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迷宮のナダ  作者: 乙黒
第二章 楔
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第三十八話 最強の名Ⅲ

 運命の日がやって来た。

 あの話し合いから七日後の午前に、七人はトーヘのダンジョンの入り口にいた。いや、それだけではない。他にも多数の冒険者がトーヘの入り口に集まっている。彼らの中にはアメイシャの属する『アヴェリエント』のパーティーメンバーやオウロの属する『デウザ・デモ・アウラル』のパーティーメンバーも当然のように集まっていた。それだけではない。他にも多数の学園の冒険者たちが七人の姿を一目見ようとこの場に集っていた。もちろん学園外の冒険者たちもいる。彼らはラルヴァ学園の卒業生たちが多かった。


 彼らも当然のように学園最強の名に興味があった。

 すでに学園の冒険者の間では誰がこの“祭り”に勝つかが賭けの対象となっており、ナダの知る限り一番人気はイリスだったと思う。だが、コルヴォとコロアの人気もほぼイリスと変わらなかった。


 だが、誰もその“祭り”に参加しようとはしない。

 この七人以外には。

 トーヘに出る例の騎士の名は、この学園に限らず、インフェルノ中で有名だ。既に幾つものパーティーが挑戦したが、撃破できた者たちは一人もいない。ある者はパーティーメンバーを失い、ある者は大切な装備を奪われたようだ。

 インフェルノに存在する一流の冒険者たちがパーティーを組んで挑んでも勝てないようなモンスターに、この七人は単身で挑戦しようとしているのだ。そんな命知らずの冒険者は他にはいなかった。どの冒険者も栄誉や名誉よりも、命のほうが大切なのだ。


 それにイリスやコロア、コルヴォの三人に並び立とうとする冒険者がそもそもいなかった。

 彼らの名はラルヴァ学園の歴史の中でも、極めて優秀な冒険者だ。はぐれの撃破数やダンジョンに潜った深さなどを考慮すると、三人の時代を黄金時代と呼ぶものが多かった。

 事実、一年ほど前はイリスとコロアが競うように様々な記録を破っていった。。これから何十年かは覆ることがないような大記録を。

 その一つが、イリスは二体もの強力な龍の討伐。

 コロアは短期間のはぐれの撃破数。

 コルヴォは先の二人とは違い記録は何も破っていないが、先人が達成した記録の幾つかをパーティーメンバーが三人という最少人数で並び立ち、その優秀さは国中に広がっている。


 それに続く冒険者がアメイシャやオウロとされており、彼らの実力は、たとえラルヴァ学園を卒業した一流の冒険者であっても、並び立つ者など少なかった。現にこの場に彼らよりも有名な冒険者と言えば、やはり悪名で有名なナダとレアオンだろう。


