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迷宮のナダ  作者: 乙黒
第四章 神に最も近い石
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第百二十七話 神に最も近い石ⅩⅩⅦ

「アダマスの紋章がない。二人は別れたのか?」


「もしくは通った時代が違うのかも知れませんわ」


 ナダの疑問に、ニレナが一つの可能性を言った。

 ここは誰の手記にもない冒険だ。真実は分からない。どれだけ想像しても、きっと想像は現実を超えるのかも知れないのだから。


「でもさ、これ帰り道ってことでしょう? 黒騎士が向こうに行ったんなら地上に帰れたんでしょ? オウロ、よかったじゃない。黒騎士伝説はまだまだ終わらないわよ――」


 ナナカはあっけらかんとしながら言うが、その言葉に他の仲間は目を見開いたように驚いた。


「ナナカ、知らなかったのか? 黒騎士はマゴスの冒険で滅んだんだぞ。だからオウロはそんな黒騎士の痕跡を探していたんだが……いや、確かに、アレキサンドライト様はこの道が帰り道だと言った。とすれば、黒騎士は生きていたというのか?」


 ハイスは顎を摩りながら考えている。

 確かにナナカの言う通りだったのだ。この際に黒騎士が行ったのなら、『スルクロ・ファチディコ』を通って地上に帰った事になる。マゴスの先は既に黒騎士は通っているのだから。


「他の……冒険者が真似をした可能性はない……の?」


「突破だけなら名誉を継いで、という事はあるかも知れないが、だが、帰り道まで紋章を騙る事はないだろう――」


 シィナの質問に、オウロが見解を述べる。

 先ほどの紋章の時は既にアダマスの紋章が描かれた隣に黒騎士の紋章があったので、迷宮を踏破したと言う栄誉の為の紋章という可能性は十二分にあった。だが、この道は単なる帰り道である。必要なのはもう既に踏破したと言う栄誉ではなく、迷わない為の道しるべだ。


「本当に黒騎士の痕跡はマゴスへの挑戦以降はないのか?」


「ハイス、私も何度も調べた。だが、見つからなかった」


「それなら、死んだ、という可能性もあるな――」


「ここはまだ迷宮の先、どんなモンスターがいるかも分からないからな。ダーゴンやヒードラのようなモンスターに、一人で出会ったのなら殺されてもおかしくはないな」


 ハイスとオウロはお互いの見解を交わしながら、少しでも黒騎士に辿り着こうとするが、やはり答えは出なかった。


「だったら、先に行けば分かるさ。黒騎士が本当に地上に戻ったのか、それともこの先で死んだのかはな――」


 ナダはそう言いながら先を見据えていると、ぼっと青い炎が浮かんでいた。それは最初はロウソクのような小さな火だったのに、徐々に大きくなる、まるで火が成長しているみたいだ。


「あれは……明かりか?」


 徐々に大きくなった青い炎は、オウロの目にも映る。オウロが初めに考えたのは、迷宮内の明かりである。場所によっては様々であるが、発光している花や石などはどの迷宮にも、冒険者に都合よく存在している。おかげで明かりを持ち込まずとも、冒険者は明かりに困ることがなかった。今回の明かりもそれだ、とオウロは思ったのだ。


「いや、違うと思うわ。もしもあれが明かりなら、動くわけがない。大きくなっていると思わない? 私はあれに似たモンスターをよく知っているけど――」


 ナナカはその炎を、これまでの経験から“モンスター”と定義した。腰の剣を素早く抜く。戦闘態勢へと移行するように腰を下げた。動く光など、ナナカはモンスターしか知らない。もしもモンスターではないとしても、心と体を先頭に備えるのは無駄ではない、というのは冒険者にとっての常識だ。


「青い炎……だと、私が知っているのは、龍かトカゲだな。詳しい分類は知らないが、どちらも青い炎を吐く種類がいると聞く。殆どははぐれだから、私は会った事がないが」


 剣に光を纏わせたカテリーナが言うのは、火竜や火蜥蜴の亜種であるはぐれだ。どちらも通常種よりも強いと言われており、口から吐く炎が赤色ではなく青色なのだ。吐く火は赤よりも青い方が火力が高いと言われており、。強力なモンスターが多かった。どちらのモンスターもナダが会った事のないモンスターである。


