閑話Ⅲ カテリーナとシィナ
大地が脈動している。大きなうなり声を上げながら、地の底から熱気が舞い上がった。
ナダは大きな山の麓にいた。
大きな地震にナダの上半身は揺れるが、たくましい下半身によってしっかりとその場に立っていた。
近くで大きな爆発音がナダの耳を襲い、思わず両手で守るように覆う。
山が、噴火したのだ。
赤赤とした溶岩が舞い上がり、山からあふれ出る。
ナダはそんな山の麓にいるはずなのにどうしてか逃げる、という選択肢が頭に浮かばなかった。
マグマがすぐに山から流れ出て、ナダの足元まで迫る。
足元を、焼いた。激しい“熱”がナダの体を襲う。やがてあふれ出る“熱”はナダの体を埋め尽くし、激痛を味わった。
皮膚が、肉が、骨が灼ける痛みだ。それは体の外側から侵食するように焼き尽くし、内側をも焼いていく。
いや、むしろ――内側からより激しい“熱”が発生し、内側から全ての溶岩を焼き尽くすような痛みが、ナダを襲う。それは確かに左にある心臓を起点としていて、ナダを今にも殺そうとしているかのようだった。
――そんな焼けるような痛みと共に、ナダは起き上がった。
ベッドの上だ。
現在、インフェルノのスピノシッシマ家に泊まっているナダは、広い客室で脂汗をかいた状態だった。
周りには誰もいない。妹であるテーラは、このスピノシッシマ家の一人娘であるカノンと共に寝ているのだ。
だから一人でよかったと、ナダは歯を食いしばるようにそんな痛みから耐えながら思った。
口から荒い息が流れ出ながら、ナダは必死に痛みに耐えた。
ナダは――病を抱えている。
迷宮に潜ることで冒険者がやがて発症すると言う“英雄病”だ。症状としては、時々心臓が痛み、体が不老不死になるのである。
ナダはこんな痛みを、発症してから何度も味わった。もちろんマゴスに挑戦していた時でさえ、オケアヌスで何度もこのような痛みを味わったのだ。
だからこういう時の対処方法は心得ている。
痛みに耐えて少しマシになったら、迷宮に潜りに行くのだ。
どうしてか、迷宮内ではこの痛みは発生しない。また迷宮に潜ることで痛みも治まるのである。
未だにその理由をナダは理解していないが、きっと戦う時の緊張感が痛みを紛らわせるのだろう、と思っていた。
だからこんな時は迷宮探索に行く。
ナダはベッドの上から見える窓から、遠くの空を見た。もう朝日は昇っており、外は快晴だった。
迷宮へ挑戦するのにいい日だ、と思いながらナダはベッドから出た。
◆◆◆
部屋から出たナダはスピノシッシマ家の妙齢の女中に案内されるように、応接間へと移動した。
十数人ほどが一緒に席につけるような椅子には、二人だけ座っており、どちらも紅茶と簡単なサンドイッチを食べている。
「うむ。起きるのが遅いぞ」
その一人がカテリーナだった。
動きやすい服装をしている。鎧も持ってきているのか、応接間の端にカテリーナ愛用の剣と、鎧が用意されている。
剣はマゴスでの攻略で使ったものと変わっていた。
冒険が終わった直後にカテリーナも剣を調整に出すと言っていたから、きっと新たな剣を仕入れたのだろう、とナダは思った。
長さは依然と同じ90センチ程であり、両刃の剣であった。より自身のアビリティに合うように、少し細めの剣を選んでいる。鞘に隠れているので詳しくは知らないが、きっとヒヒイロカネやオリハルコンなどの希少な鉱石を使った剣だろう、とナダは思った。
マゴスでの冒険は、カテリーナにサブにいい剣を買えるほどの財力を与えた。きっとまだそれでも多数のお金が残っているのだろう、とナダは思う。
ナダですら、今では有り余るほどのお金を持っているのだ。ハイスのおかげで出会うモンスター全てのカルヴァオンを持って帰れたのだから。
「私達……待った……」
もう一人がシィナだ。
こちらはギフト使い御用達の白いローブを羽織っている。簡単な短剣が机の上に置かれている。以前に武器は使わないと言っていたシィナだったが、ニレナの影響で武器も扱えるようになる、と以前の『ラヴァ』での会話で意気込んでいた。
「その用意をしているという事は?」
ナダは二人の服の変化にすぐに気付いた。
「――迷宮に潜るぞ!」
カテリーナは意気揚々と言い、
「……わくわく」
シィナも目を輝かせていた。
二人から詳しい話を聞くと、どうやら他に誘えるような冒険者がいなかったようだ。
現在、カテリーナとシィナの二人は未だにスピノシッシマ家に滞在している。次の冒険地をどこにしようか、二人とも悩んでいるようで、未だに旅立ってはいない。
既に他の『ラヴァ』の元メンバー達は多くが旅立った。
オウロは早々と自分の里に帰って行った。どうやら『マゴス』を突破した黒騎士の動向が気になるらしく、いち早く情報を得るために里に何か残っていないか探しに行ったのだ。
そんなオウロは、また定期的に連絡するとも言っていた。どうやら太古の他の英雄達についても、黒騎士の情報が残っていないか探すとも言っていたのだ。
ニレナは実家にもう帰っている。それから連絡はないが、きっと今頃英雄の情報を探して忙しいのだろう、とナダ達は思っていた。
ハイスは、既に以前のパーティーである『コーブラ』と共に、既に王都へと戻ったかのようだ。仲間のリハビリもあるので、すぐに冒険再開とはいかないらしいが、気長に仲間達の怪我を癒しながら王都での冒険をまた始めるようだ。
新たに、より上へと挑戦するつもりだと、意気込んでいた。
そしてナナカはまだこのスピノシッシマ家に滞在しているが、どうやら忙しい日々を送っているらしい。
毎朝出かけるのが早く、遅くに帰ってくる。
新しいアギヤの始動を既に始めていた。
今はラルヴァ学園の学生たちを募っているらしい。何人か有望な学生がいるので、彼らに声をかけて一緒に迷宮に潜りながら次のアギヤのリーダーを誰にするか考えているようだ。
これに関してはラルヴァ学園学園長や『アギヤ』の元メンバー達とも連絡を取りながら、ゆっくりと進んでいる。
「だから私たちは暇なのだ。あまり迷宮に潜る期間が長くなってもいけないからな。最近は暇そうなナダに、声をかけたんだ。まだ新しい迷宮には行かないのだろう?」
「ああ、そうだな。じゃあ、早速迷宮に行くか」
そんなカテリーナの言葉に、ナダは二つ返事で頷いた。
ナダ自身も、今から迷宮に向かうつもりだったのだ。
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