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迷宮のナダ  作者: 乙黒
第三章 古石
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第十七話 インペラドル

 ナダは懐かしい装備を付けて迷宮に入る。

 身に着けていた鎧は過去の物だ

 白銀に塗りつぶされたフルプレートアーマーだった。金属の板をたぐいまれな技術で曲げて、ナダの全身を包み込む鎧とする。腕の先から足の先まで、また顔も白銀の甲冑で覆い、その姿は冒険者と言うよりも騎士と言った方がいいだろうか。もちろん規格外の身長の持ち主であるナダのサイズに合わせて特注で作られており、数年ぶりに着る今となっても体に違和感はない。

 ナダの着るこのフルプレートアーマーは、アギヤに入る時にイリスからお祝いとしてもらった物だった。防御力に非常に優れており、過去には龍の一撃をも耐えた鎧だ。またそれでいて重量は軽く、オリハルコンと言う希少な金属が大量に使われている。

 もちろんラルヴァ学園にいる一般の冒険者にとってはあこがれの装備である。使われている素材も技術も最上級の物であり、同じ物を欲しがる生徒も多いだろう。

 現にナダもこの鎧にはお世話になった。

 もしもこの防具がなければ龍に殺されていたと考えるほどだ。


 また背負っている抜き身の大剣もかつての物。

 ただのグレートソードである。だが、素材は今着ているフルプレートアーマーと一緒であり、それでありながらナダの注文でこの大剣は特別“重く”作られている。

 今の時代の剣の強さは一般的に、剣自体の切れ味と剣をふるうスピード、剣を扱う技術、それにギフトやアビリティをどれだけ乗せられるかと言われているが、ナダは全く別の方法で剣の威力を上げていた。

剣の切れ味と振るうスピードは一般の冒険者と変わらないが、青龍偃月刀を使っていた時と同じく武器自体の自重とそれを操る馬鹿げた筋力によってアビリティや技術がなくても存分にモンスターたちと戦えるように工夫したのだ。

 ナダは後ろにある大剣の柄に手をかける。

 その感触はかつてのものと同じだ。

 おそらくニレナが丁寧に管理していたのだと思われる。

 綺麗に磨かれた大剣は、まるで過去からそのまま自分の元にやってきたと思うほどだ。

 だが、そんな思い出に浸っている暇などない。

 ナダはすぐに土でできた迷宮の階段を降り切った。


 王都から迷宮に入り長い階段を抜けると、ナダの目の前に広い風景が広がった。

 それはまさしく城と呼ぶのにふさわしい姿。

 遥かに高い空のような天井に浮かんでいる夕日のように赤い花に照らされながら、白くまるで王都にある王城のように白い建物は“下へと伸びている”。

 城のない部分は明らかに空洞であり、遥か下は闇に包まれている。その中でインペラドルの巨塔が白く輝いているのだ。


「……これが迷宮なのか?」


 ナダはインペラドルの姿にまるで人工物のような既視感を覚えた。

 だが、そのような感想を抱く者は多いと聞く。

 インペラドル、と呼ばれる王都にある迷宮はまるで地上にある町の姿を水面に移したかのような迷宮だという者もおおいほどだ。

 だが、城に入るまでも長い道が広がっている。

 数多くの建物が入り組むように並んでいる。まるで家のように入り口が幾つもあり、果物屋や肉屋のように入り口が大きく開いている家もあった。そこはまるでかつては人の住んでいたように思える

 まるで城下町のようだった。

冒険者は城に入りたければ、まず城下町を進まなければいけない。そこには一般人はおらず、裏道に入ってもネズミが一匹もいないようだが、どうやら我が道顔で城に防具も強さも劣る兵士たちが巡回兵として歩いていると聞く。

