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迷宮のナダ  作者: 乙黒
第四章 神に最も近い石
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第百十七話 神に最も近い石ⅩⅦ

この作品を最初に投稿してからもう11年も経ちました!

ここまで続けられたのは、読者の皆様の応援のおかげだと思っております!

本当にありがとうございます!

 ナダが目覚めたのは、氷の上だった。あまりの冷たさに思わず身がびくっと震えてしまう。寒さからだろうか。体はまるで血の気が引いたように冷たかった。ポリアフとの戦いの最中に感じていた”熱”はもうなかった。


「やっと起きたの――」


 目の前にはナナカが自分の顔を覗きこむように見ていた。どうやらこれまで目を開けなかったナダを心配していたようで、ほっと胸を撫で下ろしている。


「遅かったか?」


「いいえ、オウロやニレナさんよりも早いわよ」


 ナナカの安堵するような声が優しく響き渡る。

 ナダは体の状態を確認するように寝たまま左腕を空にかざすと、そこには斬られた筈の左手があった。何度か手をぐーぱーと雨後がしてみるが、問題なく武器も掴めそうだった。きっと再生したのだと思う。それだけではない。足の裏や腹部、ナダはポリアフとの戦闘で様々な怪我を負ったが、一つしてナダの体に残されていなかった。

 改めてナダは、これが英雄病か、と人から随分と外れてしまったのだとしみじみと感じた。


「オウロとニレナさんは?」


「隣で寝ているわよ。どちらも無事よ。不思議とどちらも全くと言っていいほど傷が無いほどわ――」


 ナナカはナダの質問に含みを持たせたまま答えた。

 ナダが確認するとどちらもナダの隣にいた。二人とも目を瞑っているので、気を失っているか寝ているみたいだった。

 ナダは気を失う前の戦闘を思い出し、二人の怪我の状態を思い出す。どちらも腕を切り落とされていた筈だが、今確認してみるとどちらの腕も“再生”していた。


 オウロは当然の事ながら、神に憑依されていたニレナもやはり“英雄病”の可能性がある、とナダは思った。胸の石を確かめたらすぐに分かることだが、気を失っている二人の胸部を確かめるような事をナダはしない。


「それで、ここで何があったんだ?」


 近くにいたハイスが声をかけてきた。彼の隣にはシィナとカテリーナもいる。どうやら氷の塔の上で戦っていた仲間以外は、意識を失う事はなかったようだ。


「……神と戦って、半死半生で勝った」


 嘘は言っていない。

 だが、あれは勝ったと言えるのだろうか、とナダにとっては疑問であった。


「あんな化け物と戦って勝つなんて、やっぱりどうかしているわね」


 ナナカが呆れたように言った。


「必死になって戦ったんだよ――」


 ナダは吐き捨てるように言った。


「そうか。どこかで予想していたがな――」


 そう頷くハイスは、ナダとオウロが氷の塔に昇った後の事を説明してくれた。

 どうやらハイス、ナナカ、カテリーナは必死になって氷の塔に道を作ろうとしていたシィナを守るために、ポリアフの生み出した氷の騎士たちと必死になって戦っていたらしい。ナダとオウロが上に登り切ってからは塔から離れて、いかに長く生き伸びるか、を念頭において戦っていたようだ。二人がポリアフと戦えば、必ずニレナが戻ってくると信じて。


 それから暫くの間、四人で戦っていた時に塔の上で異変が起こったようだ。まるで氷のギフトが潰えたかのように、塔が上からゆっくりと溶けて行ったらしい。それと共に四人が戦っていた騎士たちもまるで春が来たかのように氷が溶けて、水に戻っていったようだ。


 溶けた氷の中からナダ、ニレナ、オウロが現れるまでに随分と時間がかかった、とハイスは語る。どうやら塔は水に戻っていくが、この部屋自体寒いためポリアフの力の行使が無くなったとしても、すぐには解けなかったらしい。既に氷の騎士たちは動かなかったため、四人は氷が溶けるのを待ったようだ。上にいる三人の無事を確認しながら。