「さあ、沢山の観客に見守られているね。じゃあ、行こうか?」


 コルヴォが他の六人を先導する。

 コルヴォの姿は、インフェルノに存在する最上の冒険者の一人にふさわしい格好であった。

 鎧は付けていないが、コートを着ている。

青のロングコートだ。

それはかつてコルヴォが狩ったとされるはぐれである青い龍の皮をなめして作った物であり、防御力や耐久力などは学園でも至高の物の一つだ。

 それにコルヴォがつけるブーツや手甲は革製のものだが、こちらは茶色であり、コートとは違う素材だが、おそらくは強いモンスターの皮を使ったものだと思われる。

 それに、腰に翡翠に輝く一本の剣。

コルヴォが龍を切り裂いたときにも使っていた剣であり、装備そのものは彼が用意できる最高の物を用意した。


 コルヴォの問いに誰も答えはしない。

 答えないほど、六人は集中している。

 これから行う冒険に、たった一人で行う危険な祭りに。

 すでに七人の受付はコルヴォが済ましており、後は迷宮に潜るだけだった。

 最初にダンジョンに入ったのはコルヴォであり、それから他の六人がトーヘの迷宮に入って、すぐに分かれた。

 そんな彼らの後ろ姿を多くの冒険者が歓声を送る。

 誰もトーヘには入ろうとはしなかった。

 そもそも今日は、コルヴォが力を使ってトーヘに他の冒険者が入れないように学園側から圧力を使っていたのである。



◆◆◆



 トーヘの構造は単純だ。

 一階層ごとに、十二個の部屋がある。そこに存在するモンスターを狩れば下に進む扉が開かれるという構造だ。

 また既に冒険者がいる部屋には入れないということ。

 また各階の各部屋に出現するモンスターにはある種の傾向があり、完全なランダムというわけではないというのが冒険者たちにとっての常識だ。

 だからこの“祭り”に参加する冒険者たちは事前に情報を仕入れている。どの階層でどの部屋にはいるのが最も早く目当ての部屋につけるかを。


 もちろん、コルヴォだってそうだ。

 今回の“祭り”に勝つためにトーヘの公開されている情報は全て抑えており、更に過去に潜った時の経験も合わせてどこの部屋に挑むかは既に決めてあった。

 コルヴォは白い無機質な階段を下っていく。

 明かりは階段と同じ素材でできた壁につたうようにある蔓だ。このダンジョンは壁や床に張り巡っている蔓が発光して、冒険者に明かりを与えている。

 既に他の六人とは別れた。

 彼らはそれぞれ、己の得意とする部屋に潜っていったのだ。

 おそらく、それぞれに勝算があって各自の部屋を選んだのだろう。

 コルヴォの選んだ部屋は、過去に潜ったことのある部屋だ。どれも攻略済みの部屋であり、そこに出るモンスターの特徴などは頭だけではなく、体で理解している部屋を選んだ。


 コルヴォはやがて扉のある所まで付いた。

 その白い扉には取っ手がなく、コルヴォが前に立つとゆっくりと開いて、奥にある広い空間へとコルヴォは足を踏み入れた。


 ――一階層。


 壁にや床だけでなく、天井にまで広がる蔓によって照らされた空間には、一体のモンスターが存在する。

 コルヴォの選んだ部屋の最初のモンスターは、からの剣士と呼ばれる初心者御用達のモンスターだった。

 そのモンスターの特徴としては、灰色に包まれたプレートメイルと同じ色の剣だろう。剣は所々が欠けており、切れ味は悪い。コルヴォが何度も見たことがあるモンスターであった。

 また空の剣士には中身がなく、頭部にある甲冑の中に小さなカルヴァオンがあるだけだ。

 狩り方は簡単だ。

 首と胴体を切り離すだけ。

 それだけで空の剣士はばらばらとなり、簡単に崩れ落ちる。


 コルヴォは空の騎士まで悠々と歩く。

 既に剣は抜かれており、翡翠の輝きを右手に握っている。

 コルヴォは走ることもしなかった。

 やがて自身に気付いた空の剣士が走ってこちらに向かってくることを知っているからだ。


 空の剣士は、甲冑の目の部分の奥から見える青い光が光った。それも右目だけ。それは空の剣士が持つカルヴァオンの輝きであることをコルヴォは知っている。

 それから空の剣士はこちらに走ってきた。

 ――それ、来た。

 コルヴォは呟いた。

 金属の跳ねる音が部屋中に響く。それは重く、鈍い。

 怠慢な動きをする剣士はコルヴォに対してゆっくりと剣を上げて、それから振り下ろそうとするが、その一瞬――コルヴォの剣が輝いた。アビリティを使ってすらおらず、素の剣撃。

 真横に放たれたそれは、寸分違わず空の騎士の頭部を切り飛ばす。

 それだけで過去にコルヴォが何度も見た光景と同じように剣士は鎧がバラバラとなって崩れ落ちた。そして床に転がった兜の中からは小さなカルヴァオンが転がった。

 コルヴォはそのカルヴァオンを拾おうとはしない。

 拾ったとしても二束三文であり、またそのような重たい荷物を抱えてこの先の迷宮探索をするつもりがコルヴォには無かった。

 そんな事よりもコルヴォに重要だったのは、モンスターを倒したことで開かれる先に続く扉。そこへと急いでコルヴォは入る。また巡り合う階段。

 コルヴォは自身の目的のために、また一歩階段を降りて行く。

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