冒険者は時としてそんな兵士たちの目を躱し、間をすり抜けながら進んでいくらしいが、ナダはそんなまどろっこしいことはしない。

今回の冒険は、ただ迷宮に潜るだけだ。それ以外には何も望んでいない。

ナダはまるで自分の庭かのように大通りを歩く。

 常に右手は背中の大剣にかかってある。いつでも抜けるように。

 だが、冒険者はおろか、モンスターの一匹にも出くわしていない。彼らは道の陰にでも隠れているのだろうか。

 いや、そんなわけなどなかった。すぐにナダの耳にそろった足音が聞こえた

 それは大通りから広がる小道から出てきた。

 彼らは人のような姿をしていながらも、その身長はナダの半分以下だ。そして簡単な胸当てしか当てておらず、手に持っているのはこん棒や鉈だ。それが五匹しかいなかった。

 彼らまるで豚のように醜い顔をしており、体色は緑色で、頭には小さな角さえ生えている。モンスターの中でも亜人族と言われる者達だ。ナダは彼らの名称がゴブリンと言うことは思い出したが、その中でも細かくある種類まで覚えていなかった。だが、人ならざるモンスターだということは分かった。

 多少の知能は持っているようだが、残念ながら言葉は喋れないようで冒険者であるナダを見つけると喜びで叫びながら迫ってくる。

 まるで口から出るのは怨嗟の声であり、聴くだけで身の毛もよだつ者もいるだろう。人では決して発声することができないように音程が不規則に震え、低い声。それはきっと人に恐怖を与えるためだけの声であり、それ以外に意味はないのだろう。

 だが、ナダはそんな声を涼しい顔で聞き流していた。

 ナダは初めて会うこれらのモンスターにおびえることはなく、だからと言って興奮しているような気もない。

 あったのは、ため息だ。

 このままモンスターと出会わずに下に行ければどれだけ楽だったかという。

 ナダは横から現れたモンスターに興味すらなかった。

 剣は握っているが、モンスターを見ることもない。

 襲ってきた亜人達に対して、無慈悲にも剣を横に振った。

 最初に襲ってきた二体の亜人はナダの斬撃が避けられずに胴体が真っ二つになり、残りの三体の亜人たちへはもう一歩踏み込んで剣をふるう。かれらも持っていた武器で身を守ろうとするが関係ないように、ナダは彼らを無慈悲にも押しつぶした。

 ナダは彼らの小さいカルヴァオンには興味がなく、それから彼らを見ることはなく大通りを進んでいく。

 そもそも数々の経験を積んできたナダにとって、彼らなど敵ではない。

 初めてのダンジョンで見たこともないモンスターであったが、あくまで彼らは浅い層に出るモンスターだ。

 これまでにもっと強いモンスターと戦ってきた。

 その経験がナダを強くしていた。

 ナダは迷宮に一歩一歩ゆっくりと進みながらも、胸のしこりを確かめている。鎧に守られたそこを触ることはできないが、確かに今も心臓が熱を発しているように思えるのだ。

 それが迷宮を進むたびに強くなっているような気がする。

 しかしながらだからと言って、痛みがあるわけではない。

 むしろ体は今までよりも爽快に動くような気がする。

 今だってそうだ。

 オーガと呼ばれる亜人の兵士。ナダよりも少しぐらい大きな身長で手斧をふるってきたが、相手の攻撃よりも遠い位置から大剣を振り落として脳天割り。それだけでモンスターは絶命した。

 たとえ自分よりも大きいモンスターであっても、数が多くても、はたまた“炎を出す”不思議な亜人族であっても、関係なくナダは殺して行った。

 ――どれも一撃で。

 ナダを襲うモンスターは大通りを進むたびに増えている。

 人よりも低い背丈と太い体躯を持ったゴブリン。

 牛のように大きな肉体を持ち、鼻が大きく発達しているオーガ。

 全身に毛が生えた巨人であるトロール。

 様々な亜人種のモンスターが襲ってきたが、ナダはたいして苦戦することもなく慣れたグレートソードで次々に八つ裂きにしていく。剣と言う武器は懐かしかったが、どうやら勘は衰えていなかった。

 刃は緑色の血にまみれながらも、鎧には傷一つつけることなくナダは王城へと入るための長い橋にたどり着いた。


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