 四人が見守る中、三人はみぞれの中から現れた。時間は小一時間ほど経ったときのようだ。周りは広い霙が広がっていたが、四人がかき分けるようにして探したらしい。


「なるほどな。助け出してくれてありがとう――」


 ナダは手が赤くなっている四人に頭を下げた。


「別にいいさ。ナダも無事でよかった。怪我はないんだろう?」


「ああ、“消えた”さ――」


 ナダは心臓の石ころを強く握った。

 きっとポリアフが実演したみたいに、この“石ころ”が怪我を治してくれたのだと分かった。これまでにも何度か足や腕を失う事があったが、きっとあの時のポリアフのように再生していたのだと思う。ポリアフの様子から見て、再生の時には酷い激痛を伴うようだから気を失っていたことにナダは感謝していた。


「それで、ニレナは元に戻ったのか?」


 ハイスは本題に入った。

 六人はニレナを神から解放するために死ぬ気で戦ったのである。


「多分、元に戻ったさ――」


 神が勝ちを譲る、と言っていたからきっと元のニレナに戻っているとナダは思っている。だが、確信はない。まだ無事なニレナの姿を見ていないからである。


「それか。それはよかった――」


ほっとハイスは一息つく。


「……それだけじゃないんでしょ?」


 ハイスがニレナの無事に安堵している時に、長年の付き合いからナダの微妙な表情に気付いているナナカは問い詰めるように言った。


「何がだ?」


「納得していない顔をしているのよ。よく分かるわ。まだ戦っているような厳しい顔つきだから――」


「……そうかもな」


「で、それは何なのよ?」


「どうして神が、ポリアフが俺らを襲ったのかと思ったんだよ――」


 ナダは疑問に思っているのは、ポリアフが自分たちに牙を向いた理由と最後の言葉である。

 まず、ナダの知っている限り、十二神信仰において神は人々の隣人とされている。迷宮に潜り始めた頃、まだまだ力がなくモンスターに蹂躙されていた時代の人類は神からモンスターと戦うために『神の加護ギフト』を授けたと言われている。その頃から神は人々の為に尽くし、力を授けると言う形で共にモンスターと戦ってきた。


 それから時が経って、神が人の身に降臨するようになった。ナダの知っている記録では、主に学園時代の授業で習った事だが、強大なモンスターと戦う時に神は冒険者の身に降臨し、冒険者を手助けすることもあったようだ。


 だから神は常に冒険者の最も親しき共であり、なくてはならない存在だと学園では教えられる。現在では神が人の身に現れる事はなかったのだが、時折言葉を授ける事があり、そんな神が降りたギフト使いは現人神として信仰の対象になることもあったようだ。


 そんな神が人の身に降り、人を襲うなんて聞いた事がなかった。

 神と人が争う事など、国の歴史書や十二信教の経本にも書かれているのをナダは見た事がなかった。


「確かに……不思議……。私は師匠から神は隣人で……最も親しい友人と聞いた。私も神が降臨したら……あんな風になるのかな?」


 ニレナと同じギフト使いであるシィナは、神について怯えたように言った。話をよく聞くと、どうやらシィナはまだ神の言葉をはっきりと聞いた事も、神の言葉を授かったと言う人物にも会った事がないようだ。ギフトを通じて神の存在は薄っすらと感じているが、神との繋がりはそれだけらしい。

 ギフトに目覚める時も、薄っすらと神の声を“聞いた気”がしただけで、はっきりと言葉を告げられたことはない。


「……私は神の言葉をはっきりと聴いたというギフト使いを知っているぞ」


 そんな中、これまであまり口を挟まなかったカテリーナが重たい口を開いた。


「……どんな奴だ?」


 ナダは興味深そうに言った。


いつも感想やいいねなどをくださり、ありがとうございます。

本作品の書籍版が10月30日に発売予定するので、「@otogrostone」というXのアカウントでキャラ紹介などもリポストしております!

ちなみにナダだけではなく、イリスやニレナのイラストも見れますので是非見て頂けると幸いです!


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― 新着の感想 ―
11年!すごいですね! 私が読み始めたのは今年に入ってからなのですけど、1話からずっと面白いですから、更に特にめっちゃすごいことだと思います! 続けてくださってたおかげで読むことができます!ありがとう…
11年経ってどれほど更新を楽しみにしながら完結せずに途中で終わってしまった作品が多いことか。更新頻度は高くはないといえども、ここまで続けて書きつづけていただけることに驚嘆するとともに深く感謝いたします…
年月が経っても続けられるのは、まさに作者さんの努力の賜物でしょう。 月末楽しみにしています!イリスのデザインが気に入りました。
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