表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷宮のナダ  作者: 乙黒
第四章 神に最も近い石
268/277

第百三十二話 地上Ⅲ

「そうか。ナダは四大迷宮の全ての攻略を目指しているからな。その先にあのモンスターが動かない迷宮を攻略する予定なのだろう?」


「カテリーナの言う通りだぜ。どれだけ時間がかかったとしても、俺の今の目標はそれだ」


「過酷な道のりだな。私は当分ゆっくりする予定だ」


 カテリーナは苦笑いをする。彼女にとっては今回の冒険だけで満足したのかも知れない。過酷な迷宮の環境、凶悪なはぐれ、新たな発見、短時間で経験するには十分すぎるほどの冒険だった。

 さらに彼女は『ラヴァ』の中で唯一、アビリティの進化を果たした。成長率だけで言えば、『ラヴァ』で最も強くなったのがカテリーナである。次の冒険の為にゆっくりと休息をとるのだろう。それには有り余るほどのお金を得たのだから。


「他の皆はどうするんだ?」


 カテリーナの今後の予定を聞いて、ナダは他の仲間の動向が気になった。


「私は…………もう少ししたら冒険者に……戻ろうと思う。どこかのパーティーに入って、一から頑張るの」


 最初に応えたのはシィナだった。

 彼女は迷宮に挑む前と比べてまるで憑き物が落ちたかのようにすっきりした顔つきをしていた。ダーゴンを殺し、仲間達の復讐を果たしたからだろうか。どうやら過去をずっと向くのではなく、未来へと新たな道を歩けるようになったようだ。


「私は……」


「――ちょっと待ってください」


 ナナカがシィナに続いて話そうとした時、ニレナが止めた。


「どうかしたんですか、ニレナさん」


「はい。ナナカさんが今後を考えるのはこれを渡してからでもいいと思いまして。どうぞ、これを――受け継いで下さいまし」


 ニレナが隣にいたナナカに渡したのは、小さな鍵だった。


「これは……?」


「以前に言ったでしょう? 一人でのマゴスでの挑戦がうまく行けば、わたくしからプレゼントがあると。これはそのプレゼントです」


「……どこの鍵なんですか?」


「アギヤの保管庫の鍵です」


「アギヤの……?」


「ええ。ナダさんはこれを受け継いだ身なのですが、責任感がないのでこれを放置していました。ですが、本来ならこの鍵はアギヤの名を使う気が無いのなら、誰かに受け継ぐべき代物なのです。なにせ、この鍵を継ぐという事は、過去のアギヤの戦士たちの魂を受け継ぐということ。アギヤの血は簡単に絶やすことが許されるような“名”ではありません」


 ニレナはナダを睨みながら言う。ナダはばつが悪そうに頬をぽりぽりと書いた。

 アギヤの名の意味を、ナダ、ニレナ、ナナカはかつて所属した身としてよく知っている。それはかつての偉大な冒険者が作ったパーティーの名である。古来より脈々と受け継がれており、インフェルノの冒険者においては一種のステータスにもなっている。


 数世代前にラルヴァ学園の学生に受け継がれて以降は、学園でのトップパーティーが受け継ぐべき名とされ、その名を持つ者は偉大な冒険をすることが義務付けられており、ラルヴァ学園の中にはアギヤに入ることを目標にする冒険者も多かった。

 数々の冒険者を経て、当時最強の一角だったイリスに引き継がれたのである。そこからレアオンに引き継がれ、なんやかんやあって、現在はニレナの手元にあるが、かつてアギヤに所属していたニレナとしては、このような名の使い方はよくはないと常々思っていたのである。


「でも、私なんて……」


 その名前の意味を知っているからこそ、ナナカは鍵を手に取る事が出来なかった。簡単に取ってしまえば、かつてアギヤに憧れた自分を貶してしまうような気がして。


「いいえ。ナナカさんだからこそ、わたくしはこれを受け継いでほしいのです。イリスさん、レアオンさん、ナダさん、それぞれのリーダーに所属し、今回はマゴス攻略という偉業を一緒に果たしました。資格は十分にあると思っています」


