為心の内にしまっておくことにした。
「本当ですよね? 本当なら、安心しました。それにそうですよね。炎雲さんに限ってそんなこと――」
それがそうでもないのよね。と呟きそうになるのを寸前で堪え、気づかれないように細く短く息を吐いた。先程のあの慌てぶりを見ると、言ってはいけないことを言おうとしていたことに自分ことながら驚く、そして言わなくてよかった、と胸をなでおろした。
「それより、泉雲さんって転校生?」
「はい、そうですけど、何故、ですか?」
首をかしげながら絢理守の問いに返す泉雲はどこか困った顔をしているように見える。
「いや、こんな時期に転校生って珍しいな、っと思ったから」
すこし誤魔化すように言ってみる。
「でも、まだ六月ですよ。こんな時期、って程ではないと思いますが」
「それもそうね。それより、早くしないと案内する時間がなくなるわよ」
的確な返答に、感心しながら話題を変える。
「あっ、すみません。それでは、行ってきます」
「うん、いってらっしゃい」
案の定、乗ってくれてので、微笑みで手続きに行く泉雲を見送った。
「さて、っと泉雲さんが手続きをしている間にこの資料を先生に渡してこようかしら」
手に持っていた資料を見ながらポツリと言う。
まったく、人使いが荒い、彼らは何を考えているのだろうか。
勝手に仕事を増やさないで欲しいものだ。
今日は休みだっていうのに、朝早く学校に来たと思ったら荷物持ちや物配り、私は便利屋じゃないって、何故いつも、いつも仕事が増えるのだろう。
自身の断れない性格に嫌気が差してくる。
それでも、笑顔を振りまき、挨拶をして文句一つ口に出さないでやってきた。
学級委員という立場でもある。今更、できないアピールなんて無理だろう。
学級委員を任された時だって、断れずに生徒会長と兼任という形になっている。
これもこれで様々な理由を突きつけられて、やるしかない、というところまで押されてしまっていた。
あれも、これも、元はといえば炎雲たちのせいではないか、何かと言っては協力してくれることには、素直に感謝するしかないわけだが、それでもやり方というものがあるはずだ。
一度言い始めたら、聞かないタイプだったっけ、昔はもっと人の話を聞いて最善の策を練る様な人間だったはずなのだが、いつしか一点張りしかできない頑固者になっていたようだ。