表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷宮のナダ  作者: 乙黒
第四章 神に最も近い石
257/279

第百二十一話 神に最も近い石ⅩⅩⅠ

「なら、当面の目的はアダマス様の痕跡を探す事ですわね。太古の時代は今ほど地図が発達していなかったらしいですから、今よりも迷宮に残す“紋章”が大きな意味を持ったとの事ですから」


 現代と太古の冒険は大きな差が幾つもある、と言われている。

 例えば過去においてアビリティは発現されなかったためギフトもアビリティも持っていない冒険者が多数いたが、現代ではアビリティかギフトを持っている冒険者が大半でナダのような冒険者はほぼいない。それと同じように過去においては迷宮を通った証に壁に紋章を残す事が冒険者にとっては誉れであり義務とされていたが、現代においては紋章を残すことは少なく、冒険者の技能に迷宮内の地図の製作が加えられている。


「現代において紋章を残すのは過去の流儀の踏襲、もしくは自己顕示だからな――」


 それでも現代にも紋章を残す者がいるのは、冒険した証として、攻略した成果として、過去の風習に習い憧れる者が多いからだ。

 最もそれを嫌がる冒険者も現代には少なからずいて、冒険者内で共通化された紋章を残す者も多い。


「ここは太古の冒険者のみが通った道、すなわちどこかに紋章が残っている、というわけか――」


 オウロの意見は最もであった。

 過去において紋章は単なる証ではなく、後人への道しるべであった。もはやマゴスの攻略はどの記録にも残されていないが、紋章なら残っている可能性があるのだ。


「アダマス様以外の紋章はあるのかな?」


 ハイスが呟いた。

 まだモンスターが現れる様子がないので、『ラヴァ』の面々は目線を下や壁に向けながら氷や雪の中に紋章を探す。

 アダマスの紋章は冒険者の間ではとても有名であり、誰もが龍の足跡という非常にシンプルなものであると知っている。

 それらがあれば、アダマスが既に通った道なのだ。


「どうだろうな。でも、アダマス様は確実に通った。もしも私がアダマス様の大ファンなら、紋章を見つけただけで喜ぶんだろうが、私はそこまでのファンじゃないからな」


 カテリーナはかつての大英雄が通った道が通ることに、あまり感動を抱かないようであった。


「え、カテリーナって別の英雄の方が好きなの?」


 カテリーナの発言に驚きを隠せないナナカ。


「別に英雄は沢山いて、憧れる者も人によって違うという事だ。私はもう少し後の時代の英雄の方が身近で好きだからな」


 カテリーナは照れたように頬をかいた。

 英雄は様々な時代に存在する。アダマスの後の時代にも後世に名を残す英雄は存在し、彼らの物語は現代でも語り継がれているのである。


「でも、分かるな―。アダマス様は功績が偉大で、時代も昔だからとても遠い人に思えちゃうの。それに物語も眉唾物かも、って未だに学者たちの間で議論されているらしいし」


 ナナカはシィナが溶かした氷の中に紋章を探していた。


「……私は……英雄の中では……ギフト使いが好き。でも、ギフト使いはあまり紋章がないからなー」


 シィナは壁を溶かして道を作るので、紋章は特に探していなかった。

 アダマスの痕跡を探すのは他の仲間に任せたのである。

 シィナの言う通り、ギフト使いは過去においてあまり紋章を残さなかったとされている。それはギフト使いは後方でか活躍するのも理由の一つであるが、パーティーに正式には所属せずに様々なパーティーを渡り鳥のように変えていくギフト使いが多かったからだと言われている。


「――あったぞ」


 モンスターが現れず、何も異変がなく紋章を探すのみで七人の集中力が切れてきたころ、遠くの氷の中にナダが紋章を見つけた。モンスターはいなかったので焦ることはなく、ゆっくりと進む。

 氷の中に映る紋章は歪んでいるが、確かにそれは龍の足跡であった。


「これがアダマス様の紋章か。僕は初めて見るけど、こうやって見ると非常にシンプルだな――」


 氷に顔を近づけるハイスは、龍の足跡を興味深そうに覗いていた。どうやら見た事がないらしい。アダマスは迷宮内に多数紋章を残したとされているが、それはあまり使われておらず今も残っているような重要な場所だけであり、もう普通の道には残っていないとされている。

 だから現代の冒険者の中には、アダマスの紋章を目にしない冒険者も多い。


「これで私も、見たいと言っていた友人に自慢できるな!」


 カテリーナもハイスの横に並んでアダマスの紋章を覗く。カテリーナも見た事がないのかアダマスの紋章に興味津々だった。

 世の中には、アダマスフリークと呼ばれる者達もいる。彼らはアダマスの遺品をコレクションし、新たなアダマスの痕跡を探すのだ。そんな彼らの中には当然ながら冒険者もいるので、アダマスの紋章を見つける事を冒険の第一としている変わり者もいるようだ。そんな者達であっても、実際にアダマスの紋章を見る者は数が少ないらしい。


「ナダは何度も見ているがな」


「え、そうなの!?」


 オウロの発言に驚いたナナカ。


「何度かは知らないが、少なくとも私がナダとの冒険でアダマス様の紋章を見るのは、これで二度目だ。ナダはもっと多いんだろう?」


「……数えた事ねえよ」


 ナダはオウロの問いに吐き捨てるように言った。本当に数えた事がなかった。四大迷宮に挑む前のナダにとって、アダマスの紋章とは悪兆である。あまりいい目にあったことなどなかった。例えば宝箱を見つければ、何もない中身と共にアダマスの紋章があるという記憶が蘇る。


「流石……英雄だね……」


 シィナはアダマスの紋章がある氷を溶かしながら言った。


「……そうかもな」


 ナダは遠い目をしながら言った。

 アダマスの紋章がある場所の氷は分厚かったが、時間は多くあったのでシィナは時間をかけて氷を溶かした。すると、足元にアダマスの紋章があったのは変わらないが、先には下へと続く氷の通路があったのである。どうやら床が全て凍り付いているらしい。光が乱反射し、その氷はやはり青色に輝いていた。

いつも感想やいいねなどをくださり、ありがとうございます。

本作品の書籍版が10月30日に発売予定するので、「@otogrostone」というXのアカウントでキャラ紹介などもリポストしております!

ちなみにナダだけではなく、イリスやニレナのイラストも見れますので是非見て頂けると幸いです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