 ニレナは鍵を手に取って、ナナカの手の中に握りこませた。


「でも、私は――」


「もし、この鍵を手放したくなったら、ナナカさんがアギヤとして活動した後にまた誰かに継いで下さい。もちろん、その際には“先輩たち”の審査もあるとは聞きますが、ナナカさんなら大丈夫です。一緒に冒険しましたから」


「……そうなんですか?」


「ええ、自信を持ってください。わたくしが思うに、ナナカさんは運が悪かったのです。学生時代に英雄になるナダさんやレアオンさんを見ていました。二人と比べれば劣ると思うのも分かりますが、きっとナナカさんなら大丈夫です。ナナカさんの輝きは――イリスさんにも負けていませんから」


 ニレナの真摯な言葉に、ナナカは目の端からすーっと涙を流した。


「え、どうしてかな? ニレナさんからこんな事言われてとっても嬉しいのに、涙が出る」


「そこまで感動してくれると、わたくしも嬉しいですわ」


 ニレナは優しく微笑んだ。


「私、頑張ります! アギヤに相応しい冒険者になって、もっと相応しい冒険者を絶対に探します! だって、以前に言ってくれましたもんね! 私もアギヤの血を引いていると!


「ええ、頑張ってください!」


 ナナカの決意に、仲間達は温かい笑みをした。彼女の新たな旅立ちを祝したのだ。それがどれだけの重みなのかは、ナナカ以外の誰にも分からない。


「英雄、ね――」


 ナダは小声で言った。

ナダにとっては興味がないと捨てるようにニレナへと送った鍵である。その鍵に価値があるとすら思わなかった。

 だが、英雄の後を継ぐ。その言葉には何だか親近感を覚える。ナダは英雄を継いだわけではないが、後を追っている。かつてのアダマスの冒険を。ナナカもアギヤがかつて歩いた冒険を歩くのだろうか。それともすぐに誰かを見つける旅に出るのだろうか。どちらを目指すのかは分からなかったが、その未来をナダは少し楽しみに思った。


「私は黒騎士の後を追うつもりだ」


 英雄という言葉に反応したオウロが、しみじみと言った。


「確か……黒騎士の痕跡はなかった……」


 シィナの言う通りだと、オウロは頷いた。

 オウロの探していた黒騎士たちはマゴスの底に辿り着けていない、と思っていたが、どうやら湖底を突破し、オウロ自身が英雄になった扉の前まで辿り着いていた。そこで黒騎士は全てが石となって固まったと思ったのだが、どうやらその先にも黒騎士の紋章があり、ポディエへと続く道にも黒騎士の痕跡はあった。


 それから先、黒騎士の死体はおろか、紋章はぱっと見なくなった。

 マゴスを攻略できるほどの冒険者が、ただのポディエで殺されるとは考えにくいため、どうやら黒騎士はマゴスを攻略後、地上に戻ったと考えるのが自然だ、とオウロ達は結論付けていた。


「私の知っている情報では黒騎士は底を目指して、消息を絶ったと聞いていた。だから先祖たちの悲願を達成する気だったのだが、どうやらそれは無駄だったらしい――」


 オウロは嘆息した。これまで自分が行ってきたことは既に先人がなぞった冒険であり、黒騎士の悲願とされていた冒険の結果は既に攻略済みであった。


「――だから、目標が変わった。里の記録をもう一度洗って、地上に戻った筈の黒騎士の痕跡をもう一度探すつもりだ。冒険者だから、きっとマゴスの攻略後にもどこかの迷宮に挑戦したと私は踏んでいる」


 オウロは、力強い言葉で言う。新しい目標は地上に戻ってきた時から、オウロがずっと考えていた事だった。

 疑問だったのだ。石にならずにあの扉を突破した黒騎士は何を考えていたのか、どう行動していたのか、黒騎士というクランに戻らず、消息を絶ったその理由を。その冒険の果てを、オウロは知りたくなったのである。

いつも感想やいいねなどをくださり、ありがとうございます。

「@otogrostone」というXのアカウントで情報の発信もしています。現在ですと第1巻の発売記念で、Xでの感想ポストをした方全員にプレゼント企画もやっていますので、是非参加いただけると嬉しいです!詳しくはXで私の固定ポストにしています!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