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迷宮のナダ  作者: 乙黒
第四章 神に最も近い石
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第百二十四話 神に最も近い石ⅩⅩⅣ

「ナダ、どうしたんだ!?」


 そんなナダの動きに戸惑う仲間達だったが、ナダは振りかぶった刃を下ろして何も持っていない左手で牛頭のモンスターを触る。


「こいつらは、死んでいるみたいだな――」


 ナダは確かな殺気を感じるのに、全く動かないモンスターを死んでいると断定した。

 左手で触った感触はまるで――石ころのように固かった。光の扉の前にいた太古の黒騎士たちのように、ここにいる牛頭のモンスターも同じく石になっているのだろうか。

 ナダにはその原因が一つとして分からなかった。


「この感触は石か?」


 ナダと同じように牛頭のモンスターを触ったオウロは同じ感想を述べた。

 それからすぐにして、他の『ラヴァ』のメンバーもベタベタと触り始めた。


「でも、死体じゃない気がする」


「確かにそうですわね。熱を感じますわ」


 ナナカとニレナも牛頭のモンスターを触りながら、ナダから死んでいると言われても、やはり生きていると錯覚していた。特にナナカのモンスターに触れる手は震えていた。動かない、と分かっていてもどこかでこのモンスターは生きていて、今内も自分に襲い掛かってきそうな恐怖と戦っているのである。


「どういうことだ、これは?」


 カテリーナは持っている剣で牛頭のモンスターを斬ろうとするが、こつこつと石を殴っているような音が聞こえるだけで全く切れなかった。流石にアビリティを使ってまで石のようなモンスターを斬ろうと言う気はカテリーナには起きなかった。剣の刃こぼれが気になったからである。


「意味が……分からない……」


 シィナも触れてみるが、やはりこれまでのモンスターとは違う反応に驚きを隠せなかった。


「……石というよりも、まるで時が止まっているような感じだ。こんなモンスターの姿は初めて見る。これが……英雄の見ている姿とでもいうのか?」


 ハイスは仲間達が注目している牛頭のモンスターを尻目に、望遠鏡を使って他の牛頭のモンスターへと視線を移した。他の牛頭のモンスターも止まっている姿に差異はあれど、どれも動いている様子はなかった。生命活動をしていないようだった。


「これが……俺の求めていた真実なのか?」


 仲間達が迷宮の新たな一面に驚いている中、ナダはこれが自分の求めていた“真実”なのか、と思うと非常に残念な気持ちだった。

 ――英雄病、それの治療に関わるヒントは何一つ得る事が出来なかった。

 英雄病の痕跡は見つけた。

例えば石になった黒騎士。彼らは英雄病が進行してしまった結果、石になってしまったのかも知れない。とすれば、自らの行く末も石のように固まり、動かなくなるのだろう。

例えば、英雄たちの足跡。アダマスの紋章はこれまでの中で最も多い数存在した。きっとこれらの道程は全て英雄たちが歩いた道筋であり、アダマスの後を目指す冒険者なら喉から手が出るほど歩きたい道だろう。

だが、ナダの最も求めている治療法については、未だに一つの切っ掛けすらも得られていない。


「――やあ、もうこんな所まで来たんだね」


そんな時だった。

『ラヴァ』のメンバー以外の声が聞こえたのは。

七人が同時に振り返り、腰の武器にも手をかける。

そこにいたのは――長い白髪が特徴的な男であった。色褪せたローブを着ている。女性かと思えるほどの綺麗な顔つきをしているが、分厚く発達した上背が男だと分かる。

そして何よりも特徴的なのが、血で濡れているのかのような赤い瞳である。


「……久しぶりだな、“アレク”」


 ナダは久しぶりに会う英雄である“アレキサンドライト”に、もう怯える事はなかった。



 ◆◆◆



 久しぶりに出会うアレキサンドライトは、何も変わっていなかった。

 三年という月日が経ったのである。普通の人間ならば、多少の変化はあるものだ。顔のしわが増えたり、肌の艶が減ったり、はたまた顔つきが変わる者もいるだろう。

 だが、アレキサンドライトはあの時のままだ。むしろあの時とは違い、ローブが小奇麗になっているので若返ったように感じる。顔は全く変わっていないのに。

 やはり――英雄、そんな言葉が、ナダの頭の中に浮かんだ。本人に確認はしていないが、悠久を生きている冒険者なのだと思った。


「ああ、久しぶりだね。ナダ。まさか、もうここに辿り着くとは思わなかったよ。ここに来たという事は、“四つの迷宮の内の一つ”を攻略したんだろう?」


「ああ、そうだぜ。マゴスという水のダンジョンを攻略した――」


 アレクの質問に、ナダ以外の誰もが答えなかった。

 直立不動なのはナダだけであり、誰もがこうべを垂れるように前傾姿勢になっているのだ。彼らの隣にいる牛頭のモンスターよりも脅威度が上だと認識したのだろう。それぐらい、アレクの存在感は圧倒的だった。


「――素晴らしい、それは! あれからどれぐらいの月日が経ったのかは分からないけど、そう大きくは経っていないんだろう?」


「……四年に少し足りないな」


「零から迷宮に挑戦して、完全に攻略するまでに一桁か。それは凄いな――」


「そうなのか――」


 ナダとしては、ここに来るまでにとてつもなく長い道程を歩いたつもりだったが、どうやらアレクにとっては破竹の勢いだった事に驚きそうになった。四年での迷宮の攻略が偉業ならば、これからの冒険にどれだけの期間がかかるのか、ナダは気が遠くなりそうだった。


「ああ、そうだよ。アダマスさんはマゴスに“六年”はかかっていた、と思う。それをたったの四年だ! 他の冒険者なら一生かかっても攻略できないような偉業を達成したんだ。誇っていいと思う」


 アレクはナダの肩を叩いて褒め称えていた。

 だが、ナダには他に気になる部分があった。


「……アレクは迷宮の攻略方法を知っていたのか?」


「残念ながら知らないよ。オレが冒険者になったのは、アダマスさんが四大迷宮を攻略した“後”だからね。詳しく聞いた事もなかった」


「そうか。それは残念だ――」


 ナダは肩を落とした。


「そう落ち込むな。それで、ナダはこの先に行こうとしたわけだ」


「そうだ――」


「で、この空間を不思議に思ったと?」


「アレクの言う通りだな」


「それに関しては答えをあげよう。さあ、皆、帰りながら話そうか? どうせ、この先には“何もない”からね。もしも疑うなら一度行ってみるかい?」


 アレクはナダ達を連れて引き返そうとする。

 ナダをも超える英雄であるアレキサンドライトに逆らう者は、『ラヴァ』のメンバーの中には一人としていなかった。

いつも感想やいいねなどをくださり、ありがとうございます。

本作品の書籍版が10月30日に発売予定するので、「@otogrostone」というXのアカウントでキャラ紹介などもリポストしております!

ちなみにナダだけではなく、イリスやニレナなどのイラストも見れますので是非見て頂けると幸いです!

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― 新着の感想 ―
くそー、アレキサンドライトについて微妙に記憶があるけれど前回どんな話をしたか覚えてないっ…!
アレク!久しぶり! インペラドルで聞けなかった話をようやく聞く事が出来ますね!
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