「もしもあれが火竜なら、かなりの苦戦となるな。大きさは分からないが、龍を殺すのは骨が折れる。ヒードラよりかは弱いと思うけど」


 ハイスはため息を吐きながら剣を抜く。

 龍の強さはハイスもよく知っている。何度か出会ったことがあるが、狩ることをリスクを考えるとその殆どをこれまでの冒険では逃げており、まともに戦った回数は手の平で数えるほどだ。その中でもちゃんと討伐したのは二度であり、それでも多くの冒険者と比べればはるかに多い数である。


「私も……出会ったことない。私の水で防げるかな?」


 シィナは祝詞を唱える事無く、仲間の身体に水のベールを纏わせた。炎に耐性をつける効果である。また水のベールが体の動きを滑らかにし、普段よりもよくする効果もあるのだが、水のギフトは他の属性のギフトと比べると身体能力向上はおまけ程度なので、ないよりはある方がましといった効果であった。


「大丈夫だと思う。僕の知る限り、余程な龍種でない限り、このパーティーメンバーなら龍の吐く愚鈍な炎に当たることはないだろう。その前に倒しきる方が早いと思う」


「確かにそうね。このパーティーの機動力は早いし。ナダなんて図体はでかいけど、致命傷は殆ど喰らわないしね」


 ハイスの意見に、ナナカが同調する。


「余計なお世話だ――」


 ナダはぶっきらぼうに言う。


「青い炎と言えば剣に纏うようなモンスターはいなかったか?」


「インペラドルに出る『フォーゴ・エスグリミドール』の亜種だな。一応はぐれだから僕も会った事はない」


「あれは倒せずに逃げたが強かったな」


「『フォーゴ・エスグリミドール』自体が強いからな。剣に炎を纏うから、武器で防いでも熱気にやられてしまう」


 カテリーナの言葉に、嫌なものを思い出すようにしかめっ面をしたハイス。どうやら『フォーゴ・エスグリミドール』には嫌な記憶があるみたいだ。インペラドルで長く活動していたハイスにとって、『フォーゴ・エスグリミドール』に出くわす機会は少なくなかったようだ。


「そう言えば、『アズゥ・フェニックス』という可能性もありますわね――」


 そんな中、ニレナも青い炎のモンスターを思い出す。


「フェニックスの亜種、はぐれね。私は出会ったことはないけど、確かアギヤでの討伐記録があったんでしたよね?」


「はい。ナダさんも覚えているでしょう?」


「ああ。あれは強かったな――」


 フェニックスは、ポディエに出る強力なモンスターである。炎で全身を包み、ギフト使いのように無数の炎を操って冒険者を襲うモンスターだ。どれも強力な個体ばかりで、丸焦げになった冒険者は少なくない。通常種のフェニックスが出るだけで学園では大騒ぎだった。ギフトを使えない下級生、上級生であっても炎に耐性を持たないパーティーなら遭遇するのを避けるほど強いモンスターだ。他にも鳥型のモンスターは存在するが、フェニックスだけが龍に比肩すると言われている。


「多分、騎士か龍でしょ。フェニックスとは出会うだけで幸運が訪れる、なんて言われるほど珍しいモンスターなんだから」


 ナナカの言うのは迷信であるが、“ツキ”を大切にすることが多い冒険者には信じる者が多い。

 迷宮内で幻らしいモンスターには様々な迷信がつきものだ。例えば龍と出会うと災いが訪れる、なんていう迷信もあるのだ。


「いや、その“まさか”かも知れないぜ?」


 ナダは目を凝らした先にある炎は、徐々に大きくなる。いや、大きさは全く変わっていないのに、こちらに近づいてくるのでまるで大きくなったように錯覚してしまうのだ。

 燃え滾る青い炎が、ぱちぱちと弾ける音がナダの耳に聞こえた。それも一つではなく、無数に。幾つもの炎の音が重なり合うのだ。この音は聞いた事があった。

 青い炎は、二つの新たな青い炎を生み、ナダ達へと射出する。『ラヴァ』のメンバーはその二つを簡単に躱してやってくるモンスターを待つ。

いつも感想やいいねなどをくださり、ありがとうございます。

本作品の書籍版が10月30日に発売予定するので、「@otogrostone」というXのアカウントでキャラ紹介などもリポストしております!

ちなみにナダだけではなく、イリスやニレナなどのイラストも見れますので是非見て頂けると幸いです!

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― 新着の感想 ―
いろんなモンスターの話が出てわくわくしましたねー そんな図鑑にカラーで描いてあったら買いそう!
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