表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
双魔神伝  作者: 稲姫 繁
2/4

女神との遭遇 ii

「よろしく、お願いします。えっと……」

「ああ、ごめん。俺は、(えん)()、炎雲 天斗(あまと)だ。よろしく」

 そう言うと、泉雲の手よりは日に焼けた大きな手を差し出し、柔らかい握手をした。

 少女の手はとても小さく、冷たかった。冷え性なのだろうか。それでも湿度が高いこの時期に手が冷たいと感じることがあるのだろうか。冬や初春、秋の終わりならば、冷たい、という理由もわからなくはないのだが、炎雲の頭の上に立った疑問符は消えようとはしない。人はいつも頭の上に疑問符を立てているものだが、その多くはすぐに解決するか、問いを立てた本人が諦めるか、で消えるものなのだが、炎雲の上に立った疑問符は推測される答えでは消えないようだ。しかし、その問いを本人に聞けるはずもない。知り合って一日もたたないうちに、相手の中身を極端に探ることは集団社会に生きるものとして、避けたいことであった。それに加え、少女は『もう一人の自分』というもうひとつの人格を持つのである。先ほどのあの体験へ、自らを誘う覚悟はできなかった。

「あ、あの、恥ずかしいので早速、お願いできますか」

 泉雲が顔を赤く染めながらお願いしてきて、恥ずかしさが伝わってくる。それを必死に飲み込みながら答えた。

「わかった。じゃあ、こっちだ」



 ぎこちないながらも、街にあるモノを興味持ちそうなものから、順に教えていった。

 公園や面白い名前の橋、駅に郵便局、銀行といった日常生活に必要なものからそうでないものまで、興味がありそうなものはすべて、話せる限りのことを話した。

 泉雲の顔を横目で見やると、目が輝いて見える。

 本当に、熱心に炎雲の話す言葉一つひとつを聞き逃さないように、耳を傾けながら目先のものをも、目に焼き付けているようだった。

 こんなにも熱心に聞いてくれると、話す方としても、もっと詳しくとか、もっと分かりやすくとか、思いながら話してしまうのだった。

 



歩き始めて数分が経ったそんな頃。

「あの、あそこに見える大きな建物ってなんですか?」

「ああ、あれが目的地の桜倭煋(おうわしょう)高等学校。俺が通っている学校だ」

 泉雲は呆然とその建物を見ていた。

 その反応に、心中で頷いた。

 炎雲も最初にこの建物に案内されたときは、呆然と校門で立ち尽くしていた事を思い出す。

 広いのはもちろんだが見た目も破壊的である。

 中央にそびえるは、通称『監視塔』である。名前の由来は、その名の通りに監視塔に似ているから、という単純な理由である。名付け親は映画部の元部長だ。映画部が映画の撮影をする際に監視塔に似ている中央の塔をそのまま『監視塔』として映画に登場させたのである。その映像を見た生徒は中央の塔のことを『監視塔』と言うようになった。

 泉雲は唖然としながらも炎雲の話を頷きながら聞いている。聞き流している。

 校門入ってすぐ右にあるのが事務的館である。これにも通称があり、『門壁(もんぺい)』である。

 これもそのまま、校門から見ると門のように見え、近くから見ると壁に見えるというものである。名付け親は新入生およびその保護者、新人教師である。初めて来た人はその圧倒的なまでの存在感に驚き、皆一様に「○○門」と呟くからだという。今の泉雲もそんな思いに立たされているのだろう。震えているように見えるのは、炎雲の見間違いではないだろう。炎雲もそうだったからよくわかるのだ。その圧倒的なまでの破壊的存在感に、入るな、と言われているように感じてしまうのだ。無意識に手が、足が震えてしまうことを仕方がないことだと思わせるほどの圧倒的威圧感。それほどトラウマを生み出しやすい建物なのだ。しかし、高さは『監視塔』よりは低い。

 校門から見て、左前方にあるのが体育館である。この通称は『玉球』である。

 何ともえげつないネーミングセンスなのだろうか。欲求丸出しで笑うにも笑えない冗談である。しかし、これも名前の通りに球体が二つ並んでいることから付けられた。

 本当は別の名前があったらしいのだが、風紀委員により抹消された為にこの通称になっている。

 名付け親は自己発信力の高い男子たちである。欲求をそのまま具現化したような名前である。

 見た目をそのまま名前にしているので消されることはなかったが、風紀委員の会議上には上がった。しかし、無理に問題にする必要性がないことから見送る形となったようだ。

 泉雲はというと、訝しい視線をひたすら炎雲に向けている。

 しかし、体育館がなぜ球体が二つ並んだような形をしているのかの説明をしたとたんに、眼の色を変えて歩み寄ってきた。


 炎雲は校門の少し先まで案内すると、泉雲が軽く駆け出しある程度の距離を取ると、髪を靡かせながら振り返り、深く頭を下げた。

手を揃えてお辞儀をする姿は、可憐という言葉が当てはまるほどの愛らしいオーラを振りまいていた。

「ありがとうございました。お陰で無事に来ることができました」

 そう言うと、またも頭を下げる。

「あのさ、そう何度も頭下げなくていいよ。それに、俺なんか不器用で逆に迷惑だったろ?」

 言うと、泉雲は頭を振った。

「迷惑なんて、とんでもないです。それに、お礼は黙って受け取るものですよ」

 微笑しながら言う泉雲は輝いて見えた。泉雲の周りで星が瞬いたような錯覚に目を擦ってみるがそう見えてしまう。

「事務室まで案内しようか? ここ、結構広いし迷ったら困るだろ?」

「気持ちだけ受け取っておきます。それでは、失礼します」

「ああ、迷うなよ」

 炎雲の問いかけに微笑みを返し校内へと駆けて行く泉雲はやはり輝いて見える。

 キラキラと光るものが泉雲の周りをふわふわと舞っている光景が目に映ることで、この世界は本当に現実なのだろうか? と何度目かの疑問符を炎雲の頭上に立てるのであった。

しかし、これは現実だ。

ひとつの理由として、暑いと感覚器官が訴えているからだろう。この時の基本服装は半袖である。大気温制御システムによって、地面や建物の壁などから暑さが苦にならない程度に空気を対象に『熱を奪う』という行為が行われていた。その為、本来の気温がどんなに高くなろうと体感気温が毎日同じなのでこの時期でも長袖を着ている人は大勢いる。しかし、長袖には紫外線などの体に悪いと思われる物質を防ぐような機能は持ち合わせていない。なぜなら、この国自体がそれらを最低限に抑える壁に囲まれているからだ


前回よりは短めです。


多少の誤字修正はありますが、学生時代に書いたものをそのまま投稿しています。


バタバタしていてしばらくぶりですが、別の作品を書きながら、こっちの作品を修正するのはやっぱり時間的に厳しいかなって思ったりしてます。


 次の投稿は、修正が終わり次第投稿します。


感想よろしくお願いします。それでは、次の投稿で!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